黒魔法使い
エリオスに見守られながらダグラスと通信をした。
帝都へ出かけてバタバタしていたため、国民向けの配信は明日の朝に行うと伝えた。こちらはいま夜遅いが、アルディアは昼間で、時間の感覚が曖昧になる。
「国民向け配信ではパントミントを食べて、感想を言おうと思ってるの。食べ切っちゃう前にエリオスも一緒に食べてね」
紙袋に包み直してもらったパントミントをエリオスに見せた。
「行列に並んで、買ってくれてありがとう。助けに来てくれてありがとう。エリオスが助けに来てくれると思ってたから、怖くなかったわ」
にっこり微笑んだ。エリオスは表情を硬くした。
「俺は怖かった。アイリーナがいなくなったと分かったとき、頭が真っ白になった。誰かを失うことを怖く思ったのは初めてだ」
不安げなエリオスをそっと抱きしめた。
良い兆候だ。徐々に魅了が効いている?
傷ついた獣を手懐けるように、優しく背を撫でながら観察をした。この美しい獣の心を奪うには、なにを与えれば良いのだろう。
「寝支度をしてくる。アイリーナは寝ていてくれ。今日はさすがに疲れただろう」
「そうね、さすがに。昨日言っていた『リベンジ』はお預けね?」
「もうそういう気分にはならない。手っ取り早く寝れば愛が芽生えるだなど、愚かな考えだった。おやすみ、よく休んでくれ」
私の髪を撫で頭にキスをしたエリオスは、キッパリとした態度で寝室を出て行った。
ベッドに入り、すぐには寝つけなかったが気づくと眠りに落ちていた。エリオスはあれから戻って来なかったようだ。
ブルーナに起こされて目覚めた。
「おはようございます、アイリーナ様。よくお眠りでしたので起こすのも忍びなかったのですが、もうじき朝と呼べる時間が終わってしまいますので……」
うひゃあと飛び起きた。朝イチで配信をすると言ったのに、もうお昼近いなんて完全に寝坊だ。大急ぎで準備をした。
「ブルーナ、昨日はありがとう。助けてくれて」
髪を櫛でとかされながら、改めてお礼を言うとブルーナは丸い目をさらに丸くした。
「何のことでしょう?」
「ブルーナが、櫛から私の髪の毛を取って届けてくれたんでしょう? そのおかげで私の居場所が特定できたと聞いたわ」
「私はエリオス殿下の命令に従っただけですから、エリオス殿下のおかげですよ。まあ、私が人間ではなく使い魔だからこそ、遠くへいち早く届け物をすることもお手のもの、なんですけどね!」
得意げにヒゲをピンと立たせてブルーナが言った。
「ブルーナも空を飛べるのね」
楽園の人型使い魔二人は、霧状になって空を飛ぶことができる。
「んにゃわけないでしょう。猫が空を飛ぶなんて。にゃははっ。エルメリアに召喚されたんですよ」
「ブルーナを使役させている黒魔術師って……エルメリアに来てたの?」
「にゃにゃっ? エリオス王子殿下ですよ、私の契約主は」
「えっ、そうなの!?」
「ご存知なかったですか、エリオス殿下は優秀な黒魔法使いなんですよ」




