↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Archive:神話戦争 ―信仰を奪う神々―  作者: 竜太郎


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
238/321

第245話「削ぎ落とされた街の輪郭」

久世恒一が資料室の窓を開けると、夜明け前の冷たい空気が室内に流れ込んできた。

街灯の光が、湿ったアスファルトの上にぼんやりとした輪郭を落としている。

その光の届かない路地の奥は、まるで最初から存在しなかったかのように深い闇に包まれていた。


柿崎はすでに席に着き、新しく用意した真っ白なノートを開いていた。

彼女の指先は、万年筆の黒い軸を静かに、しかし均等な力で握っている。

まだ一文字も書かれていない紙面が、室内の薄暗い明かりを静かに反射していた。


「昨夜、駅の向こうの古い民家が一つ、空き地になっていたわ」

柿崎は窓の外を見つめたまま、感情の起伏を交えずに呟いた。

「壊されたのではないの。ただ、誰もそこに誰が住んでいたかを思い出せなくなったのね」


久世は手元にある夢記録の束を整え、引き出しの奥へと収めた。

説明を試みる記述はすべて、世界の厚みをかえって薄くしてしまう。

ただ、起きた事象だけを正確に記述する。その沈黙に近い作業だけが、この資料室の正しさを支えていた。


世界が自らを削り落としていく速度は、人間の意識の隙間をすり抜けていく。

何も語らない無言の空間が、資料室の壁際にある古い棚の数を少しずつ増やしていた。

久世は新しく届いたインク瓶の蓋を開け、静かにペンの先端を浸した。


観測層:第4層 記録単位:局地消失記述 対象:生活圏(境界外縁)

備考:存在強度の低下に伴う、物理的建築物の非破壊的消失の確認。

記録主体:Archive 状態:稼働中

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。