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第169話 空白の表札

現実世界。


朝。


住宅街。


曇り空。


静かな通学路。


郵便配達員が足を止める。


一軒の家。


何かがおかしい。


表札。


確かにある。


文字も見える。


だが。


読めない。


目で追える。


形も分かる。


それでも。


名前として認識できない。


配達員が眉をひそめる。


端末を見る。


住所は表示される。


だが。


数秒後には頭から抜け落ちる。


沈黙。


近所の住民も同じだった。


「前から住んでる人だよな」


「たぶん」


誰も確信できない。


その時。


電線。


黒い鳥。


十二羽。


並ぶ。


静か。


風だけが吹いていた。


観測層:第4層


記録単位:個体識別侵食


対象領域:現実世界


進行度:増加


異常分類:


意味侵食


継承侵食


備考:


地名・住所に続き個人識別へ拡大。


記録主体:Archive


状態:稼働中


記録は継続される。


侵食対象の拡大を確認。


誰も気付かない。


だが。


境界はまた一歩後退していた。


(次話へ)


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