家族
ラウリの薄ら笑いを思い出した。片っ端から寝てみろなんて、なんというアドバイスを。
「私とも、とりあえず寝れば愛が芽生えると思って?」
「そうだな、そう期待している。アイリーナは他の女たちとは違うから」
そうならいいのに。今のところ、エリオス王子に魅了が効いている気配はない。初対面時よりは好意的に感じるが、それは王子の希望的観測に基づいた歩み寄りだろう。私を好きになれれば良いと望むがゆえの。
惚れたい、惚れられたいと、望みは合致しているのに、お互いに心の芯は冷えている。
『家族さえ愛していない冷淡な男』だという王子だが、私だってそうなのだ。
「私は両親の顔も知らないの。捨て子だったから。家族だから愛するのが当然だっていうのは幻想よ。好きになれない家族だっているわ。一方的にエリオスのせいってわけじゃないでしょう」
「……どうかな」
エリオス王子は私を引き寄せて肩を抱き、家族の話をした。
明日訪れる本城には、ご両親と弟王子が暮らしているらしい。
「母は弟を溺愛していて、俺のことは嫌っている。昔から。可愛げのない子供だったからな。周りもそれは認識している。俺が魔女に呪われたことが知れ渡れば、母が黒幕だと疑われかねない。だからこの呪いが広がる前に、水面下で解決する必要がある」
王子はそう言って、手袋を嵌めたままの左手を顔の前にかざした。
「え。呪いのことみんなは知らないの?」
「言ってなかったか? この城の者で、関わりが深く信頼の置ける者たちのみ知っている。公表して得することなどないからな」
「私は知っちゃって良かったの? ダグラスも」
「背に腹は代えられない。アルディアの聖母という最終の希望を貸し出してもらうためには、誤魔化しはきかないだろう。それに遠い異国だ。我が国の王位継承権のゴタゴタにも関心がないだろうしな」
確かに、そう言われればそうだ。
「という訳で今さらだが、この呪われた手のことは口外しないでくれ」
「もちろん。ペラペラ喋る気なんて元から無いわ」
「ありがとう。この痣は、俺が人を愛せない冷酷な人間だと証明している。元々家族の一人でも愛していれば、呪いは解けたんだろうからな。そんな人間が一国の王に相応しいとは思わない。王位は弟に譲りたいが、俺が変死して策略の疑いをかけられては堪らんだろう。だからアイリーナ、一刻も早く君に魅了されたい」
上体を起こしたエリオス王子は私の顔を覗き込み、切実な顔をした。




