従兄弟閣下
「ここでラウリと待っていてくれ。なるべく早く用事を済ませて戻る」
城内の馬車停め場でエリオスが言った。
馬車の中で大人しく待っていたが、トイレに行きたくなってきた。馬車の外で見張りをしているラウリに声を掛けた。
「殿下が戻られるまで我慢できませんか? しょうがないですね。では庭園にある休憩室へ行きましょう。ぱぱっと済ませてくださいね」
馬車待機を命じられていたため、渋々といった様子で連れ出してくれた。御者がその場に残った。
景観が美しく整えられた庭園を歩き、木陰にある休憩室でぱぱっと用を済ませた。
来たときと同じように日傘を差すラウリと寄り添って歩いていると、向こうから男性が歩いて来るのが見えた。
ピタリと足を止めたラウリは私に日傘を持たせてから、前へ歩み出た。
「デクスター閣下、ご無沙汰しております。お変わりございませんか」
大きく声を張って話したので、私の翻訳機がちゃんと音を拾い、仕事をした。
ラウリの言葉がアルディア語で再生されるのを聞いて、デクスター閣下と呼ばれた男性はギョッとしたように私の方を見た。
「えっ、どういうこと? まさかラウリの恋人?」
「いえ。エリオス王子殿下の、大切なご客人です」
「じゃあ何で、エリオスじゃなくてお前と歩いてるんだ? ていうか、早く俺のこと紹介してよ」
「閣下、彼女はエクリシア語を話せませんので、アルディア語で失礼いたします」
とここまでのやり取りを翻訳機越しに聞いていた私は、慌てて日傘を閉じて下ろした。
どうやらかなり身分上の相手のようだ。弟王子かと一瞬思ったが、それなら殿下と呼ばれるだろう。
「閣下、こちらはアルディア王国より旅行中の、アイリーナ・エリカ・ウォーラル嬢です。エリオス殿下が本城での用事が終わられるまで、私と待機しています。アイリーナ嬢、こちらのデクスター様は、エクリシア帝国の王弟殿下のご嫡男で、エリオス王子殿下の従兄弟にあたられます」
ラウリの紹介を受けて、貴族式のお辞儀をした。なるほど、エリオスの従兄弟か。金髪碧眼であまり似ていない。
「アイリーナ、ようこそエルメリアへ。エリオスを待っている間、俺が城内を案内してあげるよ」
デクスター閣下もアルディア語で言った。そのフレンドリーすぎる申し出に驚いて、ラウリを見た。
「閣下。エリオス殿下に馬車で待つようにと命じられておりますので、勝手な行動はできません」
「誰に意見している。俺がそうすると言ってるんだから、責任は俺が持つ。気の利かないエリオスに代わって、客人をもてなすと言ってるんだ」
「閣下、そう仰られても……エリオス殿下のご許可なく、勝手なことは」
「固いことを言うな。ほんの一時間、いや三十分くらいなら良いだろ。城内だ」
ラウリとデクスター閣下がアルディア語で押し問答していると
「何を揉めている」
良いタイミングでエリオスがやって来た。




