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小さき愛の物語

悠久の記憶…夢の回廊…。


時を超えて集まる記憶の残滓。その記憶が螺旋を描いた…夢の回廊。


そこに集まる記憶が誰かの名を呼ぶ。男なのか、女なのかすら分からない。ただ、必死に、誰かの名前を呼んでいる。


「ここは…俺は一体…誰なんだ」


こんな世界に取り残された一つの記憶。それは困惑、或いは期待。この無限に続く回廊が、ただ目の前に広がるだけ。


「誰かに呼ばれていた気がする…なんでだろう」


自分の名前も思い出せない。さっきまで見ていた”夢”も思い出せない。だが、何か大切な事を忘れている気がする。


巡る螺旋。僅かな奇跡すら届かない…無限の螺旋。遠くに煌めく光は追いかける程に逃げていく。夢か真か…ただ、螺旋の見せる記憶はとても儚く、無造作に置かれた鏡には顔の無い自分。


その螺旋に渦巻く記憶を触る。


途端その記憶が自身に入り込む。その全てを体験したかの如く。無限に続いている記憶の一片。それだけだったが…脳がパンクになりそうな程の情報量。


どこかの少女の記憶、或いは夢。この世界の記憶と夢が集約した場所か。


「ここに居る以上この記憶を覗くしか…やることが無いんだよな」


世界に記された記憶。世界が見た夢。



全て思い出した。あいつ等の紡いだ物語も全て。ルナリア…そして”ノクス”…二人の物語を。


「こんな所まで来させて俺に見せた訳だ…何かあるんだろ?ノクス」


「”””そうだな…。俺の唯一の心残り、それをお前に託したい”””」


うおっ…びっくりした。ずっと見てやがったのか。


「お前がノクス…ルナリアの契約者だった奴だな?」


「”””いかにも。どうやら彼女の我儘に付き合ってくれたようだね”””」


「まあ、通りがかった好みたいなものだよ」


偶然だった。本当にただの偶然。


「”””礼を言うよ。ルナリアがまだ俺を探してたとはね”””」


「その健気さに免じて会ってやったらどうだ」


「”””それは…もう無理だ。こんなに時間が経ってしまってはね”””」


「今さら顔なんか合わせられないってか?男が聞いて呆れるな」


「”””君には分からないよ。もう千年くらい生きてみると良い”””」


「お前が感じているその虚しさ…ルナリアはお前が死んでからずっと抱えてんだぜ?」


「”””…そうかもね。でもそれは仕方のない事なんだよ。人と精霊は生きる時が違うのだから”””」


「そうだな。だからなんだ?じゃあその範囲だけでも最後まで一緒に居てやれよ。最後だけ居なくなるのは猫だけで良いだろ?」


「”””ルナリアは…美しかった。年々とその美しさは増して行った…僕を置いて行くように…”””」


「はぁ…童貞臭い発言だな。お前の為に綺麗になってんだろ?なんで千年以上一緒に居て気付いてやれないんだ。この童貞!」


ルナリアのノクスに向ける愛は友愛や家族愛などと言ったものでは無い。あの夢の回廊で見た記憶…それが正しいならば…こいつは相当な朴念仁だ。だから終ぞ子供も出来ずに一人で死んでったんだ。


「”””愛とか恋とか、良く分からない”””」


千年以上生きた奴の言うセリフだろうか。全く…ルナリアも相当な変人と契約してしまったらしい。


「あいつは…お前の名前も思い出せずに苦しんでる。俺の口から名前を教える事も出来るが…それは俺の役目じゃないだろ?」


「”””手厳しいね。ルナリアの美しさに中てられて昇天するかもしれない”””」


「その感情を人は愛って言うんだ。人形マニア」


「”””これが愛か…生きている間に気が付きたかったよ”””」


「今からでも遅く無いんじゃないか?あいつはまだ待ってるぜ」


「”””遅く…無いのだろうか。あんな別れ方をして…一人よがって死んでいった男だぞ?”””」


「あいつはそんな男を愛したんだ」


精霊と人間の恋物語。その終着がどうなるかは分からない。決してハッピーエンドでは無いのかも知れない。だが、その恋は尊く美しい愛の物語。


「”””これからもう消える只の記憶の残滓だけど…それでも間に合うのだろうか”””」


「最後に聞かせて貰っても良いか?遺跡には何があった?そこだけは見れなかったんだ」


記憶を体験していたが、この二人が探索した遺跡に何があったのか…それが最後まで分からなかった。


「”””それは…言えないんだ…世界の禁忌に触れてしまうから”””」


世界の禁忌?一体何のことだ…。突然現れたダンジョン…異世界の記憶。何故ダンジョンが地球に出来た?誰がどういう目的でこんなものを地球に出現させた。


「分かった。じゃあ最後に…愛の告白は…ムードが大事なんだ」


「”””万年人形を造っていた僕には分からないよ”””」


だろうな。ま、少しだけ期待してるぜ。





『帳っ!?目が覚めたの!?』


イグナリアか。


「ああ。俺は大丈夫だ…ルナリアは?」


『大丈夫です。彼と...何か話したの?』


「さぁな…。ただ、世界の記憶を覗いてただけだ」


或いは夢。


『そう…彼は最後まで現れなかったのね…』


「そんなことは無いと思うぜ?まだ先がある…進もう」


『そうね…』


嬉しそうな...どこか悲しそうな顔。終ぞ会いに来なかったことを悲しんでいるのか、これから同じ墓に眠ることが出来る事を喜んでいるのか。精霊の考える事は分からない。だが、その気持ちを理解することは出来る。



「”””久しぶりだね…ルナリア”””」


フロアの最奥にノクスが居た。アストラル体とでも言うのか、人間では無いことが分かるが…何とか勇気が出たみたいだ。多分あれが…ノクスが死んだ場所なんだろう。


『あ.........…』


「”””とある男に勇気を貰ってね…キミに伝え忘れた事を言いに戻って来たよ”””」


『…………遅いよ…もう、名前も思い出せなくなってしまったの』


「”””僕がうじうじし過ぎたせいだね。でもキミは…ずっと僕を探してくれていた”””」


『貴方が…貴方の事が…好きだったから…』


「”””キミの気持ちに気が付けなかった……いや、自分の気持ちに気が付かなかった”””」


『貴方が傍に居ればそれだけで良かった。…でもそれが貴方の重荷になっていたのね』


「”””違うよ。ルナリア…僕はキミを”愛していた”間違いなく”””」


『貴方が初めて言ってくれた事を思い出してたの…一人の時は』


「”””美しい…だったっけ”””」


『うん。それが貴方に恋したきっかけ』


「”””それは憶えていたんだね。遅くなったけど…好きだったよルナリア”””」


小さき物と王の物語。御伽噺に出そうな程美しく…儚い。


『私も…好きだった……っ!』


「”””本当に…遅くなったね。あぁ…本当に…遅くなった…”””」


『いや…いや!行かないで…っ!!《ノクス》っ!!!!』


『貴方ともっと話したいっ。もっと一緒に冒険したいっ!もっと…もっと…』


「”””ルナリア…僕も一緒に居たかった。それだけは本当なんだ。だから…これで最後”””」


「”””愛してるよルナリア”””」


『ノクスっ!私も…私も愛してる…っ!』


多分ここまで出てこれたのも奇跡なのだろう。ノクスが光の粒子になり始める。


”””そうそう…よく【王剣】を倒したね。その報酬と言うか、勇気をくれたお礼に僕が使っていた錬金道具を貸してあげるよ”””


ほう…それは願ったりな申し出だな。ありがたく貸して貰うとするか。


「ルナリア…これからどうするんだ?」


今だ涙で顔を腫らした精霊に問いかける。野暮な質問かも知れないが…あいつとの約束だ。ルナリアをそっちには向かわせない。


『彼は…ノクスは私に生きる事を望んだ…だから…生きていく』


「そうか…困った事があるなら何時でも相談に乗る。イグナリアを通じてくれ」


『ありがとう…。私はここでノクスを忘れない様…過ごしていく』


ならば、心配は要らないな。上手く行かなかった2人かも知れない。だけど…その愛はホンモノだった筈だ。


この二人の物語が誰にも穢されない様に…見守っていこう…。それが、俺の後悔しない…生き方だ。

2人の愛が...いつか実ります様に。

ここまで読んでくれた読者の皆様には感謝の意を。タイトルも少し変化しましたが...内容とかは変わる事は無いので!

それではみなさん本当にありがとぅございました。まだまだ物語は続きますが、ルナリアとノクスの物語は一旦の区切りとさせて頂きます。

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