ライセンス更新Ⅱ
「いっい湯だっな~」
偶にはこうして温泉に来るのも良い...。ダンジョン探索で疲れた体を癒してくれる。
唯利さんも満足してくれると良いけど。
『へ~男の人ってこんな体つきしてるんだ』
「どぅおっ!!!イグナリア!?」
今や全裸で歌っている成人男性の目の前に精霊の少女が現れる。サイズは少し大きくなって手より大きいくらいにはなったイグナリア。俺の魔力をちゅーちゅーと吸っている様だ。
『ポーションの試作を持ってきたの!』
「恥じらいってものが無いのか…」
まあ…精霊と人間の価値観の違いはあるのかも知れないが…。
『だって私と契約してるし…実質夫婦みたいなものでしょ』
「違うわい!」
勘違いされてしまう。
「ってポーションもう出来たのか?」
この場で報告する事かどうか怪しいが…取り敢えず聞いておこう。もしかしたら緊急なのかもしれない。
『試作だけどね!効果を知っておきたいの』
あ~素材を適当に使ったから効果が分からないのか。そういう事なら俺の眼に頼ればいい。
「ちょっと見せてみ」
イグナリアが異空間からポーションを取り出す。
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回復ポーション・・・回復効果のあるポーション。グレードD
作成者イグナリア
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ほうほう。しっかりとポーションを作れている様だ。
「大丈夫そうだぜ?ただ、グレードは少し微妙かもしれないが」
『やっぱそうだよね…でも任せて!これからなんだから!!』
「おう、期待してるぜ」
このままイグナリアにはポーション作りを続けて貰おう。いずれ高位のポーションを作れるようになれば探索にも余裕が生まれる。
俺以外に温泉に入っている奴が居なくてよかった。多分精霊なんてレア過ぎてほぼ認知されてないだろうからな。
よぉし…疲れも吹き飛んだし…明日からは頑張りますか。
。
。
。
「久しぶりだな…シーカー協会本部…」
目の前に聳え立つビルの数々。去年はここで迷子になっていたが…今回は唯利さんが隣に居る。俺に怖いものはもうない!
「じゃあ受付嬢の講習はこっちなので…帳さんも頑張ってくださいね!」
えっ!?もしかして…ここでお別れ?そ、そんなぁ…。
「頑張ります…唯利さんも夕方またここで落ち合いましょう」
「は~い!ではでは」
さて…行きますか。
「あれ...お兄さん!?」
うん?
後ろから話しかけられる。どこかで聞いたことのある声なような…。
「やっぱお兄さんですよね!?”火山”で助けてくれた!」
後ろを振り返ると”火山”でグラディアス=インフェリオに襲われていた女性シーカーチームのメンバーが居た。
元気にしてたんだな…。助けた甲斐があったものだ。
「あ~元気になったんだ。良かったね」
「良かったも何も!お兄さんが助けてくれたからじゃ無いですか!」
それはそうだけど。
「”火山”にあんな化け物が居るなんて思わないよな。しょうが無いよ」
そう...あんな化け物が居た事がイレギュラーなんだ。
「あの…私アルマって言います…。お兄さんに助けて貰わなかったら…私は死んでました」
グラディアス=インフェリオに切断されていた少女。齢は19程か?大人と言うにはあどけなさが残る。
「チームを助けて頂きありがとうございます!お兄さんのおかげで今も活動を続けることが出来てます!」
「なら良かった。”火山”だけじゃなく他の高難度ダンジョンでも異常事態が発生してるみたいだから気を付けて」
「はい!また何か縁があればお礼をさせて下さい…皆もお兄さんに感謝してます」
「あぁ…じゃ、俺はこれで」
助けた子たちが生きているって言うのは嬉しいものがある。このチームはこれからもっと強くなるだろう。なら何れ…俺の利益につながるかも知れない。
さ、気を取り直して更新に向かうとしよう。
。
「おいおい、雑魚がライセンス更新だぁ?必要ないだろ!」
ゲラゲラ笑いながら受付で出待ちしていた昨日の男達。
「受付出来ないから退いてくれ」
何故受付の所に居るんだ…邪魔すぎるだろ。
と言うより…こいつ等誰だよ…。なんで俺の事なんか覚えてんだよ。
「ライセンス更新お願いします。所属は京都です」
端的に受付の人に伝える。
「京都ですね。……はい受付は大丈夫です。控室でお待ち下さい」
後は講習を受けるくらいだな。パパっと終われば良いんだが…。
「おいおい、何逃げてんだよ?雑魚が調子に乗りやがって。格上に歯向かったこと後悔するぜ?」
「へいへい。分かったから付いてくんな」
「こいつ…っ!今ここで殺してやろうか!」
騒ぎを聞きつけてか職員が集まってくる。声が大きい奴は自分の声量に気が付いていない。耳が悪いんだろうな。可哀そうに。
「シーカー同士の喧嘩はご法度です。何があったのか知りませんが、このままだとライセンスを停止せざるを得ませんよ」
「ちっ…。行くぞお前ら」
うるさい奴らが消えてくれたのは良かったな。だが…職員にマークされたのは…ちょっと厄介だ。
このまま何もなく終わってくれると良いんだが。
「お兄さん!今の人たちは…?」
「あれ…確か秋ちゃんだっけ?他の子達と一緒じゃ無いのか?」
女性シーカーチームのタンクをしている少女だ。
先程別れたばかりなので少し気まずい。
「みんなは控室に居ます。私は少しトイレに…」
おっと要らないことを聞いてしまったみたいだ。
「それより…さっきの人たちと何かあったんですか!?すごい剣幕で詰められてましたけど…」
「昨日なぜか因縁を付けられたんだ。気にする必要は無いよ…どうせ今日で終わりなんだし」
直ぐにダンジョンに潜る予定だし…今後会う事は無いだろう。
「何かあったら言って下さい!お礼も何も出来てないので…少しは役に立ちたいです」
「ありがとう。でも大丈夫だ」
。
「座学はここまでだ。今話したことをゆめゆめ忘れるな。これからの時代、シーカーの存在価値はさらに高くなっていく。お前たちはそのことを常に頭に入れて置け」
そう締めくくり教官が出て行った。座学の内容は去年と大きく変わってはいなかったが…最近シーカーの犯罪が増えていることが付け加えられていた。
なんならシーカーが犯罪組織を作り上げている事があるらしい。海外ではその動きが顕著だと。
確かに…海外は戦争の強さがシーカーの強さみたいになっている。
倫理観もクソも無い奴が力を持つと秩序が失われる。だからこそシーカーのライセンスは性格診断が重要だと思うのだが…政府からしてもシーカーは居ればいる程良いという考えなんだろう。
「次はお前たちにシーカーとしての資格があるかのテストだ。形式は1対1の模擬戦、スキルと武器の使用も認める。怪我をしても瞬時に回復してやる。本気で戦え」
後ろに控えていた教官が言う。やはり…模擬戦があったか。去年は無かったのに急にどうして模擬戦が追加されたのか。
もしかしたら優秀な人材を管理するためか?そうだとしたら…少し面倒くさいな。俺はダンジョンを探索したいだけだ、政府の好きなように操られたい訳じゃ無い。
「受付で配られた番号順に並べ!だが、個人的にやり合いたい奴が居れば聞いてやらんことも無い」
それは聞くなよ…。絶対来るやんあいつ。
「ん?なんだお前、やりたい奴が居るのか?」
そんな中手を挙げる奴が一人。
「そうっす。あそこに居る奴です」
「ほう、何故だ?私怨では無いだろうな?」
因縁をつけてきた奴が手を挙げていた。ほら!俺の言った通り、馬鹿はこういうのに直ぐに乗っかるんだよ!
「んなことじゃないっす。あいつは強いって噂なんでやりたいだけっす」
適当な事を言ってその場をやり過ごす気だな。
「お前はどうなんだ?ああ言っているが」
教官が俺の方にも聞いてくる。一応、こっちにも断る権利がありそうか?
「俺はやりたくありません」
ここはキッパリと断っておこう。普通に迷惑だ。と言うより、今この時点で目立ってしまっている事も迷惑に他ならない。
「なっ!?てめぇ!逃げる気かよ!!」
逃げるってなんだよ。勝手に追いかけられて逃げない奴は居ないだろ。
「ならこの話は無しだ。各自順番に並べ!」
良し。この教官も話が分かる奴だ。何故あんなことを言ったのか分からないが。
「クソがっ!!おい、お前…俺と変われ」
俺の隣に居る男に脅迫がまいの事を言う。
「は、はい...」
おいお前!何故そんな弱気なんだ!?これは許されるのか!?
「うん?なんだ、順番を変更したい?何故だ………………うむお腹が痛いなら仕方が無い」
ってマジか…。
「はっ!これで逃げれねぇよ!」
面倒臭いな…。
そんなこんなで模擬戦の相手が決まったのであった。




