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【夢、記憶、それとも現】Ⅱ

「これで良し!後は【王剣】さえあれば完成だ」


自律的に守護する機構を組み込んだアーティファクト。後は本体となる【王剣】だけ。


まだ試作段階だが、これは良いアーティファクトになる。そう確信している。


「ノクス様、レイン様がお呼びです」


「父上が?分かった直ぐ行くよ」



「ノクス。私はそろそろ王位を退く。お前は聡い…十分王として生きて行けるだろう」


急。まだ齢17になったばかりの息子にいう事だろうか。僕が王として生きて良く?無理だ…まだ何も出来ていない…。恋愛も、青春も何も、何も出来ていない。


「ち、父上!無理です!まだ17歳ですよ!?」


「年齢ではない。王とは”君臨”するもの。お前も直ぐに分かる」


そんな…。遺跡探索はどうなる?もう...終わるのか…?なにもかも...。


「そ、そんな…急すぎます」


「一年猶予をやろう。それまでに”今”しか出来ない事をやっておけ」


一年…それが猶予。急な、カウントダウンが始まった。父上が病で先が長くないのもわかっていた。だけど…こんな急に言われても、どう受け止めて良いか分からない。


これからどうしよう…。



無我夢中に走っていた。現実逃避…これから先の事なんて考えたくない。だから無我夢中に走る。


目の前なんか見えちゃいない。


「はぁっ…はぁ…」


やがて視界が狭まり、酸素が欠乏している事に気が付く。それだけ走ったという事。現実を直視したく無くて。ここ最近はずっと籠ってアーティファクトを造っていた。そのため、思ったより体力が無くなっていたようだ。


自分の心を照らすように…月が雲に隠れる。雨季は月が隠れてしまうのが個人的に好きではない。


あぁ…あの時みたいにまたあの精霊と会ってみたい。あの美しい精霊の事があれ以降頭から離れないんだ。


「馬鹿みたいだ。いや、愚者であることは皆知ってるけど」


俺の事を世間は人形に取りつかれた奇人と評している。別に良いんだそんなことは。他人からの価値何て無価値。後付けされた価値観に意味は無く、そこにあるのは只の虚構のみ。そんなものはどうだって良いんだ。


「美しいものは美しい。醜いものは醜い」


『あら嬉しい。そう思ってくれてるのね』


「え......」


もう一つの月が、顔を出し始めた。それは俺が何よりも望んだものだったのかも知れない。


…そう。月の精霊ルナリアが目の前に現れた。


『貴方が望めば現れる。私は月の精霊だもの…ね?ノクス』


その優しく柔らかい声音はあの時聞いたものと全く変わっていない。心の底から落ち着ける…そんな声音。


「そうか…キミは、ルナリアは律儀に僕のいう事に従ってたんだね」


城内では姿を見せなかった。だが、今こうして前に現れた。城内ではなく、月明かりの元で。


『ノクスがそう言ったんじゃない』


「そうだったね…。もう二度と会えないと思っていた。だけど、俺に時間は残されていないんだ」


こうして話す事も今後出来なくなる。王として、国に君臨する為に。


『そう…貴方は”王”になる選択をしたのね。王は孤独…その道を歩むのね…』


「ああ。それが僕の宿命だから。これを否定することは国を崩壊させる」


僕一人が孤独になっても、元から一人だからね。もう…慣れているんだ。


『なら…私と契約を結びましょう。私は貴方を孤独にさせない。貴方も…私を孤独にさせない契約』


…………っ!


「無理だ…精霊とは生きる年月が違う…キミを…孤独にしてしまう」


『その時はその時。だって”夜”がある限り…私も貴方も輝けるのだから』


それは精霊の甘言か。それとも破滅へ導く契約か。だが…今の俺にはこれに逆らう意思など無に等しかった。


「ならば…結ぼう、その契約。やがて、その時が来るまで」


『ふふっ…。これからよろしくね…ノクス』


「あぁ…こちらこそだよ。ルナリア」


そうして、月明かりが導く夜の狭間…一人の男と精霊の、契約が結ばれたのだった。





「どぅわぁぁあああ!!!」


『ノクスっ!そ、そこはあぶな…ダメっ!!』


「な、何だよコイツ!!」


今俺たちの目の前には淡く光る謎の粘性を帯びた化け物が居た。


『スライムは物理攻撃が通りにくいの』


コイツはスライムと言うのか。遺跡探索は初めてだから、色々勉強になるな。


「な、ならば…行け!《ヴァルディス》!ダイレクトアタックだ!」


《ヴァルディス》がスライムに突撃していく。人形だからこそ、恐怖心が無く、立ち向かう事が出来る。


素晴らしい…。やはり錬金術は最高だ。


『危なかったわね…。まさかノクスがここまで弱いと思わなかった』


「仕方ないだろ?箱入りのお坊ちゃんだったんだから」


『でも…そういう所も愛おしい』


……。もっと頑張るか。


『あら...照れたの?私を護る為に強くなってくれるんだ?』


「うるさいうるさい!ほら先に行くぞっ」


別に照れてないし、ルナリアを護る為に強くなりたい訳じゃ無いし…。王として強さを示すためだし。勘違いされても困る。


『はいはい。そういう事にしてあげる♡』


クソっ...。この僕が良い様に扱われるなんて…。



「これは…古代文字か。え...っと」


確か…古代文字の意味を記した本を持ってきていた筈だ。やっぱ使い道はあったな。


『これは…この先危険って書いてるわね』


使い道は無かったみたいだ。


「この先?行き止まりにしか見えないが…」


『あそこに魔力の流れが見える。多分隠し扉かな?』


精霊は魔力の流れが見えるのか。羨ましいな。凄く便利そうだ。アーティファクトを造る時にも欲しい能力だな。


『私と契約してるんだもの…ノクスだって見れるわ』


「そうなのか?どうすればいい」


『ちょっと待って…今【精霊眼】を共有したからもう見れるはずよ』


「へぇ…世界がこう見えてるのか」


『もっと私が成長すれば、世界の全てが視える様になるかも』


そうか。精霊は契約者の魔力を吸い成長する。これは、俺ももっと成長して上質な魔力を生成できるようにならなくちゃな。


『期待してる。でも無理はしないで…貴方が心配』


「善処する」


遺跡探索において危険は付き物だな。厄介な生物が居るとは思ってもみなかった。


これから先ももっと色んな発見があるのだろう。



「ノクスよ。一年が過ぎた…宣言通りお前を王とする」


「はい…父上。この一年覚悟を決めました。もう、思い残す事もありません」


「そうか…すまないな。お前もまだ若い…だが、我も長くない」


この一年で父上の病状は末期と言って良いほど悪化した。だが、国民にはそれを悟らせることなく、この一年を耐えてくれた父上には敬意しか抱けない。厳しい父上だったが、全て僕の為、国民の為となるよう、国を運営してきた。感謝こそすれ、憎むことなど一切ない。そんな…自慢の父上だ。


「これからは”私”が国民の長として、国を引っ張って参ります。父上の期待に応えられるよう」


「ははっ…昔は引きこもってばかりで心配ばっかしていたが…やはり男児は数日見ない内に成長する。引継ぎは私が最後の仕事として引き受けよう」


「ありがとうございます。父上も無理をなさらない様…国民が悲しみます」


国民から凄く人望がある王だった。貧富の差を限りなく無くそうとし、国を豊かにする政策を惜しまず…自慢の父だ。


「ノクス…初めは上手く行かない事ばかりだ。信頼できる人を見つけろ…絶対に裏切らない…そんな友人、恋人を」


「父さん…」


「お前は今から”王”だ。誰かに笑われようとも、憎まれようとも…お前が”王”だ。それをゆめゆめ忘れない事だ」


それは、父としてではなく、王として、次の王への助言。最後の助言。


まだそれを実感する事は無いけど…でも、いずれ、この言葉が分かる時が来る。そう確信している。

夜にしか輝けない月が好きだ

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