配信
「今日は暑いので、水分をよくとってね。アイリーナは、夏レモン蜂蜜ベリージュースを作ったよ。ん〜美味しい♡ みんなも作ってみてね〜」
特製ジュースをストローで飲み干して、笑顔でバイバイと手を振り、鏡映りに気をつけたままスイッチを切った。
一見普通のスタンドミラーに見えるが、これは貴重な魔道具で、スイッチを入れると鏡に映る映像を転送することができる。
受信用の小さな手鏡も魔道具で、国民向けに販売されている。毎日大勢の国民が鏡の前で、私の配信を楽しみにしているのだそうだ。国王のダグラス曰く。実感はあまりない。
「本当にみんな喜んで見てくれてるの? こっちからはみんなの反応が分からないから、疑心暗鬼なのよね。受けると思って発信してることが、実はダダ滑りしていないかしらって」
「アイリーナは存在してるだけで尊いんだから、発信する内容なんて他愛ないものでいいんだよ。むしろ他愛もないものでお願いしますよ。影響ありすぎるから」
手鏡に映るダグラスが言った。ダグラスと通信をするときにはお互いに通信鏡に姿を映して、それをお互いに受信するための専用の手鏡を手元に置いて話す。
ちなみにダグラスは元夫だ。私に執着し、何かもかなぐり捨てて国が傾きそうになったため、離婚に至った。
それでもなお私はダグラスの、王家の庇護下にいる。厄災級の魅了を持つ私を野放しにしては危ない、管理下に置くべきだと議会の満場一致で決定したからだ。
しかしそれは大義名分で、ダグラスが今も私を求めていることは手に取るように分かる。
まばたきも惜しむようにしっとりと私を見つめるアメシスト色の瞳。嬉しそうな哀しそうな、何とも言えない表情で、常に衝動的な気持ちに耐えている。ご馳走を前にして、決して浮かれないようにと自らを律している忠犬のようで、なんだか気の毒だ。
と同時に少しいい気味だなと感じて、溜飲が下がる。
好きすぎて苦しいという理由で、ダグラスに殺されかけたことは一度や二度ではない。危険な存在だという理由で魔女裁判にかけられ、処刑される寸前まで経験した私は、重度の人間不信だ。
私に好意を向けてくる人間は、いつその気持ちを裏返して牙を剥いてくるか、分かったもんじゃない。好き、とは狂気で、凶器になり得る。
だからこそ、上手くコントロールする必要がある。今のダグラスのように。生身で会わなくなってもうじき一年になる。




