第263話「ケルトの森と配置された三つの石」
ケルトの森の最も深い場所では、濃い霧が地面を這うようにして絶え間なく流れていた。
ケルヌンノスが昨日配置した三つの石は、誰に動かされることもなくそこに佇んでいた。
その石の表面は冷たく、周囲の色彩を失いつつあるブナの木々とは対照的に、強い硬度を保っていた。
この森において、侵食は音もなく進んでいく。
木々の緑が薄くなり、まるで古い写真のようにその存在の濃度が極限まで薄れていく。
しかし、ケルヌンノスの力が注がれたこの三つの石だけは、その実体の重みを失わない。
一羽の無名の鳥が、霧の向こうから音もなく飛来し、石のすぐそばの地面に降り立った。
その鳥には、羽の模様も特有の鳴き声もなかった。ただ鳥の形をしたもの。
鳥は石の硬さを確かめるように首を数回傾げた後、再び灰色の空へと飛び去っていった。
ケルヌンノスはその軌跡をじっと見送った。彼は守るためではなく、忘れないためにここにいる。
失われたものの名前を呼ぶことはしない。ただ、その喪失の気配を森の記憶の底に沈めるだけ。
語りすぎない沈黙が、この領域を侵食の爪牙から守る唯一の防壁だった。
境界線は、目に見えない霧の壁となって、世界の果てを静かに、そして冷酷に区切っていた。
境界接触率:4.0%
観測層:第3層 記録単位:物質実体維持 対象:ケルト圏境界(石碑)
備考:無名個体による実体確認行動。物質の存在強度に異常なし。
記録主体:Archive 状態:稼働中




