【忘れられた王の墓】Ⅵ
すいません。キリが悪かったので追加しました。
「”””【空蝉】”””」
斬撃が俺の下を通過したのと同時に、《ヴァルディス》が呟く。
不味い…っ!!
銀白の刃が、地から跳ね上がるように逆巻いた。
「視界再展開!」
──視界再展開:0.3 秒先
──選択肢:
・回避成功率 3%
・防御成功率 10%
考える間もなく、【王剣】による切り上げが俺に迫ってくる。
「間に合えっ!!!【月華輝刃】!!!」
月の輝きと白銀の輝きが交錯する。だが、白銀の輝きがいとも簡単に月の輝きごと吞み込んだ。
「ぐっ…ああああああああッ!!」
ギィィィィンッ!!!
金属と金属がぶつかり合う音。
押される。”セラ”の刀身が軋む。
周囲の地面が抉れ、【月環】の輝きが爆ぜる。
しかし、拮抗虚しく、羽虫を捻るが如く跳ね飛ばされ、背中から瓦礫へと叩きつけられる。
口から鮮血が溢れ、身体の至る所が危険信号を上げる。
「……く、そ……」
満身創痍…いや瀕死。立ってる事が奇跡に近い。
【月華輝刃】の刀身が、わずかに【空蝉】の軌道を逸らした。
未来を視た、あの0.3秒。それがなければ、今の帳はここにいない。
『帳っ!!』
イグナリアの心配する声。すまねぇ...心配かけちまって。
だが…俺は大丈夫だ。
「…ぐっ…お前は強い…確かに強いだが…感情が籠ってねぇんだよボンクラァ!!!」
吐血混じりの声が、闇の空間に響く。
「”””感情、ソレハ価値無キモノ”””」
感情。心。揺らぎ。
それを否定するアーティファクトの声は、冷たい金属の反響そのもの。生物に無い、無機質な交響詩。
「それがお前の負け筋だって言ってんだよっ!!!!」
イグナリアの【情熱】にあてられたか。俺の情熱が今燃え盛っている。
「行くぞボンクラ…俺の情熱を持ってお前をぶちのめす…っ!!!」
”セラ”を握る手に力を籠める。絶対に離さない。倒れるまで、壊れるまで──この剣と一緒に戦い抜く。
”セラ”が再び”赫”を放ち始める。
それは感情……それは願い……そして誓い。
「”””【王剣】”””」
無機質な音。その声に呼応するように白銀が爆ぜる。
「お前に出せない感情…全て見せてやる………【身体強化赫】」
全てを擲った捨て身の身体強化。防御力がゼロになり、体力も全てが”赫”に変換される。
”死の身体強化”
「視界複数展開…10秒先まで見せやがれ…ッ!!!」
視界複数展開:10 秒先
──選択肢:
・回避成功率 100%
・防御成功率 0%
先程と同じ、【王剣】から【空蝉】の多段斬撃。
だが、全て視れた。問題ない。
「なら…前に進むだけだ」
「”””中断、【王盾】ヘ移行──【王盾】起動”””」
王を守護する盾が目の前に立ち塞がる。
「俺の情熱…受け取りやがれぇええええ!!!」
魂の絶叫。【王盾】と”赫”…が今、正面でぶつかり合おうとしていた。
”赫”が唸る。
帳の全身を駆け巡る魔力が、まるで”血流”のように”セラ”へと流れ込む。
刃が咆哮する…それは龍のように天を焦がす紅蓮の奔流。
「──【赫哭龍閃】ッ!!!」
”赫龍”がまるでそこに居るかのような、情熱の”赫”が迸る。
「視界展開っ!!”干渉”しろ!」
──視界再展開:2秒先
──選択肢:
・干渉成功率:46%
”赫”の閃撃が白銀の障壁とぶつかり合う。
右目の【エルドラドの瞳】が黄金に輝き、
左目の【ルナティック・アイ】が銀光を放つ。
二重干渉──黄金と銀光、二重の魔力をぶつけて、世界の”未来”を塗り替える。
そして…【王盾】の誇る白銀の障壁…その障壁に歪みが生じ始める。
「それで十分だ…ッ!!」
”白銀”と”赫”の激突。だが、既に均衡は破れていた。
ギギギ……ギィィ……ッ!
「……割れろッ!!」
”赫”の力が更に強くなる。
剣に宿る”熾哭”の情熱が暴発するかのように、”赫い”衝撃波が奔流となって広がり──
バリンッ!!
破砕音。白銀の障壁が、まるでスローモーションのように砕け、欠片が空に舞い上がる。
その白銀に煌めく欠片は…まるで暗闇を天満月が照らす…そんな光景だった。
「”””──防衛機構【王盾】──停止確認移行:戦闘構成式 第二式──【王剣】完全解放”””」
自身の護りが消失しても焦りが見えない。感情が無いアーティファクトだからこその冷静さ。
そして…【王剣】の完全開放。本番はこれからって事か。
《ヴァルディス》の左腕に装着された巨大な白銀の盾が、低く唸るような機械音と共に分解を開始する。
そして...分解されたパーツが【王剣】に接続されていく。
「そういうことかよ…それがお前の本来の姿…そうだよな?」
盾はお前の【王剣】を完全にするためのパーツ…そう来たか…ッ!
白銀の輝きを帯びていた【王剣】が更に輝きを増し、元の姿から到底感じられない程の大剣となった。
「”””【王剣セイクリッド=アルゴス】構築完了”””」
「それがお前の全力か…良いぜ、こっちも準備は出来てる」
こっちもさっきの一撃で”赫”の蓄積が最大まで溜まった。
ここからは互いの最強を賭けたプライドの勝負。こいつにプライドがあるか知らねぇけど。
「”””【王剣】”””」
「【赫龍月光・終の刃】!!!」
”白銀”と”赫”。剣と龍がぶつかり合う。
「グゥゥゥッ!!!」
全筋肉が悲鳴をあげる。”赫”の共鳴に身体が追いつかない。身体の至る所が軋み、血が噴き出る。それは【身体強化赫】の影響か、ぶつかり合う二つの質量の影響か。
「──お前に、感情はあるか?俺みたいに、"絶対に負けたくない"って……そう思ったことあるかよ?」
「俺にはある。情けねぇけどな……膝が笑っても、歯が砕けても──絶対に退けない”理由”があるんだよ!」
「お前にはないんだろ?負けたくねぇって感情がッ!! ここで死ねないって叫ぶような想いがッ!!!」
それは俺の独白。無機質な人形に語り掛けても何も返っては来ない。ただ無機質に【王剣】を振るうだけ。
「負けらんねぇんだよぉおおおお!!!!」
”赫”と”白銀”の衝突。
その結末は──互いを穿ち、互いを砕くというものだった。
”セラ”の刀身は、限界を超えて”赫”を蓄積し、《王剣》の刃を呑み込みながら、砕けた。
「”””エラー……核機能ニ破損──【王剣】システム、停止”””」
ヴァルディスの持つ《王剣》も、完全に崩壊した。
”赫”と”白銀”は、互いを喰らい尽くしたのだ。
「……がふっ……!」
【身体強化赫】により全てを”赫”に変換した男が限界を迎える。体力も、血も、何もかも”赫”に変換した代償は重く、勝ったのか、負けたのか、部外者が見れば理解できない状況だろう。
『っ…やばい……本当に限界…』
イグナリアが焦燥に声を震わせる。ルナリアの魔力供給も限界だ。【月環】も既に砕け散っている。
「……勝った、のか……?」
返事はなかった。
イグナリアの、ルナリアの魔力も…殆どが”赫”になった。皆が皆疲弊している。だが…その成果もあって、【王剣】が粉砕され、《ヴァルディス》は機能を停止していた。
もう…限界だ…。指先一本動かせやしない。意識を保つのもやっとだ。
『来る…彼が、ここに…』
ルナリアが呟く。彼…【忘れられた王】…ルナリア契約者だった王の事だろう。
死んだ筈の王が何故…。
空気が変わる。
”何か”が、深層から、起き上がるような気配。
”””夢の回廊…我が記憶…汝に与えられん”””
音じゃない…。魂に直接響く、”何か”。その声を聴いた瞬間…俺の意識が暗闇の奥底へと沈んでいくのだった。
『帳ッ...ダメ!行かないで…っ!!』
意識を失う直前に聞こえた最後の声。イグナリアの絶叫。いや、慟哭とでも言うべきか。
心配をかけるのが申しわけないと…最後に思って意識を閉じた。
良かったら評価、感想、ブックマークよろしくお願いします!モチベーションになります!




