愛してるの呪い
ああ、『愛してる』はやっぱり呪いのような言葉だ。
愛してるから愛してほしい、愛してるからそばにいてほしい。愛しているから、許せない。そう主張して、私の人生を害してきた人たちの顔がよぎった。
「私のことを、ちゃんと分かってる?」
鏡越しの偽りの私しか見ていないくせに、何が分かると言うの。そう言い返したいのに、デクスター閣下の指摘はきちんと的を射ていた。
私は万人に愛されても、たった一人の特別な一人にはなれない。なりたくもない。なのに常に寂しくて、虚しくて空虚だ。夢のような楽園で一人きり、ただ年を取って魅了が失われるのを待つだけの日々は。
「分かってるよ」
「じゃあ分かっているはずよ。私は誰のものにもならないって」
「それを決めるのは君じゃない。全世界に認めさせる。アイリーナは俺のものだって」
歪んだ笑みを浮かべ、私の腕を取ったデクスター閣下は部屋の片隅を指した。布でぐるぐる巻きにされた物体が置いてあった。私の配信鏡だ。
「今からあれで配信する。俺とアイリーナが愛し合っている姿をね。全信者の前で愛を誓い合うんだ。そうすれば『みんなの聖母様』から解放されて、俺のたった一人の妻になる。アイリーナを孤独から救うにはそれしかない」
強い力でドサッとベッドの上に倒された。腰に乗り上げてきたデクスターは、ポケットから取り出した拘束具を慣れた手つきで私の手首に嵌めた。ベッドの柵に繋ぎとめられた。
「待って! それは駄目、絶対に駄目。そんなことをすれば、あなたとエクリシア帝国が憎まれて、制裁を受けることになるわ。あなたはエクリシアの王族でしょう。影響が大きすぎるの」
「覚悟の上だ」
「待っ」
ドガンッと凄い音を立てて部屋のドアが開いた。勢い良く飛び込んで来たのは、エリオスだった。
そう分かった次の瞬間には、蹴り倒されたデクスターが吹っ飛んでいた。壁に身体を打ちつけ、くの字に折れたデクスターを一瞥し、エリオスはこちらに駆け寄ってきた。
「アイリーナ、怪我はないか」
肩で息をしながらモタモタと拘束具を外すエリオスの後ろでは、続けて入ってきたラウリがデクスターを取り押さえている。
「怖い思いをさせてすまない。俺の落ち度だ」
拘束具の跡が少しついた私の手首を見て、苦々しい表情でエリオスが言った。
「ラウリ、アイリーナを連れて先に戻ってくれ」
ラウリと部屋を出る前に、通信鏡を忘れず回収した。




