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海と精霊の旅 ーオーストラリア紀行  作者: 夏乃緒玻璃


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ナポレオンフィッシュと泳いだ日

「ようこそケアンズへ」


 空港に着くと、日本語の横断幕。

 アナウンスもすべて日本語だ。


 並んでいるのもほとんどが日本人。


 少しは異国感が欲しいけれど、疲れている。逆にテキパキと手続きが進んでくれて安心だ。


 と、列を飛び越えて数人の一団が前へ行く。テレビで見たことがあるタレントだ。



 有名人は並ばないのか、いやらしいな。


 まあ、アジアのリゾート地のように、空港職員が堂々と「早く手続きして欲しければ」と追加の金を要求してくるよりはマシか。


 ◇◇


 ケアンズは港町。


 神戸や横浜に少し似ている。


 とりあえず初日は夜半の到着で少し疲れたので、地元のコンビニでスパムやらチーズやらを買って、ホテルで過ごす。


 翌日はグレートバリア・リーフでダイビングの予定だ。


 ◇◇


 翌日、食事がてら港町をうろつく。


 大小様々な船が、マリーナに停泊している。


 グレートバリア・リーフに行くにはケアンズから船で、ポンツーンという人工浮き島に行くしかない。


 色々な旅行会社から、フェリーが出ているので、出発時間や料金で選んで申し込めばいい。


 港に面したストリートには、地元の小さな旅行代理店が立ち並ぶ。

 日本語、英語適当にパンフレットを数枚抜いて、まずは食事。


 とりあえず名物のマッド・クラブのボイルのランチ。


 味は濃厚だが、身は引き締まっていて、確かに美味。

 しかし、一人前にしては量が多すぎる。


 もしかして注文、間違えられてないか?


 案の定、会計時にカニが二人前になっていたのを確認。


 そういえば店員、カニのハサミみたいなポーズをして、陽気な兄さんだなと思ったが、あれはカニのマネじゃなくて、二人前でいいのかって意味だったようだ。


 お値段約一万円。まあ、量を考えたら安いが、しばらくカニは食べなくていいと思った。


 これを書いている今、確認したが現在はケアンズからポンツーンは2時間程度らしい。

 当時は3時間かかった。


 250人くらい乗っている、でかいフェリーで、ゆっくりと行く。


 湾を抜けると潮風が吹き付けてくる。


 香水のウルトラマリンみたいな匂いがするが、海からなのか他の乗船客からなのか、わからない。



 海が、眩しい。

 全てが青い。

 こういう世界もあるんだなーーハワイの空も青かった、セブ島で、周囲に誰一人いない海で現地ガイドと二人きりで潜った海も、青かった。


 でも、あの頃は一人ではなかった。

 陸に上がれば仲間がいた。

 ホテルに戻れば誰かしら連れがいた。


 今は、一人きりだ。


 私がここで、この地球の裏側で風に吹かれているのを、知るものは一人もいない。


 このまま、溶けて消えても、誰も気付かない。


 物思いに耽っていると、誰かが「タートル!タートル!」と叫んでいる。


 見やれば海面を海亀が泳いでいる。


 昔なら捕まってスープにされていたな?

 などと思い、クスリと笑う。



 ポンツーンに到着。


 この人工島については、有名だからここには書くまい。

 要は、グレートバリア・リーフの環境を守るために、海上に浮いた形で観光ターミナルを作ったものだと理解できれば充分だ。


 いよいよ海に潜る。


 しかし特別な感慨はない。

 世界三大ダイビングスポットに潜るのだというワクワク感は多少あれど、正直、海中はどこで潜ってもだいたい美しい。


 私が今までに、一番感銘を受けたのは、伊豆大島の夜間に、車のライトだけを頼りにスポットに向かった夜間ダイブだった。


 無数の魚たちが、海中でゆらゆらと眠っていた。


 ハンドライトを向けても、寝ぼけたまま。

 指でつつくと、慌てて飛び起きたかのようにプルルッと震えて泳ぎ去っていった。


「竜宮城のようだ」


 竜宮など知るわけもないが、なぜかそう思った。


 ◇◇


 ダイビングは2人一組。フリーの客同士で適当にバディを組まされる。


 私の相手は、たぶんイギリス人? いや、わからないが、少しショーン・コネリーに似た、学者風の物静かな人だった。


 互いの装備をチェックし合い、シュノーケルのマウスピースを咥える。

 少し塩辛い。ゴムの匂いと味がする。ボンベに繋がるレギュレーターとは、海上で交換する。


 サンゴの海中を行く。



 サンゴ、サンゴ、見渡す限りサンゴ礁だ。

 これはたしかに美しい。



 ショーンコネリー氏の動きはかなりしなやかだ。


 海中でどう動くかは、すなわちエアの消費スピードに係り、こういう上手い人と組むと、同じタンクを背負っていても、より長く海中を楽しめる。


 サンゴ礁の脇から、巨大な魚影。


 ナポレオンフィッシュだ。


 聞いていた通り、人間大好きで、体を押し当てて遊んでくる。


 しばらく私とショーンコネリー氏の間に挟まり、併泳してくれた。


 ある程度、餌付け等されているのかもしれないが、野生の魚類がここまで人間になつくというのは不思議なものだ。



 海中を進みながら、私はまだ予定を決めていなかった明日も、ここに来ようと決めていた。


 その日のディナーは、ワニとカンガルーとエミューのプレート。


 食べると証明書を出してくれる、観光客向けの変わり肉の料理。


 味は、まあーーなんで日本人が好む肉が牛豚鶏なのか、あらためて理解した。


 翌日はどのフェリーに乗るか、パンフレットを並べてみる。


 一枚、完全な英文だが「快速冒険艇」というのがある。小型の快速クルーザーで、大型フェリーの約半分の時間でポンツーンに到着する。


 これで行こう。


 小さい分、多少揺れるだろうが、私も船舶免許を持っており、小型クルーザーなら何度も操縦していた。

 心配は全くしていなかった。


 ◇◇


 翌日。


「た、田中ア!お前は、大した奴だったあ!」


 激しい揺れの中で、私は声に出して叫びそうになった。

 まさかと思った。「田中の酔い止め」がなかったらやばかった。

 あいつはきっと、私がこのタイプの快速クルーザーを選ぶことを予想していたに違いない。

 癪だが、助かった。


「湾」という安全地帯とは全く違う。


 太平洋の外洋の荒波は、小さな船を翻弄し、横になっていても体は左右に90度以上何度も揺すられ、足は何度も頭の上にきた。


 絶叫マシンに一時間半、乗りっぱなしのような感覚だ。


 ポンツーンに着いた時には疲れ果て、滞在時間のほとんどを寝て過ごした。


 それでもやはり、せっかく来たのだからと、一本だけ潜ることにする。


 バディはまた外国人で、ジュリアン・レノンに似た人だった。


 ナポレオンフィッシュは、今日も現れたが、昨日と同じ個体ではないだろう。


 こうして魚と泳ぐ贅沢なリゾート体験ができるまでになるには、さぞかし苦労もあったろう。


 誰かしら、頭のおかしなツアー客がこの巨大な友人を虐めたりすれば、彼らは人間を警戒し、嫌いになり、寄ってきてはくれなくなるのだから。

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