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行列

「観光名所は後でぐるっと馬車で回ろう。外観を見るだけになるが、美術館や大聖堂は建物自体が文化財になっている。中を見学したければ、数日こっちに滞在してもいいが」


「外を見るだけで十分よ。観光はまたいつかゆっくり、エリオスの呪いが解けた後に来るわ」


 文化財の美術館や大聖堂に興味は引かれるが、今は遊びに来ているのではない。仕事を気にしながらではなく、何の心配もなく楽しめる状況で観光できる日が来ると信じて、今はお預けだ。


「そうか。ではこの辺りの店を回ろう」


「あっ、あのお店! すごい行列ができてる。何のお店かしら?」


「食べもの屋らしいな。この辺りの飲食店は流行り廃りが激しく、コロコロ形態を変えるからよく知らんな」


「じゃあ並んでみましょう」


 エリオスの腕を取った。


「並ぶ?」


 信じられないものを見るような顔でエリオスが私を見下ろした。


「どういう発想だ。先頭へ行くぞ」


 さも当然というように長い行列を飛ばそうとするエリオスをぐいと引き留めた。


「駄目。王子なら並ばなくていいとしても、今はお忍びでしょう。忍んでる意味なくなっちゃう」


 一瞬固まったエリオスが


「確かに」


 と言った。


「行列の食べ物は諦めるわ」


「いや、並んで手に入れよう。気になるんだろう?」


 今度は私が目を丸くした。行列に並ぶという発想のなかった王子が、私の好奇心に付き合って並んでくれるというのか。


「ありがとう。優しいのね」


「いや別に。優しさからではない」

 

 素っ気なく返されたが、行列に並び始めて五分と経たずに、


「アイリーナは店内で座っていてくれ」


 と言ったエリオスはやっぱり優しいとしか思えなかった。

 このお店ではカウンターでオーダーする際に、持ち帰りか店内で食べるかを選べるようだ。店内飲食の場合は席代の追加料金がかかると立て看板に書いてあるためか、持ち帰り客が多いようだ。


「私が並ぼうって言い出したのに、悪いわ」


「並ぼうと言い出したのは俺だ。だが、女性を共に立たせていると思うと苦痛で我慢ならん」


「私は楽しいけど。こうして一緒に並んでいる時間もきっと良い思い出になるわ。あなたの隣で立っているのが苦痛な女性なんて、世の中にいないんじゃないかしら」


 見慣れてはきたが、改めて見るたびにはっとするほど美しいエリオスだ。いつ見てもどの角度から見ても美しい。

 どんな苦行の最中でも、エリオスを見れば心の負が軽くなりそうだ。美しいって凄い。美しさが武器になると代々信じられてきた国の、さすが王子様だ。


 改めてマジマジと感心する私に、エリオスは浅く息を吐いた。


「俺が苦痛だ。頼むから座って待っていてくれ」

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