添い寝
エリオスは毎晩私を抱いて寝た。抱くといっても抱き締めるだけだ。窮屈で寝られないといえば離してくれる。
何も求められず、欲されず、添い寝するだけの夜が過ぎて行く。
まるで小さな子どもを寝かしつけるような手つきで、私を眠りに誘う。その優しさに身を委ねながら、魅了の効き具合を確認した。
「ねえエリオス、私のこと愛してる?」
「分からない。愛している、という気持ちがこれで合っているのか。そもそも俺は、愛するとは何かが分かっていない。愛するってどういうことを言う?」
「そうねぇ。愛するっていうのは……自分だけのものにしたい、誰にも渡したくない、一人占めしたい、ずっと手元に置きたい、って思うことよ。大事に持っておきたいのに、めちゃくちゃに壊したくもなるの。めちゃくちゃに壊して、自分も壊れて、いっそ全部終わりにしたいってところまでいったら、愛の終焉よ。愛と言う名の下に、全て悲劇に変わるの」
私を囲いこんで廃業に追いこまれた孤児院の院長や、私に手を出そうとして処罰された養父、救い出してくれたのにストーカー化した警官。愛を振りかざして破滅していった人々を心に描いた。
「そうか……それなら俺はまだ愛の序盤だな。めちゃくちゃに壊したいと思える境地には至りそうにない。大事にしたいんだ」
エリオスが言った。
「そう、それはまだまだね」
愛の始まりは幸福だ。一緒にいて嬉しい、楽しい、幸せだ。大切にしたい、喜ばせたい。そういう善良な想いが変わりなく続けば良いのに。
行き過ぎて、変容してしまった「愛してる」に苦しめられてきた私には、それで終わるとは思えない。今は善良でも、いきなり牙を剥いて凶悪な形に姿を変える。それが私の経験上の「愛」だ。全ては魅了のせい。相手のせいではない。
「左手の痣は、変わりない?」
エリオスの私への気持ちが愛と呼べるものか否か確かめるには、魔女の呪いを見れば一目瞭然だ。
「……ああ。薄くなったり小さくなったりはしていないが、良くも悪くも変わりがない。少しずつ腕の方へと広がり続けていたが、ここ数日は全く変化がない」
「広がるのが止まったってこと?」
驚いた。
「ああ、まだ数日間の話だから断言できないが、このまま広がらなければ止まったと言えるだろう」
「良かった、希望が見えてきたわね」
ここへ来てもう半月が経つ。魅了の効きが緩やかすぎて焦りを覚えていたが、初めて少しホッとした。
エリオスのそばにいられるのはあと半月だ。それまでに痣を消すことができるだろうか。呪いを完全に消し去るまでは安心できない。




