家族
僕の涙は止まることを知らずに、嗚咽も交えてうずくまっていると母が僕の背中をさすり、僕の体を幼子を抱くように、壊さないように優しく抱きしめた。
その後、久しぶりに僕は両親と食事をした。そして両親に今まで会ったこと、彼女との突然の決裂、心を閉ざし誰ともか関わらないようにしたこと、僕をすくいあげてくれたあの人との出会いをすべて話した。両親は僕の話を何の文句も言わずに最後までただ聞いてくれた。
僕が謝らなければならないというのに、父は『頼りになれなくてすまない。』、母は『突き放してしまって、ごめんなさい。』と謝られた。
一方的に突き放してしまったのは僕の方であるというのに父と母は僕に謝るのだ。その意味や意志や意義がわからず、俯いていた顔を上げると父と母の顔を見た。両親の顔には責めるようなものは何処にもなく、言葉だけでは伝わらないものを、両親の心を知った。
僕は逃げていたのだ。言葉だけを汲み取り、自身の中で完結させようと勘違いや勘繰りを繰り返して、いつしか顔を見ることすら忘れていたのだと、今、初めてわかった。
翌日、知り合いから逃げるためではなく、かなさんに会うために隣町への電車に乗った。いままでイヤホンで外音を遮断して、本を読んで視界を遮断していた世界には、さまざまな人で満ちていることに気がついた。病院に行く疲れた顔の老婆、よれたワイシャツを着ているのに何処か充実してそうな顔をしたサラリーマンなど、世界はいろんな人で満ちていて、それが集まったのが社会なのだと、ぼんやり考えていた。
彼女はいつもと同じようにベンチでタバコを吸っており、そんな彼女に今度は僕から話しかける。
進藤「かなさん、僕は誰でしょう?」
彼女と出会った頃されたことへの意趣返しのように、彼女の目を軽く塞ぎ、後ろから話しかける。
香奈「翔君もやるようになったね。」
と彼女は微塵も驚きもせず返す。
進藤「かなさんはいつも落ち着いてますよね。」
香奈「そんなことないよー、私だって落ち込むし、泣くことだってあるよー」
進藤「僕はみたことないですけど、」
と何となく悔しくて言う。
香奈「それは私が大人のお姉さんだからだよ。」
進藤「僕は子供だってことですか。」
香奈「そうだよ、君はまだ子供で、私は大人。そこにはほとんどないようで大きな違いがあるものだよ。」
進藤「そうですか。」
と子供扱いされたことに悔しくなり、そっけない返事をする。
香奈「そう落ち込むなよ翔君、みんないつか大人になるけど、大人もいいことばかりじゃないんだから。」
と何処か遠いところを見つめるような目をしてかなさんは言った。その頃の僕には大人というものが何なのかわからなかった。
その年の冬だった、かなさんと最悪な別れ方をしてしまったのは。




