黒痣
「えっ。たったそれだけで呪われ!?」
そこまでの話を聞いた私は、つい素で驚いてしまった。
「だって何も悪くないですよね。不審者をホイホイお城の中に入れるわけにいかないのは当然ですし、せめてお水だけでもって渡したエリオス王子は優しいですよ。なのに呪われるとか、意味が分かりません」
エリオス王子は目をパチクリさせたあと、苦虫を噛み潰したような顔をした。
「第三者に言われると、そうかもしれんと思えるな。とにかくそういうわけで、魔女に呪いをかけられた」
「呪いとは具体的にどういうものですか?」
これだ、と言って王子は左手の白手袋を外した。真っ黒い手が現れてギョッとした。
「魔女にキスされたところに黒い痣ができた。日増しに痣が広がり、痺れも出てきた。呪詛の専門家の鑑定では、放って置くとこの呪いはやがて全身を蝕むであろうと。最終的には全身が真っ黒になり、身体が自由に動かなくなり、死に至るそうだ」
恐ろしい未来を想像して言葉を失った。
淡々と語る王子だが、白磁器のように美しい肌の一部が真っ黒で明らかに異質だ。
それがどんどん身体へ広がっていく恐怖と日々戦っているのだと思うと、胸がぎゅうと苦しくなった。
「食事中に気持ち悪いものを見せてすまない」
「気持ち悪くなんてありません。憎らしく思っただけです。許せません、その呪いが」
「アイリーナ、俺に愛させてくれ。君の魅了で、自我を失うくらい盲目的に惚れさせてほしい。覚悟はできている」
長いまつ毛に縁取られたアーモンドアイが真っ直ぐに私を捉えた。目頭と目尻の切れ込みが深く、流れるように色気のある目だ。深い夜みたいな瞳には吸引力がある。
吸い込まれて、無意識に「……はい」と答えていた。
これじゃ逆だ。私が美形王子に魅了されている。あぶないあぶない。
「あ、えっと。そうしたいのはやまやまですが、こちらへ来てから魅了の調子がいまいち、というか、まったく発揮できてない気が」
「君の魅了効果は、最初は油断させる程度で徐々に効いてきて、途中から段階を飛び越えて一気に追い打ちをかけてくる、とアルディア王から聞いている。ならば初日はこんなものだろう。旅の疲れも出ているだろうし、食事のあとはゆっくりして、早めに休むといい。共に寝るのは明日からにしよう」
淡々とした口調でさらりと言った。
「と、共に寝る? とは?」
「とは? そのまんまだが。同じベッドで一緒に寝る。少しでも早く魅了されるためには、それが一番良いだろう」
「よ……」
良いのか良くないのか、そもそもその発想がなかったため、混乱した。ダグラスはそれを了承済みで、私を貸し出した? まさか。あのダグラスが?
そもそも「エクリシアの王子を魅了させれば良い」としか聞いていない。私の魅了を持ってすれば、特に何もしなくても楽勝だと思っていたからだ。
何もしなくても楽勝ではなかった場合、私からアレヤコレヤして誘惑するべきなの? そんなことやったことがないのに。
誰か正解を教えて!




