床下手
そう決意をして事に臨んだものの――……
「ちょっ、ちょっとストップ、おやめください」
王子の無粋な手を掴んで止めた。
エリオス王子は無表情に怪訝そうな色を浮かべ、組み敷いた私を見下ろした。
洗いあがりのセットしていない黒髪がサラリと顔にかかり、白磁器のような頬はほんのり上気していて、良い香りを纏っている。恐ろしいほどの色気を発しているエリオス王子だが、恐ろしく下手くそだった。
まずキスが下手くそ。ムード作りも下手くそ。触り方もぎこちない上に力加減が強く、痛い。
胸をぐいぐい揉んでくる手に我慢しかねて、ストップをかけてしまった次第だ。
「あの、ちょっと痛いです。もう少しソフトタッチで、緩急をつけて相手の反応を確かめながらの方が良いかと思います」
「そ、そうか……」
まさかダメ出しされるとは思っていなかったのだろう。驚いたような狼狽えたような顔をした王子は、探り探りといった様子で手の動きを変えた。
「こうか?」
「ええ、さっきより良い感じ」
「他に要望があれば、遠慮なく言ってくれ」
「良いの?」
「ああ。その方が俺のためになる」
「では失礼ながら遠慮なく」と気になった点をいくつか挙げると、王子は真剣に耳を傾けたあと、私をじっと見つめて
「ありがとう」
と言って丁寧にキスをした。それから隣にゴロンと仰向けに寝転がり、
「明日リベンジさせてくれ」
と言った。
「いま指摘されたことを頭で整理して、イメージトレーニングを積んでから臨めば、少しはマシになるはずだ」
真面目か、と思ったが、エリオス王子は本当に真面目なのだと改めて知った。
何でもスマートにそつなくこなせそうに見えるため、女好きではないにしろ、いざこういう行為に及ぶとなればさぞ上手なのだろうと勝手に思っていた。三十人もの女性を囲っていたのだし。
と思っていたら、まさかのド下手くそだった。
「恋人候補の美女たちとは、経験を積まなかったの?」
「何人かと経験はしたが、誰にも悪く言われなかった。すごく良いとしか褒められなかったよ。立場上、言えなかったんだろうな」
気落ちする風でもなく、王子は淡々と言った。
「とりあえずまずは片っ端から寝てみろ、愛はそれから芽生えるものだとラウリに助言されてやってはみたが、途中で虚しくなってな。ラウリが言うには、愛していると言い続ければ、自己暗示にかかり脳が錯覚を起こして、嘘も誠になるそうだが、それで心から人を愛せたことになるのか。そもそも俺は、家族さえ愛していない冷淡な男だ」




