二人きりの晩餐
しかし百着あるドレスの中で私に合うものは少なかった。
ウエストがきつくて入らなかったり、入ったと思えば胸がブカブカだったり、丈が長すぎたりした。スレンダー美女、グラマー美女、長身美女たちには合うのだろう。それにどれも妙に妖艶なデザインのものが多い。
なんとかマシなものを見つけ、ブルーナにドレスアップしてもらった。時間が押している。呼びに来たラウリに急かされて、エリオス王子の待つ食事室へ向かった。
王子専用の食事室はきらびやかだった。壁には宗教画が描かれたステンドグラス、天井にはシャンデリア。細長いテーブルに着席している王子は、待ちくたびれたのか食前酒を飲んでいる。
「遅くなって申し訳ございません」
シャンパングラスを置いてこちらを見た王子は、
「大丈夫。大して待っていない」
何だか訝しそうな表情で着席を促した。ラウリが椅子を引いてくれた。
ラウリが去るとメイド二人がやって来て、目を伏せて黙々と配膳を始めた。
やはり使用人は私を見ないように言われているらしく、グラスに飲み物を注いでくれるときも不自然な目配りだった。
決して私を見ない給仕係を観察して思った。シンプルな髪形に薄化粧、なのにこんなに綺麗だなんて。このお城では使用人まで全員美形なのか。
彼女たちが退室すると、王子と二人きりになった。気まずい。
「では改めて。ようこそエクリシア帝国へ。歓迎します、聖母様」
シャンパングラスを掲げて王子が言った。向かい合っている距離は遠い。
「おもてなし、ありがとうございます。私のことは名前で、アイリーナとお呼びください」
私に『聖母』の呼称を授けたのはダグラスだ。アルディア国民全てを同等に慈しみ、特別な対象を持たない存在として祀り上げるために。
しかし実物の私は俗物で、子どもを産んだ経験はなく母性的でもなく、国民全てを我が子のように慈しむ心は持ち合わせていない。
トンチンカンでしっくりしない呼称だと常々思っている。
「ではアイリーナ。私のこともエリオスと呼んでほしい。悠長なことはすっ飛ばして、距離を縮めよう。今からもう恋人のように接してくれて構わない」
それはいくら何でも急すぎる。じゃあハイ、あ~んしてエリオス♡なんて出来たら面白いけど、そんな度胸も愛嬌もない。
「心から人を愛することが呪いを解く条件なんですよね。その呪いについて、詳しくお聞かせ願えますか。エリオス王子のご症状も、差し支えなければ。お見受けした限り、ご病気のようには見えませんが……」
「そうだな、まずはそこから話そう。食べながら聞いてくれ」




