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第16話 魔獣【Behemoth】  

 ベヒモス教団跡地

 

 足跡(あしあと)

 大地に穿たれた巨大な足跡(そくせき)

 楕円形のクレーターの表面には米粒のような残骸――――かつてベヒモス教団と呼ばれた建物の――――が点々としている。

 雲さえ突き破る果てしなき巨体が悠々と悪魔の大地を歩いている。

 その歩みは黒死焔山を抹殺するためのもの。

 ドス黒い瞳が遥か遠く――――メフィスト教団を見つめる。

 舌なめずり。

 紫色の毒々しい舌がじゅるりと口の周りを一回転。涎が飛び散る。

 遥か足元を逃げ惑う糞悪魔の哀れな一匹に直撃し、一瞬でその存在を魂ごと溶滅せしめた。




 666年前。

 地球は地獄の門より這いずり出でた悪魔達によって破壊されつくした。

 その中でも特に猛威を振るった七匹の悪魔は【七大悪魔】と称され今尚恐れられている。


 大陸の如き巨体で大地を原初の更地へと踏み均した【暴獣ベヒーモス】

 三日三晩荒れ狂い地と海との境を粉々に並び変えた【壊龍レヴィアタン】

 天災の如く各地に現れ未だ消えぬ傷跡を刻み込んだ【災鳥ジズ】

 醜悪なる姿と漂わせる激臭で見る者全て発狂させた【忌虫ベルゼブブ】

 恐暴なる性格で人という人を殺しに殺し恐れられた【恐鬼フンババ】

 その魅了を以て雄という雄を虜とし子種を独占した【性女メフィスト】

 破滅の象徴としてその名を呼ぶことすら禁じられた【魔王サタン】


 どれも今や半伝説と化した存在。だが、その伝説の悪魔が今ここに復活していた。

 雄叫びを上げる。地を震わし衝撃が彼方まで突き抜ける。

 【魔性解放】によりその本性を具現化させたウンザオヴァーは心の中で呟いた。

 (待っていろ黒死焔山。いや●●●●――――)



 

 メフィスト教団跡地教祖室

 

 黒死焔山はミーシャ・スターラの腰に腰を叩きつけていた。パンパンパンパン。


「ああんっ! いいわ焔山もっと来て! ぁあん!」


 艶のある声でミーシャが啼く。むんむんとフェロモンが立ち込め焔山を欲情へと駆り立てる。ピッチが速くなる。


「ミーシャ! ミーシャ! 愛してるんだ気持ちいいって言えよっ! 許さないなら許さないで許すからもっと俺に抱きしめさせてくれっ。頼むっ!」

「いいわいいわもっと激しく!」

「ミーシャァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

「んぅ!」


 囁く。そっと。耳元で。ウンこを漏らしているミーシャ。愛しい。そう思う。


「愛してる」

「んゅううううううううううううきもちぃぃぃぃぃいいいいいいいわあああああああ!」


 建物の外から突如としてこの世のものとは思えない大音声の咆哮が届きメフィスト教団の建物を揺らした。すぐに服を着る黒死焔山。そのままミーシャを連れて建物の外へと飛び出した。


「これは……」


 焔山の目に飛び込んできたのは雲を突き破る巨体だった、目を擦る、幻覚ではなかった。


「なんということでしょう。ウンザオヴァーが魔性解放をしたんだわ」

「ウンザオヴァー? 誰だそれは?」

「それは……」


 地鳴りが近づいてくる。明確にこちらへと向かってきている。つまり目当ては……


「っ! 焔山! 隠れてっ!」

「何を――――」

「いいから早く」


 ミーシャは言葉に魅了(チャーム)の力を籠める。

 魅了。それは異性を自らの虜とし意のままに操る魔術であり、メフィストの持つ最大の権能。ミーシャの魅力と相まってコロリと焔山は術にかかる。高い魔力を持つものは本来なら魔抵抗(レジスト)することが可能だが、焔山は精神的に参っていたので魔抵抗するどころか自ら魅了にかかりに行った。


「私の頼み、聞いてくれるでしょ」

「ミーシャの頼みなら何でも聞く。例え誰かを殺せという命令だろうと――――」

「じゃあ」


 ミーシャは笑う。目元に涙を溜めながら。

 それは、自らに訪れる運命()を悟ったものの笑みであった。

 ミーシャは焔山に問いかけた。あえて、命令形ではなく、疑問形で。


「無事に帰ったら、私を好きになってくれる?」

「今だって、大好きだ」

「ああ、焔山――――その言葉さえ聞ければ十分。あなたは私が必ず生かしてみせる。だから、少しの間、隠れてて」

「分かった」


 返事を一つ、焔山はメフィスト教団の中へと姿を消した。隠れるために。

 焔山が隠れるのを見届けたミーシャは巨大な魔獣――――つまりウンザオヴァーへと向き直る。


「ウンザオヴァー――――あなたがそう望むなら私をくれてあげる。それで焔山を守れるのならもう私には怖いものなんて何もないから」


 ミーシャはウンザオウァ―の方へとゆっくりと歩き出す。焔山の面影を胸に抱きながら――――


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