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【夢、記憶、それとも現】Ⅰ

すみません...。《ヴァルディス》との闘いを前話の最後に追加してます...。編集前の話を読まれた方には急に話が変わっていると思うので、報告です。

夢か現か。この世界は醜い。


「ノクス様、稽古の時間です」


はぁ…またか。僕は戦闘技術なんか磨いても意味ないと思うけどね。だって、錬金術があれば、もっと強いアーティファクトも作れるし、錬金術を突き詰めた方がよっぽど良いに決まってる。


「僕は錬金術に忙しい、構わないでくれ」


「そう言う訳にもいきません。貴方様のお父様…現王たる方のご命令ですので」


はぁ...全く頭の固い奴らだ。父も、その側近も全員頭が固い。王が武術を学んで何になる。前線に立つのか?立たないだろ。じゃあもっと戦術を学んだり、他の役に立つ事を学ぶべきだ。


「ちっ...。はぁ...もうわかったよ」


ここで反抗しても意味が無いことを知っている。だから素直に従うしかないのが憎らしい。


「それと王からの伝言です。人形作りは辞めてもっと人と関われ…だそうです」


うるさいなぁ。別に人と関わりたくない訳じゃ無い。向こうが遠慮して本音で話せないから僕は誰とも喋らないんだ。自分の意思を持たない愚物に構っていられるほど僕は器が大きくない。


「はいはい」


ここは適当に流しておこう。どうせ従わない事を解っているだろうし。



「…ぐっ...」


これだから稽古は嫌なんだ。ただ疲れて、傷んで、何の得になる。まだ魔法を練習した方がよっぽどマシだ。


「ノクス様…もっとこう、熱意をもって取り組んで下さい…」


雇われの剣士に言われる。


はぁ…こういった人種は嫌いなんだ。何故興味のないことに熱心に取り組まなければいけない。そこになんの価値がある。


「十分熱心だって。それじゃ今日は疲れたから」


「お、お待ちください…ッ!」


早く帰ってアーティファクトの作成に戻ろう。僕を守護する騎士を作って、遺跡の探索に行くんだ。


今は【ヴァルディス】の作成中だ。こいつは特別仕様にさせて貰う。今後もずっと僕を守護させたいからな。そのために必要なのが…宝物子にある【王剣】だ。今夜にでも盗みに行こう。あれを眠らせておくのは勿体ない。


最強のアーティファクトを造る。それが今の僕に必要なこと。


神話の時代の武器【王剣】…。身に余る武器かも知れない。だけど僕はあの遺跡を攻略して神話の時代を紐解きたい。純粋な知的探求心。そこに他の意思は存在しない。


そして…錬金術の時代を始める。それが僕が今目指す世界だ。





こそこそ...。バレてないよな…?宝物庫は厳重な警備がある。だが…夜間は警備が少し薄くなる。


この日の為に作っておいた睡眠効果のあるお香を錬金術で作っておいた。


「確か…宝物庫の奥…だよな」


【王剣】は特別な宝物として宝物庫の中でもさらに奥に置かれている。


ちょっと...ほかのやつも見てこう。もしかしたら僕のお眼鏡に適うモノもあるかも知れない。


別にお宝が気になるとかでない。そう、ただ僕の野望の為!


「そこに居るのは誰だ!!!」


ヤバい!!気付かれた!いくら王族だと言っても罰せられる事はある。


物音で気付かれたのか、センサーのような物があるのか…何れにしてもしくじった…。


…逃げ場がない。観念するか…逃げ場がないなら逃げようがない。


「はぁ…また懲罰房行きかぁ...」


これまで何度か懲罰房には入っている。それは基本的に爆発物を城内ぶっ放したりだとか、そう言うしょうもない事で入れられた。


今回は多分長いだろうな…なにせ宝物庫の宝は危険なものも多い。いくら王族だろうと許される事では無いのだから。


「………僕だよ。そう怒らないでくれ、警備が十分かの試験みたいなものさ」


頑張って思いついた良い訳がこれ。ま


で今に至るって訳。


鉄格子から覗く”満月”は懲罰房を明るく照らしてくれる。この光だけが唯一の明かりと言っても良いだろう。


「美しいな…こんな世界で唯一美しく見えるよ」


夜の暗闇を照らす月。どこか、寂しそうなそんな印象を持つ。今この孤独を埋めてくれるのはお前だけだよ。


『嬉しい』


っ!?


「だ、誰だ!?」


脳に響く声。どかか儚いその声音は僕の心に驚く程浸透していく。


『ここ!ここ!』


「…精霊……?」


声のする方。そこには人よりずいぶん小さい少女が宙に舞っていた。


『どう?私も月に負けない位美しいでしょ』


「どうかな。確かに月は美しい。でも…同時に主役にはなれない哀れな奴だ」


『そう?確かに太陽が無ければ輝けないけど、太陽に照らされて輝いてたら十分じゃない?』


「そうかもね。僕も太陽よりも月になりたいさ。それより君は?」


多分何かの精霊だとは思うけど。随分と小さいな。契約者が居ないのだろうね。精霊は契約者が居なければ小さき存在だ。


『私は【月】の精霊ルナリア。貴方は?』


【月】の精霊!?そんな高位の精霊が契約者が居ないなんて…珍しいね。


「僕はノクス。しがない錬金術師」


『ノクスかぁ…良い名前だね』


少し照れるな…。精霊だからこそ本心で話してくれるのか。精霊からしたら王族とか、そう言う色眼鏡なんて必要ないもんな。少し、嬉しい。


『貴方が喜んでくれて良かった』


心を読めるのか。なら…嘘は付けないな。


この時、本心と本心で話す事が出来る唯一の相手が見つかったのだった。



それからは懲罰房に居る間はルナリアと話してばかりだった。


僕が本心で話せる唯一の相手。それだけで嬉しかった。


だが、懲罰房に居られるのも今日で最後だ。これからはルナリアと会えなくなるんだろうか?


「嫌だなぁ…こんな城抜け出してやろうかな」


王位継承権が僕だけなのがいけない。もっと父と母には頑張って貰いたいね。


王位なんか興味も無いし、なんなら権力なんていらない。


『恵まれてるからそう思えるの。貧しい人たちは皆ノクスとは違う考えになると思う』


だよな~。自分でもそう思うんだけど…今が嫌なのは嘘でもないと思うんだ。


『私は今が好き。貴方と出会えて、こうして喋れてる』


……。


「そうか。でもそれも今日まで、明日からはまた稽古の日々だから」


『そう…寂しくなるのね…。でも何時でも会いに行けるわ…だって精霊だもの』


「それは…嬉しいけどな。キミに危害が及ぶかもしれない」


高位の精霊は価値が高い。衛兵たちに見つかれば捉えられて、実験されるかもしれない。


それは…嫌だ。


『ふふっ…優しいのね』


「うるさい。実験道具にされたくなければこれからは人の前に現れない事だね」



「少しは反省したか?ノクス」


「はい。元より宝物庫のから盗もうとは思っていませんでした」


嘘嘘嘘。人間は嘘に生きる。建前、外面、仮面を被りながら生きるだけ。


「ふむ。ならばよい。早く王族としての自覚を付けろ」


王族としての自覚ね…。王に生まれただけで本質は他の人間と変わらないと言うのに。


「はい父上」


罰も終わりだ。これでルナリアともお別れだな。あれだけ忠告したんだ。会いに来ることは無いだろう。


寂しい。そう感じる自分に少し驚いている。今まで感じたことの無かった気持ち。

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