顔合わせ
エクリシア帝国入りした。首都とは別のヴァレンシアという都市に、件の呪われ王子は居を構えていた。
都市全体を強固な壁で囲った城郭都市だ。きっちりと区画整備された街並みを見下ろす小高い丘に、赤屋根のお城がそびえたっている。赤と金色の縦三色に太陽神のシンボル、エクリシア帝国の国旗だ。
背の高い木々に囲まれたアプローチを抜け、入城した。
目を合わせない使者に案内され、王子が待つ部屋へ通された。
「アルディア王国の聖母様、アイリーナ様をお連れいたしました」
紹介を受け、重いローブを脱ぎ捨て歩み出た。
「アルディア王国から参りました、アイリーナ・エリカ・ウォーラルです。お招きいただき光栄です」
フードを被っていたため狭まっていた視界が一気に開け、こちらを凝視している王子と取り巻きたちの表情がくっきりと目に映った。
思わず目をみはってしまった。
艶のある美しい黒髪に白磁器のような肌、横長の色気のあるアーモンドアイ。瞳の色も吸い込まれるような漆黒だ。長いまつ毛に縁取られてどこかアンニュイな雰囲気を放っている。高く通った鼻に、きゅっと引き結ばれた形の良い唇。
顔の一つ一つのパーツもそうだが、頭の小ささといい、頭身のバランスといい、異次元に美しい。夢見る乙女が理想を描き込めた絵画のようだ。
とても同じ人間とは思えない。
絶句するほど美しいのは王子だけではない。両脇に立っている従者もそれぞれ系統は違うが驚くほど美形だ。
三人が放つ圧倒的なオーラに飲まれ、呆然としてしまった。
「遠路はるばるご苦労だった。エクリシア帝国第一王子、エリオスだ。私の右にいる者はルトヘル、左の者はラウリ。二人とも白魔術師で、魅了防御の魔法で一応の自衛をしている。アルディアの聖母様の魅了の前では、屁のつっぱりにもならんだろうが」
屁のつっぱり? 絵画から抜け出してきたような美しい王子から発せられた言葉とは思えない。
母国語ではないため、言葉選びを間違ったのだろうか。私はエクリシア語が話せないので、王子がこちらの言葉を話してくれている。
事前に確認したところ、この国の人間は語学に長けていて多言語を話せる者が多いらしい。
王子の右脇に控えるルトヘルが、エリオス王子に何やら話しかけた。
母国語で言ったため私には分からないと思ったのだろう。
ところがどっこい、私が身に着けているペンダント型の魔道具がその声を拾い、アルディア語に翻訳して再生された。元の肉声より大きな音量で、クッキリとした発音で。
「殿下。これが本当にあの、厄災級の魅了を持つと恐れられる聖母様でしょうか? ちんちくりんではありませんか。偽者では?」
ち、ちんちくりん?
確かに私は絶世の美女などではない。自国でも私より美しい者はいくらでもいる。それでも人々は私に心酔し、何者にも代えがたいと評する。
魅了ありきとは言え、それを抜きしてもまあ中の上くらいの風貌だと自己評価していた。なのに、ちんちくりん。
「ルトヘル、口を慎め」
エリオス王子がきつい口調で注意をした。
「無礼で申し訳ない。ラウリに部屋へ案内させる。世話係は生身の人間より使い魔が良いと聞き、部屋に用意してある」
「お気遣い、ありがとうございます」
ラウリが王子の横から進み出てきた。
「ではご案内します」
後ろで束ねた長い銀髪に、翡翠色の瞳。美しく中性的な顔立ちをしているが、背が高く、肩幅や胸筋の厚みもしっかりとあって男性的だ。
ずっと険しい表情を浮かべているエリオス王子とルトヘルと違い、ずっと微笑している。微笑というか、薄ら笑いというか。




