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誘拐



 気がつくと、ふかふかのベッドの上にいた。


「やあ、目が覚めたかい?」


 身を起こして声の主を見た。


「……デクスター閣下……」


「俺のこと、覚えていてくれたんだね!」


「まあ、今日会ったばかりですし……」


 頭が鈍くぼんやりする。あのキラキラした粉のせいだろう。あれには覚えがある。催眠の魔法をかけるための粉だ。


「閣下が、あのキャリーケース男を使って、私をここへ連れて来たのですか?」


「ご名答! さすがアイリーナだね」


 全く悪びれることなく、嬉しそうに目を輝かせるエリオスの従兄弟を見た。


「どうしてこのようなことを……」


「どうして? 言っただろう、話をしてもっと俺のことを知ってもらいたい。仲良くなりたいって。そのための時間を少しでいいから頂戴って頼んだのに、冷たくあしらわれちゃったからね。駄目だよ、ファンはもっと大切にしなきゃ」


 ふふふと笑うデクスター閣下にゾクッとした。


「ファン?」


「ああ。何を隠そう、俺はアイリーナの大ファンだ。エリオスたちの前では言えなかったが。この一年、アイリーナの配信を毎日欠かさずに聴いていたんだからね。アイリーナのことなら何でも知ってるよ。この前、アイリーナが作って飲んでた夏レモン蜂蜜ベリージュース、俺も真似して作って飲んだよ。すごく美味しかった。遠い世界のアイリーナと同じことをしてるってだけで幸せ感じてたのに、まさか現実に、目の前に現れるなんて夢みたいだよ。まだ信じられない。この興奮、アイリーナに分かるかな」


 早口で興奮気味に捲し立てるデクスター閣下に目をみはった。まるで夢を見ているようだというなら、私も同じ気持ちだ。

 初対面のわずかな時間で魅了が効きすぎておかしいと思っていたら、まさかのリスナーだったとは。エクリシアで私の配信を聴いている人がいるなんて思いもしなかった。


「どうして閣下が私の配信を。受信用の手鏡をお持ちなんですか?」


 受信用の手鏡はアルディア国内で国民向けにしか販売されていないはずだ。


「言うなれば運命の出会いだね。不法な商売をしていた者を取り締まった際に押収したんだ。外国製の受信鏡だ。スパイ活動に使用されている可能性もあると、そのままの設定で様子を見ることにしたんだ。そうしたら君の配信が始まってね。スパイ活動の隠れ蓑かもしれないと、連日じっくり見ているうちにすっかり沼ったよ。アイリーナ、なんて可愛いんだ! はああ、可愛くて死ぬ! まさに天使だ」


 胸の痛みを押さえるようにクロスさせた両手を、ばっと広げてデクスター閣下が言った。

 サラサラの明るい金髪にサファイア色の瞳。彫刻のように端正な顔立ちをした、私よりよほど天使っぽい見た目の閣下の、盲目っぷりにおののいた。魅了がバキバキにキマっている。


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