全肯定
「アルディア国王との通信はもういいのか?」
後方からエリオス王子が何食わぬ様子で聞いてきた。
「はい。次はアルディア国民向けの一斉配信を行います。エリオス王子は鏡に映らないようにお願いいたします。大騒ぎになるので」
「分かった。その角度でこの距離なら、大丈夫だな。ここから一歩も動かないようにする。こちらは気にせず、ドーンとやってくれ」
ドーンか。通信鏡の設定をいじり、準備をした。ちなみに国民向け配信用の受信手鏡もダグラスは持っているので、一国民としてこれも見るだろう。
一人のことなど気にしてられない。コホンと軽く咳払いして、雑念を吹き飛ばした。通信鏡のスイッチを入れると同時に、人格スイッチも切り替えた。
「みんなぁ〜、元気にしてたかな? 少しの間配信をお休みしててごめんなさい。ようやく配信できる環境に落ち着いたわ。ねえ見て見て、今日のアイリーナはこんな感じなの。どう、似合ってる? バカンス先だからちょっと張り切ってオシャレしちゃいました。恥ずかしいな。また明日もこのくらいの時間に配信するから、楽しみにしていてね。以上、サマーバケーション中のアイリーナでした!」
やり切った。エリオス王子の前でもブレずにやり切った自分を褒めたい。
普段はダラダラと一時間近く喋っていたりもするが、さすがに王子に監視されながらはきつい。
配信を終え振り向くと、黒曜石のような瞳とかち合った。
無表情か不機嫌顔がスタンダードのエリオス王子が、呆気に取られたような顔をしていた。
ええ、分かっております。おま、キャラ変わりすぎだろと思ったんですよね。痛いヤツだと思ったに違いない。
「……見事だな。アルディア王国、全国民の心を掌握しているのだな。聖母としての役割を全うする心意気。余計な情報は一切漏らさず、薄い内容をセンセーショナルに話す技術。雰囲気作り、全方位への配慮、完璧だ」
まさかの全肯定。正しく理解されているのか疑問だが、そんなことは関係なく私の心にドーンと響いた。
己に鞭打って、鏡の前では陽気な天真爛漫キャラで居続ける。それを努力だと認めてくれたのだから。魅了される人々に消費されても消費されても、決して無くならない。そんな私で居るためには、何事も深く捉えずに受け流していくしかないと、とっくに割り切っていたのに。
不意打ちで褒められて、不覚にも胸に響いた。




