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断念

 その夜、一歩踏み込んで私をものにしようと試みたエリオスだったが、途中で断念した。


「やっぱり無理だ。これ以上君を欲しがってしまえば、きっと君を傷つける。君をここへ縛りつけて、アルディアへ帰したくなくなる。君の気持ちなどお構いなしに権力を行使するだろう。他の男たちと同じにはなりたくない。君に憎まれたくないんだ」


 ベッドへ身を投げたエリオスは、


「違う。いっそ嫌いになってくれ。俺がめちゃくちゃに壊れて、君ごと壊したいと思うようになる前に。もうアルディアへ帰ってくれ」


 と言った。


「そんな。もう少しなのに。もう少しで、この左手の痣が消えそうなのに。私は、愛されることを恐れていないわ。いっそめちゃくちゃに壊してよ。そのくらい愛さなければ、魔女の呪いは解けないのよ。あなたを救って、アルディアへ帰るわ。それが私の、聖母の使命なの」


「もう十分だ。痣の進行は止まり、薄くなった。痺れもマシになった。痣が広まって死ぬ恐れはもうない」


「本当に? 私が帰国した後に、再び広がる心配は?」


「ない。君が帰国した後も、ここで君を想い続けるから。遠く離れていても、会うことが叶わなくても、愛することはできると証明するよ。アルディアの楽園で、ダグラス国王のもとで幸せに暮らしている君を。愛する人の望む幸せをぶち壊して、無理やり俺のものにしたいとはやはり思えない。未熟だろうが、これが俺の愛し方だ。本物の愛などクソ喰らえだ」


「アルディアの楽園で、ダグラスのもとで暮らすのが、私の望む幸せ?」


「そうだろう? 君は常に帰りたがっている。彼に言われたから仕方なく俺のところへ来て、彼の期待に応えたくて必死だ。彼の望む聖母像でいたいのは、彼を愛しているからだ」


 断言されて驚いた。


「そうね、憎んでいるわ。楽園に戻ったところで、ダグラスに会うことはできない。勝手に愛して勝手に恐れて、魅了が薄れる四十路半ばまで隔離される。鏡越しに毎日話をするだけで、お互いに老いていくの。残酷よね」


 憎いダグラスに毎日の通信でささやかな復讐をする。確かにそれは私の幸せだ。

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