仮説
「その魔道具、素晴らしいですね。初めて拝見しました」
お城の長い廊下を歩きながら、ラウリが私の胸元のペンダントを覗き込むようにして言った。
「あらゆる外国語を翻訳できるのですか?」
「これはエクリシア語をアルディア語に翻訳する用に設定してあります。設定を変更すれば他の言語にも対応できます。設定の変更は魔道具師が行います」
「そうですか。それは少し不便ですね。しかしそのような魔道具が普及しているとは、さすがアルディア王国ですね。我が国では見たことがありません」
「翻訳機は必要ないんじゃないですか。すごく流暢ですね。エクリシア帝国では多言語を使いこなせる人が多いそうですね」
「ええ、まあそうですね。必要ない分野なので発展しないのでしょうね」
異論はあったが、議論を交わしたいわけではないので適当な相槌を打った。
それより気になるのは、この人バチバチに目を合わせてくるけど私の魅了を恐れていないんだろうか。
異常に目を合わせてくれなかった護衛の人たちと対極的だ。
魅了防御の魔法がよほど強力なのだろうか?
アルディアにも魅了防御の魔法を使える者はいたが、私の魅了には太刀打ちできなかった。
ラウリとルトヘルの防御魔法はそれを上回るのかもしれない。
人をちんちくりん呼ばわりするくらいだし。
そりゃ確かに、この人たちに比べたらちんちくりんだ。三人のビジュアルが良すぎるのだ。
白魔術師二人は魅了防御の魔法が効いているとして、王子は無防備のはず。なにしろあえて私に魅了されたくて呼び寄せたのだ。
なのに王子のあの冷めた視線。私を見る目に好意は微塵も感じられなかった。
ちんちくりん発言を一応注意したものの、王子も内心そう思ったのかも。
もしかして私の魅了が全く効いていない?
一目で沼に落ちるほどではないにしろ、少なからず好意的な雰囲気を感じるのが通常なのに。
ある仮説がひらめいた。ひょっとしてこの帝国の人間には私の魅了が通用しないのでは……。
厄災級に認定されている私の魅了は、実はアルディア国内だけで有効だったとか? この国では私もただの凡人に?
その仮説に目をみはった。
「どうかなさいましたか?」
超絶美形のラウリが薄ら笑いを浮かべたまま不思議そうに尋ねた。
「いえ、何でもありません!」




