シークレット・ミッション 〜彼と私の通信手段を改善せよ〜
某社による引用リポストで応募した作品のフルバージョンとなります。
是非御一読ください。
*物語の演出を強める為、改題いたしました。 (11/3)
駅に向かう車の中で私はドライバーの彼と、足りなかった朝食の飢えを間食しながら、たわいの無い会話と共に、お腹と心を満たしていた。
一人で趣味の旅行に行く私を快く車で駅へ送ってくれる彼は仕事で同行できないけど、せめてもの罪滅ぼしに駅に送ってくれている。
「ごめんね。折角の休日に早起きさせちゃって」
「気にするなって、昨日の晩飯も今日の朝飯も最高に旨かったよ、これくらいのお返しはカノジョ様にしないとな」
「駅から近い所に住んでるカレシ様の家に泊めて貰ったから当然です。でも大丈夫だったの? ベッド占拠しちゃって、しっかり眠れたの?」
「まあな、たまにはソファーで眠るのも悪くないって、もし真夜中まで共同作業してたら寝過ごしちゃうだろう。それよりも、ちゃんと眠れたか? 遅くまでソシャゲしてたんじゃねぇの」
気遣いを忘れない彼の優しさと、悪戯の同時攻撃が私を襲う。
「もうっ! 肝心な所でデリカシーが無いんだから、いつまでもガラケーだからって貴方はPCゲームを楽しんでたんじゃないの?」
いつまでもジャブを受けてばかりの私ではない、同等の強さで迎え撃った。
「そっ、そんな訳ないだろう。寝坊する訳にはいかないんだから、ログボ回収と周回だけで直ぐに切り上げたよ」
「へぇ〜。認めるんなら追及しないであげるけど、デスクトップの電源消すの忘れない方がいいよ」
「えっ! 忘れてた? やっぱり一緒に寝た方が良かったのかなっ……。お、そろそろ着くから準備しといてな」
軽めの追撃の後に彼の気遣いの声掛けから、二人で(私が多めに)堪能していたポテチの最後を運転中の彼の口へと運んだ後、ゴミをまとめ始めた。
ところ変わって駅舎にて。
「で、新幹線何時だっけ」
「ん〜。もうそろそろかな」
駐車場から手を繋いで改札口付近までやって来た私達は新幹線の到着時間を気にして電光掲示板を見上げた。
「九時十二分のやつかな」
「違うよ、反対線のヤツだよ」
「えっ? キミの実家付近が終点じゃん、何しにどこへ行くのっ」
私が一人で旅行へ行く時は決まって、行き先を公言しない。
土産話と戦利品を楽しんで貰うために敢えて何も言っていないし、信頼してくれている彼も追求もせずに戦果報告を楽しんでくれているけど、今回ばかりは動揺が隠せないようだった。
私は盆暮れ正月に実家へ帰省しない主義だ。
理由として、そろそろ良い歳だから両親や親戚筋から受ける在り来たりの苦言に嫌気が指すからだ。
お付き合いしてる人は居るのか、会うだけでいいからお見合いしろとか、結婚は早い方がいいだの、煩わしいのもあるが、最大の理由として、彼との甘い生活を披露するのが恥ずかしいのだ。
それを愛しい人も理解してくれているし、同じ感性を持ち合わせているから、一年を通して大半を共に過ごすこともあって、自然と彼も実家に戻る事が少ない。
「せやね……じゃあ、ホームに行こうかなっと」
恋人繋ぎをしていた手を離すと彼が持っていてくれた鞄から乗車券を取りだし、優しく引き離したのちに自分のホームポジションにセットする。
「ちょっ、説明責任」
「必要ないでしょう? いつもそうじゃない」
悶絶中の彼に冷たい視線をおくると、口元に人差し指を誘ってウィンクを送る。
一層の不安が募る大事な人は顔面蒼白になると何かを言い掛けるが口籠もっている。
「実家に帰るだけよ、じゃあね」
流石に見かねた私はひとこと真顔でこぼすと、幸せ空間から疑惑不安が横行する空間にシフトした場所から離れて改札口へと向かう。
そう、やっぱりソノ反応だよね。アレが確認できてるなら、そういう反応にはならない筈だ。
彼の悪い癖。ガラケーの彼は通話以外ではメールでしか連絡が取れないのだが、メールを着信音で認識する事ができたら、現行の用事を優先する為に確認は後回しにしている。
当然のことながら、私の連絡すらも確認せずに放置しているのが現状なのだ。
「ちょっとまてよっ」
有名俳優がl扱う、お決まりの台詞を荒々しく放つと、改札を抜けようとしたわたしは追いかけてきた彼に引き戻されると向き合わされる。
「実家に帰るって何? 意味わかんないだけど、何もないこの時期に帰るって、どう言うことだよ」
「先月メールしたよね? 兄の結婚式に行くって」
胸ポケットにあるハズの携帯を指さすと彼を睨みつける、そこそこの敵意を含めて。
「そうだったっけ? え! バッテリー切れ? なんでこんな時に……」
慌ててポケットから目的の情報を確認を急ぐが、あえなくして電源が強制的にオフになったようで、アタフタしている姿が微笑ましい。
「ふぅ〜ん、そろそろバッテリーが寿命なんじゃないかしら? フフフッ。次機種変するならスマホにするって言ってたよね? その時が来たんだじゃないのっ」
浅ましい笑顔を浮かべながら私は、現状の打開策を提示する。
「ああああ、仕方ないよな。前からの約束だったし……でもおかしいなぁ、寝る前に充電して、まだ持つハズなんだけどな」
「バッ、バッテリーの寿命なんて、そんなモノだよ! そんなコトよりも、戻ったら一緒に機種変に行く?」
想定外の状況に遭遇した彼は、バッテリー切れの通信手段を眺めながら自身の記憶を確認するが、観念したように溜め息をする。
「おう、仕方ないなぁ。最愛の彼女様の御要望にお応えするより他ないな。あっ、そろそろ本当に時間だな」
苦笑いしながら承認の意志を表明すると、駅の放送が新幹線の到着が迫っている事をアナウンスが始まり、ディスカッションの終決を求めてきた。
「うん、行ってくるねっ♫」
勇足で改札口を通り抜けた私の心は澄み切った空のように晴れやかであります。
昨夜。彼が寝静まった後、充電中の線を携帯電話から抜いて置いたたのは何があっても秘密だ。
「やった! 作戦成功っ」
心の中で呟いて小さくガッツポーズをキメる。
ガラケーの相方とは既読のつくアプリも使えないし、顔を見て話したくても映像を使用した通話もできない。
「あれっ? もしかして……」
彼は「仕方ないなぁ」って言ってなかったかしら? いや言ってた、絶対に言ってた! 間違いない。
『仕方ないなぁ』の言葉が出てくる時は、なにかしらの含みがある時の名台詞なのだ。
今回は、それを意味するのは私の犯行は見抜かれているという事。
背筋が凍りついたような感覚に見舞われた瞬間、恐る恐る振り返ると、彼は「ヒヒッ」と笑いかけると片手で銃の形を模ると、弾を打ち出すモーションと「タイホ」の口パクが始まる。
ごめんなさいのポーズと舌をペロりと出して、可愛く笑顔で返したつもりだったが、彼は短く腕組みをする。
「機種変デート楽しみにしてるからなっ」
自身に満ち溢れた笑みで駅舎に居る人達の注目を集めるような響きわたる声で伝えてくる。
普段、あの人は目立つような行動は取らない、そんな時は私の恥ずかしがる顔を求めている時だ。
「ちくしょうっ! 大成功だよっ」
両手で顔を覆った後に届かない右ストレートを策士なアイツにおみまいするとサムズアップが返ってくる。
ダメだ。やっぱり、この人には勝てそうにない。
程なくすると列車が到着する音楽が鳴り出す。
少しだけ意地悪な表情を浮かべるアイツは小動物を祓うように手を振ると『急げ』と口を動かす。
私も頷く事で応じる「バイバイ」と手を振るとあちらも返してくれて、それを確認するとホームへと急いだ。
「素直に機種変するって言えばいいじゃん! 悪だくみしてる私がバカみたい」
真夜中にトイレの為に目覚めた時に思いついた『充電の線を抜く』という、お粗末な秘密の任務は大失敗に終わったが、ミッション・コンプリートとも言えるだろう。
なにはともあれ、これからの彼とのスマホライフは楽しみでならない。
早く次の休日が来てほしいと思った事は、この時以上にないのだけど、両親と親戚筋を迎え撃つ兵器として申し分のない威力だと思う。
実家で家族から投げられる憂鬱な審議や易々と払いのける事ができる親戚筋の陰謀も、何ということなく対処できる内容の鉄壁の防御策が画策できて私は大満足です。
(終わり)
今までファンタジーしか書いて来なかったので、創作中はとても新鮮でした。
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