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悪夢

 その夜は悪い夢を見た。


 私は物心がついたときには孤児院にいた。厄災級の魅了持ちであるのに、なぜか親には捨てられ、生まれてすぐに孤児院前に置き去りにされたのだ。

 その孤児院の院長先生や、養女として引き取ってくれた伯爵が、愛していると迫ってくる夢だ。愛している、ずっと側にいてくれ、一生離さない。

 狂気に歪むその顔に怯え、走って逃げた先にも老若男女色んな人がいて、私を捕まえようとしてくる。

 逃げて逃げて、辿り着いた先にはダグラスがいた。両手を広げて私を抱きしめた。


 緩やかなカーブを描くハニーブロンドにアメシスト色の瞳。にまりと笑って、愛してるよと言った。


 はっと目を覚ますと、薄暗い中で真ん丸の瞳が光っていた。柔らかな毛の生えた手でぷにぷにの肉球で、私のお腹の辺りをムニムニと押している。ブルーナだ。


「アイリーナ様、大丈夫ですか? 随分うなされておいででしたので、大丈夫にゃー大丈夫にゃーと、さすっておりました。起こしてしまいましたね」


「目が覚めて良かったわ。ありがとう、ブルーナ。優しいのね」


 ブルーナのお腹辺りに抱きついた。フリルエプロン越しに柔らかさが伝わってくる。温かい。

 使い魔のブルーナには魅了が効かないので、安らげる。例え好きだと告げても安全なのだろう。

 好きな手触り、好きな色、好きな雰囲気。そういうものは私にもあるけれど、「愛してる」はよく分からない。


 人々が私に向ける「愛してる」は妄信的で熱狂的で、暴力的で狂気じみているから。

 愛とは本来穏やかな気持ちで、自己犠牲的で美しいものだと書いてある本を読んでもピンとこない。


 人を愛することを知らない私が、エリオス王子の呪いを解くなんて本当にできるのだろうか。


『人を愛することができれば、呪いは解けるでしょう』


 魔女が言ったという言葉を思い出した。人を愛することができれば呪いは解ける。王子に向けられた言葉だが、まるで自分に言われているような気がした。


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