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■ 第20話 「向こう側への侵入」

裂け目は拡大していた。


止まらない。


閉じない。


もはや“亀裂”ではない。


世界そのものが繋がり始めている。


アテナが観測を続ける。


「境界維持率、急低下」


「神話側法則、侵食進行中」


ポセイドンが黒く染まった海を見る。


「クソが……」


海が戻らない。


時間経過と共に、“向こう側”へ変質している。


ゼウスが低く言う。


「猶予は」


アテナは即答した。


「長くありません」


「完全接続が始まれば、神話側法則は維持不能になります」


沈黙。


誰も反論しない。


理解している。


もう。


“待つ段階”ではない。


ハデスが静かに言う。


「侵入するしかないな」


ポセイドンが振り返る。


「本気か?」


「源を止める」


「それ以外に方法はない」


ロキが笑う。


「やっと決まった」


アテナは険しい。


「成功率は低いです」


「向こう側では、こちらの法則維持が保証されません」


「存在崩壊の可能性があります」


ポセイドンが舌打ちする。


「最悪だな」


ゼウスは裂け目を見ていた。


広がっている。


近づいている。


理解されている。


「どのみち崩れる」


短い沈黙。


そして。


「なら、崩れる前に叩く」


ポセイドンが笑った。


「それでこそ神だ」


ハデスが領域を展開する。


冥府。


終焉。


死。


存在固定。


アテナが術式を重ねる。


認識維持。


距離固定。


言語安定。


ゼウスが雷を纏う。


神格強制維持。


ロキが裂け目へ近づく。


「向こう側、ね」


その目は笑っている。


だが。


今までの軽さはない。


「存在維持は任せます」


アテナが言う。


「ただし」


「長時間は保ちません」


ゼウスが頷く。


「十分だ」


ポセイドンが肩を鳴らす。


「で?」


「誰が行く」


沈黙。


次の瞬間。


ロキが前へ出た。


「俺だろ」


ポセイドンが眉をひそめる。


「即答かよ」


「当たり前だ」


ロキは笑う。


「一番最初に触ったの、俺だし」


否定できない。


ハデスが低く言う。


「戻れなくなるぞ」


「かもな」


ロキは軽く答える。


「でも」


裂け目を見る。


その目が細くなる。


「向こう、俺を見てる」


沈黙。


アテナが観測を続ける。


「対象側反応 上昇」


「ロキへの接続率 増加」


ゼウスが問う。


「理由は」


数秒。


そして。


「不明です」


ロキが笑った。


「気が合うんじゃね?」


ポセイドンが呆れる。


「笑えねえよ」


その時。


裂け目の奥。


“目”が再び開く。


以前より近い。


以前より鮮明。


そして。


明確な意思を持って、ロキを見る。


空気が止まる。


ロキだけが笑っていた。


「呼んでるな」


アテナが即座に否定する。


「違います」


「接続対象として認識されています」


「同じことだろ」


ロキは一歩踏み出す。


裂け目の直前。


空間が歪む。


言葉が崩れる。


距離が消える。


存在が揺れる。


ハデスが領域を強化する。


「固定するぞ」


アテナが術式を展開。


「認識維持 接続」


ゼウスが雷を構える。


「戻れなくなった場合」


ロキは振り返らない。


「その時考える」


そして。


裂け目へ、足を踏み入れた。


瞬間。


世界が反転する。


上下が消える。


色が崩れる。


音が割れる。


存在そのものが引き裂かれる。


ポセイドンが顔をしかめる。


「おい!」


ロキの輪郭が揺れる。


消えかける。


だが。


笑っていた。


「……いいね」


その瞬間。


“向こう側”から、無数の目が開いた。


沈黙。


そして。


初めて。


ロキが、笑みを止めた。


――観測記録


観測層:第3層

対象:ロキ


状態:外部領域侵入


更新:

存在維持 継続中


変化:

外部存在群との接触を確認


評価:

侵入成功


補足:

対象側 高反応


追加記録:

ロキの精神波形に異常発生


結論:

帰還保証 不可


(次話へ)


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