依頼
「派遣?」
「ああ。エクリシア帝国へ一カ月。君を貸してほしいと申し入れがあった」
手鏡の向こう側でダグラスが言った。
エクリシア帝国、聞き慣れない国名だ。
「帝国の王子が奇病に冒されているらしい。王子の看病をぜひ君にしてほしいそうだ。君なら王子を救えるかもしれないと言うんだ」
「私が? まさか。私に医学の心得なんてないわよ。ただの風邪ならともかく、奇病って何それ、移らないの?」
「伝染病ではない。移りはしないそうだ」
「そう。てっきり新たな処刑方法を思いついたのかと思ったわ」
皮肉に笑うと、ダグラスは痛いところを突かれたような顔をした。
「まさか。愛してるよ、アイリーナ。君を一カ月も外国へ遣るなんて、考えただけで気がおかしくなりそうだ。向こうへ行っても毎日の通信は欠かさないでおくれ。必ずだよ」
すでにおかしくなっているダグラスにそれ以上の嫌味を言うのはやめて、詳細を尋ねた。
エクリシア帝国は人口八千万人程度で、穏やかな気候と優秀な国民性で、我が国と同等に発展しているそうだ。
その帝国の王子が魔女の呪いにかかり、病に冒されている。呪いを解く方法はたった一つ、王子が心から人を愛すること、らしい。
「それで私?」
「ああ。君ならどんな男もイチコロだろう。そう時間は要さないと思うが、病の回復にどのくらいかかるか分からないから、念のため一カ月。先方はもっと長く希望したが、こちらの限度だ」
「そう……」
何の相談もなく、勝手に物事が決められるのはいつものことだ。
「慈善事業ってわけじゃないないわよね、見返りは大きいのね?」
「ああ。我が国にとって有益な取引になる」
「じゃあ頑張るわね。お国のために」
ニッコリ作り笑いをしてみせたが、本心だ。
私のせいで国政は一時期機能不全となり、暴動が起こり、貴族が何人も自殺した。被害は甚大だった。
その償いという気持ちもあるが、現状の楽園生活を維持するための財源を、なるべく自力で賄いたいと思う気持ちが大きい。ただの負の存在でいたくない。
私の日々の配信を受信するための手鏡の販売料も、ある程度の収益は上げているそうだ。




