呪い
それは二年前のこと。このお城に一人の旅人が訪ねてきた。ボロボロのマントを羽織った、枯れ木のような老婆だった。
シワシワの皺とシミだらけの顔に、ボサボサの白髪頭。曲がった腰で曲がりくねった杖をついていた。
どうやってこの丘の上の城までやって来れたのか不思議だったが、とにかくやって来た老婆は城門前で門番相手に物乞いをした。
「どうか宿をお貸しください」
「帰れ」
「せめて一切れのパンを」
「向こうへ行け」
「コップ一杯の水だけでも」
「うるさい、叩っ斬るぞ!」
そこへエリオス王子が、外出先から戻って来た。
「何をしている」
馬上から声をかけた。
「殿下っ、申し訳ございません。この物乞いがしつこくて。直ちに追い払います。おい、お前! すぐに立ち去らなければ本当に斬るぞ」
門番は剣を抜いてみせた。
「やめろ。このような醜い者の血で、この場所が汚れるのは好まん。放っておけ」
老婆は手にしていた杖を振り上げた。すると風がブワッと巻き起こり、一瞬にして老婆の姿が変わった。
ボサボサの白髪頭は美しい金髪に、皺シミだらけだった顔はツルツルの、ぱっちりとした目鼻立ちの美女に変身した。曲がっていた腰もシャキッと伸びて、明るく伸びやかな声で王子に言った。
「お噂通り、素敵な王子様。変幻の魔法で老婆の姿になっておりましたが、これが本当の姿でございます。世界中を旅している大魔法使いシーラと申します。お見知りおきを」
変身魔法を使える魔法使いを初めて見た王子は驚いた。門番と王子のお供たちも、初めて見るタイプの魔法使いの登場に慌てた。
「王子様、どうかお城へ一泊させてください。それが無理でしたら、どうか一切れのパンを。もしくはコップ一杯の水を。ひもじい旅人にお恵みを」
「殿下、得体の知れない者です。私どもに任せて、殿下は先に行ってください」
ルトヘルが王子に進言した。
「ああ。だが、水くらいなら」
エリオス王子は携行していた水筒をシーラへ差し出した。シーラはその手を掴んで、王子の手の甲に口づけをした。
「ありがとうございます、麗しい王子様。心から人を愛することができれば、呪いは解けるでしょう」
水筒を受け取ったシーラは、謎の言葉を残して立ち去った。




