キャリーケース
エリオスが持ってくれていた荷物を受け取り、店内の席で待つことにした。
店は奥に細長く、真っ直ぐ通った通路の左右に席があり、最奥の行き止まりは特別席で広く、半個室になっていた。
「空いてる席のうち、一番いい席で」とエリオスに指定されたため、迷わずそこを陣取った。
半分仕切られたこの席でなら、配信できるかしら? 通信鏡は布でぐるぐる巻きにして、一応持って来ている。
他の席のお客さんはそれぞれの食事と会話に夢中で、わざわざ奥の席を気にかける様子もない。一人で喋り倒していたら変だが、エリオスが来てからなら配信のテンションで話しても自然だろう。
地域や場所を特定される心配もないわよね?
流行り廃りの激しい場所の飲食店で、国の王子も知らなかった新しい店なのだ。遠く離れたアルディア国民が知っている可能性はかなり低い。
と配信のことを考えていると、ガラガラガラと床を転がる音が近づいてきた。
バカでかいキャリーケースを引いた人がやって来た。旅行者と思わしきその男性は、私が座っている最奥の部屋に入ってきた。
「相席良いでしょうか?」
「えっ、あっ、すみません。もうじき連れ合いが来ますので」
「一人来ても、二人でしょう。ここ広いから、八人は座れますよね」
それはそうだけど。強引な人だなという驚き以上に、アルディア語で話しかけられたことに驚いた。
どうして私がアルディア人だと分かったんだろう。それともこの人もアルディア人?
「あの……」
聞こうとすると、男性は流れるような手つきでキャリーケースを開けた。中身は空っぽだ。
何だかヤバいと感じてさっと席を立ったとき、男は手の中に握っていた小瓶のコルク栓を抜いた。キュポンという音と共に、瓶の中からキラキラした粉末が舞い出た。
ヤバい、これは。




