新たなるダンジョン
「これが…ヨーロッパ…っ!!」
初めての海外。暫くはここ…イギリスに滞在することになる。
フランスの”大海原”はって?まあ、焦るな。イギリスには新たに出現したダンジョン、”背徳の教会”がある。まだ最奥までは到達できていないらしいからな…。俺たちが横取り出来たら面白いだろ?
”大海原”は攻略されたダンジョンだ。今が旬のダンジョンに潜りたいだろ?なにせまだ攻略されて無いのだから。
「帳さん!そっちじゃありません!!」
おっと、道を間違えていたみたいだ。急いで唯利さんの所に戻ろう。
と、思っていたが…。振り向き様にドンッ!と誰かの肩にぶつかってしまった。
「うおっ!すいません!いや、そ、そーりー?」
少女だろうか?いや、少年か?見た目による判断は難しいが、まだ中学生か高校生くらいの見た目である事は確かだ。
「””大丈夫…キミは日本人かな?””」
余り聞き取れなかったが…ジャパニーズと聞かれた気がする。
「イエスイエス。あいむじゃぱにーず!!」
「””元気なんだね。シーカーかな?””」
「シーカーだよ。キミシーカー?」
なんとなくだが…相手の言っている事が伝わってくる。やはりフィーリングが大事なんだな。少しの単語の意味が分かれば何とかなるな。伝えるのは難しいが…。
「””ははっ…キミみたいな陽気なシーカー羨ましいね。あいつなんて…””」
駄目だ何も聞き取れなかった。笑ったのだけは分かるが、最後らへんは少し落ち込んでいたような憂えた目をしていた気がするが…。
「おっと、長話してる場合じゃ無かった…そ、それじゃごめん!そーりー!」
唯利さんが遠くから走ってきている。少年?少女に取り合えず謝罪だけしてこの場から離れる。
多分あの子もシーカー?か受付嬢なのだろう。
「帳さんっ!何してるんですか!子供ですか!」
「すいません…。少しはしゃぎ過ぎました」
唯利さんが鬼の形相で怒っている。ここまで怒っているのは珍しいな…。昔無茶して推奨レベルが相当上のダンジョンに潜った時以来だろうか。まだレベル1の俺には早すぎると名一杯怒られた。
「それにさっきの人は?結構楽し気に話してましたけど」
「肩がぶつかってしまって…謝ってました」
「はしゃぎ過ぎですよ!」
これは素直に反省だな。初の海外って事もあって少し舞い上がり過ぎた。今度会ったときはちゃんと謝ろう。
シーカーならば何れ会う事もあるかも知れないしな。
。
「今日面白そうな日本人が居たよ」
「日本人?珍しいね。これも何かの【運命】だろう」
「視た感じは強そうじゃ無かったけど…多分何かあるよ」
何か、知らないスキルなのか称号なのか。はたまた…武器なのか。それは分からないが。
「キミがそう言うのならそうだろう」
オラクルの加護があるキミが言うなら間違い無いだろう。
「彼の匂いは…そう、どこか儚く…そして月の香り」
珍しい表現だ。キミがそんな表現をするのは珍しい。
「月か。それこそ【月】の可能性があるって訳だね」
「そうじゃ無いんだ。【月】じゃ無かったけど…”月”の匂いがした」
「へぇ…それは面白そうだね」
アルカナとは別に”月”と所縁があるという事だろう。そんな珍しい人間も居るんだね。
「それに…【皇帝】が誕生したみたいだ」
「そろそろだね。世界が戦火になるのは…」
【皇帝】が生まれたのならば…【世界】以外は生まれている可能性も高いだろう。ここからは…このアルカナ達の戦争が始まる。世界が…動く。
「だからこそ…キミは動いてる」
「そうさ。スラム街に居た頃とは違う。力を持った」
「僕を護ってくれるって宣ったもんね?」
「悪魔に嫌な宣言をしてしまったのかも知れないね」
キミは世界から託宣を受ける巫女だ。その巫女を護るのが…俺の使命であり天命だ。いずれ来る戦…その中でキミを護れるのならば…命なんて幾らでも差し出すさ。
「キミが良く言う”七王”って奴から護ってよ」
「”七王”が敵とは限らないさ。彼らの思惑が何か…俺にも分からないからね」
。
。
。
「これが新しく出現したダンジョン…”背徳の教会”」
なんでも、難易度が階層を跨ぐごとに跳ね上がるみたいだ。そのため今公に出ている情報では最奥に到達出来ていない…と言う事。もしかしたら協会は何か知っている可能性もあるが...。
目の前に聳え立つおどろおどろしい塔。これが”背徳の教会”。最新のダンジョン……攻略がされていないダンジョンだ。
そのダンジョンを攻略出来れば何か新たな力を得ることが出来るかも知れない。
「やっぱ最新のダンジョンは人が多いみたいだな…」
ソロのシーカーは多分だが…俺だけだ。別に一人で攻略したい訳でも無いんだが…なんとなくな。
「”おいおい兄ちゃん…一人かよ?そんな装備で大丈夫か?”」
知らない言語で話しかけてくるおっさん。多分英語でも無いだろう。最新のダンジョンは世界各国からシーカーが集まる為、こんな感じにグローバルになりやすい。
「日本語しか喋れないんだよな…アイムジャパニーズ、あいどんとすぴーくいんぐりっしゅ?」
「”日本人か…まあ、死なない程度に頑張れ”」
謎の言語を発しておっさんがどこかに行ってしまった。言葉が通じないのはやはり不便と言わざるを得ない。
準備は出来てる。ポーションも武器も新しくなった。決して武器が強くなったとは言えないが…戦える武器ではある。
ただ、装甲は動きやすさを重視してかなりの軽装だ。体力が多いため一撃で死ぬことは無いだろうが…油断は許されないだろう。
取り敢えずミゼリア=ナハトで存在を消しつつ攻略を進めて行こう。アーティファクトみたいに見破られる事があるのならまた考えれば良い。
「行くぜ未攻略ダンジョン。楽しませてくれよ」




