背徳の教会Ⅱ
「キミ…行くんだね。”背徳の教会”に」
「そうだよ。別に死にゆく訳じゃ無い。攻略しに行くのさ」
「キミが?あのダンジョンを?出来るのかい?」
「どうだろうね。だけど…この力を使う事にはなりそうだね」
キミがその力を使うとなると…僕も行かなきゃじゃないか。
「僕にもついて来いって?全く…しょうが無いね」
「俺一人で行くよ。今回は事情が有ってね」
え...?唐突な拒絶。脳が理解を拒んでしまった。キミの力は特別だ。だからこそ僕が必要だと思ったのに…。
「な、なんで!?ぼ、僕が居なきゃキミが力を使った後は!?」
「大丈夫だよ。キミを危険に晒す訳にはいかないからね」
むっきー!!!バーカバーカ!!もう知らない!
「あっそ!!じゃあ僕抜きで攻略頑張ってねっ!!」
【隠者】らしく誰にも見つからずね。
。
。
。
「にしても…この装備も強すぎるな」
存在を消す外套…ミゼリア=ナハト。グラディアス=インフェリオのレアドロップ。多分俺が一番苦戦した好敵手だった相手。
ダンジョン攻略に置いてこれほど約に立つ装備も無いだろう。それこそ対人においてもその効果を遺憾なく発揮できる。
三階層の奥…何階層まであるのかは知らないが…この時点で既にシーカーの殆どが居なくなっている。この狂喜の霧に耐えられないのだろう。あんなに居たシーカーが俺の眼に映る限りでは居なくなった。狂喜に呑まれた奴は居るが…。
「“ハハッフヒヒッ!!!"」
狂喜にあてられ体中が血まみれになりながら笑っているシーカーだったもの。アンデッドになっている訳では無いのだろうが、おおよそ通常の人間とは思えない様相である。
「”気持ち悪い場所ね…”」
この女は…さっきの奴か。
銃を用いた戦いをしていた多分強い奴。
この人もソロなんだな。このダンジョンをソロで潜るってなると…相当腕に自信があるのだろう。実際あの一撃は凄い威力ではあった。
「”【雷帝】”」
女が呟いた。…その瞬間この空間に稲妻が爆ぜた。
「……っ!凄いな…」
その爆風により狂喜に浸食された霧が一気に晴れる。
「”そこに居るのは誰…っ!?”」
彼女の放った雷が俺に帯電し、俺の存在がバレてしまう。
あの力…危険だ。ミゼリア=ナハトの弱点がこんな形で露出するとはな。
「驚かせたのなら申しわけない…それと俺は英語が喋れないんだ」
「”日本人?なんでこんな所に一人で…”」
「なんて言ってるのか分からねぇけど…」
くそう…こんな時の為に英語を練習するべきだった。
「大丈夫よ。私は日本語も話す事が出来るから」
すごっ!!多言語話者か。
「それは助かる。済まなかったな驚かせて」
「それは良いのだけど…その隠密凄いわね…私が全く気付けなかった」
それはミゼリア=ナハトのおかげだが…ここでそれを言うのは辞めておこう。装備の情報を流すのは信頼できる相手だけだ。
「たまたま得た力だ。それにその雷も凄いぜ」
多分本気でも無いだろう。それであの威力…。それに索敵にも使える万能っぷり。
様々なダンジョンを攻略してきた事はが伺える。
「それこそ…たまたま得た力よ。あなた…もしかしてランキング上位のシーカー?このダンジョンをソロで攻略なんて…」
「いいや…俺はランキング上位でも何でもないよ。そんな君こそランキング上位のシーカーなんだろ?」
自分から高ランクのシーカーと自白したような物だしな。
「ふふっ…そうかも。私は【雷帝】のアマリリス。ソロ攻略者同士頑張りましょ」
「ぶふぉっ!!」
「な、何よ!?なんで笑うの!?」
自分から【雷帝】って…。中二病かよ。
決して馬鹿にしたい訳でも無いが…こんな美女の口から私は【雷帝】なんて言われたら…笑ってしまうのも無理はない。
「す、すまん。俺は小鳥遊帳…日本のシーカーだ。よろしくなアマリリス」
「もう…こちらこそよろしく帳!なんかずっとソロだったからダンジョンで話すなんて久しぶりよ」
「なんでソロなんだ?その強さならチームからの勧誘も絶えないだろ?」
ソロのメリット何てドロップアイテムの占有位しかない。デメリットの方が大きいだろうに。
俺が言えた事では無いのだが…。
「昔…チームに裏切られてダンジョンに放置されたのよ…それ以降誰も信用できなくなった」
思ったより暗い過去だったな。
「嫌な事を聞いちまったな…すまん」
「良いのよ。誰にだって嫌な事は有るもの。それに一々気を使ってたら疲れるものね」
「それじゃ、私は先に行かせて貰うわ」
そう言って暗闇の中を雷で照らしながら進んでいってしまった。
【雷帝】の二つ名…覚えておこう。