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最終話 Say Good bye Forever【Eternal Love】

「…………」


 焔山は静かに目を開けた。先ほどまでとは違う景色。焔山は自分が蘇ったことを実感した。ふと、手に心地よい熱を感じる。セィラだ。セィラが手を握ってくれているのだ。焔山は起き上がると、セィラにキスをした。強く、相手を求める。ひとしきりセィラを味わい、唇を離す。


「ン…………」

「セィラを守る。永遠に。それに、愛する。それが俺自身に課した使命だから……」

「焔山さん……」

「さて……」

「(救世の相――――復活した彼の顔に浮かぶその相を見て仏は悟る。己が使命は彼を目覚めさせることだったのだと。そして構える。彼にやられるために、彼を真の救世主として目覚めさせるために――――仏は額に力を溜める)」


 大威徳明王の額の白毫に光が集まる、集まる、まだ集まる。先ほど焔山を葬ったそれとは段違いの威力の光撃が、くる。だが、焔山はフッと笑い、右手を手刀の形にして目の前に構える。


魔王の(サタン)――――」


 焔山の右眼が蒼く輝く。天使の証【蒼印の天眼(スカイアイ)】だ。天界より追放された堕天使サタン。そのサタンが神の遣いとしての使命に目覚めることにより、大天使ルシフェルとしての神聖を取り戻しつつあるのだ。左眼は依然紅き輝きを放つ。悪魔の証【赫印の灼眼(ビーストアイ)】。光と闇の魔力を宿した一焔山は、今までとは比べ物にならない力、【神魔力】を手に入れていた。焔山は手刀に神魔力を注ぐ。闇と光が混ざり合い、黒白の妖光が手刀から漂う。


「(目覚めよ、救世主――――)」


 大威徳明王の額から光線が放たれた。光線は徐々に太くなり光の柱となって焔山に襲い来る。

 手刀を振りぬく焔山。空間がガオンと歪む。


大鎌(デスサイズ)!」


 黒白の閃光が光の柱を切り裂き、大威徳明王の五つの頭を根元から斬り飛ばした。そして、その進行方向上にいた放心、諦観、激怒、慟哭、そして安堵の表情を浮かべていた五大悟天たちもろとも、遥か遠くの涅槃西ブッタガヤ仏塔をも消し飛ばした――。




「あ、あー」


 何だか長い夢を見ていた気がする。


「あー、うーあー」


 見上げているのは男。とても怖い真っ黒い男。死神が僕を迎えに来たんだ。


「おー。おー。おばぁ。おばぁぁぁぁぁぁぁ」


 上手く体が動かない。背中を動かしてるのに舌が痙攣して目玉を動かしてるのに腕が動く。言葉を発しているのに足がばたつくし涙の代わりに小便が出る。もう苦しくて苦しくてしょうがないのに舌を噛み切ることさえできない。自分じゃ上手く死ぬこともできない。だから死神さんに頼む。殺して。殺して。殺して。僕を殺してよおっ! もう僕は十分苦しんだじゃないかっ! もう、もう……苦しみ(生き)たくない……。そう思っていると、奇跡的に上手く言葉が紡げた。死神が、頷いて……っ! ごろじでぇっ! 早く、僕を、


「ぼ、ぼぐぼごろびで……」

「分かった」


 スラリと背から銀刀を抜き取り、黒死焔山はデーヴァ・マハーヴァイローチャナの首を刈り取った。

 宙空を舞う首の表情は、不思議と穏やかであった。きっと彼は天国に行けたのだろう――――。




「これで、よかった。そうですよね、焔山さん」

「ああ、奴はこれ以上生きていても無駄に苦しむだけだ。いっそのこと殺してやるのが奴の為にも一番よかった」

「そう、ですか。……ダメですね私。手を汚したのは焔山さんなのに、ただ人が死ぬのを見ただけでこんなに震えてしまっている。やっぱり、やっぱり私は怖い。これからもこうして人の死と向き合っていくのかと思うと、手が震えて、私、私――――」

「セィラ」


 焔山はセィラの前に片膝をつき、震えるセィラの手を両手で優しく握った。「あっ」と吐息を漏らすセィラ。そのセィラに真っ直ぐな眼差しで見つめる焔山。思いが全て伝わるように、一つ一つの言葉にありったけの思いを込めて、焔山はセィラに語りかける。セィラの頬が主に染まる。


「君は俺の天使だ。君の心が恐怖に震える時はいつでも傍にいよう。君は俺の聖女だ。君の心を脅かすものがいればたちまちのうちにこれを排除しよう。君は俺の全てだ。君がどうしても耐えきれないときはこの世界諸共俺は君と心中しよう。そして、君は俺だけのものだ――誰にも渡さない。どこにも行かせない。一時たりとも君から離れない。決して君を傷つけない。決して君を失望させない。決して君を裏切らない。だから――もし何かに君が怯える時は俺がその不安を拭ってあげよう。そう、こんな風にだ――――」

「あっ――――」


 キス。焔山はセィラの唇に唇を重ねる。舌は絡めない。キスを解き、焔山はセィラの耳元で囁いた。


「愛しているよ。セィラ」

「は、は、は――――」


 頭から蒸気を噴き上げ顔中を真っ赤にして動揺するセィラ。やがて、その瞳から一筋の涙を零し、心からの笑顔をその満面に浮かべ、頷いた。


「はい!」

「よし、いい子だ」


 焔山とセィラは歩き出す。果てなき使命に向かって。


 (焔山)

「? ミーシャ」


 焔山は振り返る。そこには誰もいない、だが確かに聞こえた。焔山は目を閉じる。目に見えないが、確かにミーシャがいる。何かが唇に押し当てられる感覚――――。


 (焔山。さよなら。――――ずっと愛していたわ)


 その気配はすっと風に溶けて消えていった。きっと、彼女も旅立ったのだろう。ふっと口元を緩めると、初めて自分を愛してくれた女性へ焔山は別れを告げる。


「俺も愛していたよ。ミーシャ。いや、()()()()()。……I Love You.そして、Say Good bye Forever……」


 きょとんとした顔で見上げてくるセィラの頭をぶっきらぼうに撫でる焔山。セィラの嬉しそうな顔に、焔山も思わず微笑を漏らす。


「あ……」

「どうしたセィラ」



「笑顔――初めて見ました」



 2人の行く先は果てなく遠く。救世の旅は今始まったばかり――。


【Fin】

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