【忘れられた王の墓】Ⅳ
「うおぉぉ!!宝箱じゃねぇか!」
宝箱と言うには少し汚れすぎな気もするが…姿形は宝箱のそれだ。
だが…果たして人のお墓を漁る行為は如何なものだろうか…。
……ここは遠慮しておこう。確かに、俺の男心はこの宝箱を開けろと叫んでいる。宝箱はロマンの塊だ。中から凄いお宝が出る可能性があるんだ。これをスルーする奴は漢では無いだろう。
だが、場所が場所だ。
『気にしなくても良いのよ…でもありがとう』
純粋な感謝を述べられる。ま、ここはカッコつけさせて貰うか。
「どれだけ深いんだ…」
《デス=ザ=リーパー》を倒してからずっと進んでいるが、終わりが見えない。これはもう隠しフロアと言うよりもう一つのダンジョンみたいだ。
ダンジョンの中にダンジョン…もしかしたらあるのかも知れない。
『彼は内向的でしたからね。少し深く作っちゃうんです』
少しってレベルを超えている気もするが…。まあ気にしたら負けだな。特に素材が採れる訳でもないし…本当にアーティファクトだけの可能性もあるな。アーティファクトならプログラムに従うだけで戦いやすい。あのカマキリみたいに知性を感じない。レベルが高い分強いが…所詮人形。
『彼の…彼の匂いがする』
彼の匂い…。それは懐かしさなのか、言葉通りの意味なのか、俺には判断出来なかったが...その瞳にはとても嬉しそうな、そんな感情を秘めている気がした。
「そう言えば聞きたいんだが…魔力って変化するのか?」
先程の一幕。俺とルナリア、イグナリアの魔力が混ざり合い、新たな魔力になっていた。それは即ち…個人でも魔力が変化する可能性があるって事だ。俺みたいに、【光輝の欠片】を使って直接回路を開くって事も出来るだろうが…普通に使ってて魔力が変化する事があるのか、純粋な疑問として胸の内にある。
『勿論。私の魔力も元は【月】で、変化した後【月光】になりましたから』
なるほどな…。そしてその【月光】と【光輝】が混ざり合って【月輝】に至った訳か。
俺の【光輝】はエルドラドの魔力。これ以上変化するとは思えないが…イグナリアは違う。イグナリアはまだ魔力に成長の余地があるって訳か。
『私の【炎】は不満?』
「いや、違うよ。ただ純粋に羨ましいんだ。俺は多分だが【光輝】から成長することは無いから」
後から増設した疑似の魔力回路だからな。もともと俺に宿っていた魔力は無色…全ての可能性を秘めていた段階だった。俺の本来の魔力を知ることなく【光輝】が上書きしていったけどな。
『大丈夫。契約しているなら直ぐにあなたの気持ちに応じてくれる』
気持ち次第って所も大きいんだろうな。イグナリアならすぐに【炎】から変化するだろう。向上心の塊みたいな奴だからな。
『お話はここまでですね。彼の人形がまたやってきます』
アーティファクトか。気を引き締めよう。油断してたら一瞬で命を刈り取られる。
「来たか…っ!」
仄昏い闇の先に、アーティファクトらしきモノの姿が見える。白く輝くのそのメタリックボディ。どことなく神聖さを感じる。その甲冑は並みの刃を通さないことは言うまでも無いだろう。
さっき戦ったアーティファクトの《デス=ザ=リーパー》とはまた違った形だ。大きさもそこまで変わっていないが…その手に持つ武器は鎌では無く、剣になっていた。それに、騎士らしく盾も装備している。排除するだけの攻撃的なアーティファクトでは無い。守護する事も考えられたアーティファクトだ。
『あれは…【ヴァルディス】』
あの騎士を見つめながらルナリアが呟く。あの騎士にはヴァルディスと言う名前が付いているのか。
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《王の騎士ヴァルディス》 lv 1000 王を守護するアーティファクト。
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強い…。
王を守護する…もうそこに王が居る。終わりは近い。だが…それは別れも近いという事。
覚悟を決めろ。俺は二人の物語を紡ぐって決めたんだ。ここで惜しむ訳にはいかない。
「行くか」
ヴァルディス。通して貰うぞ、俺たちは先に行かなくちゃいけないんだ。
「”””侵入者確認排除ヲ実行シマス”””」
来たっ!!!
「全力全開!!【月輝共鳴】!!!」
【月環】がゆっくりと構築されていく。仄昏い闇に【月】の光が満ちる。
出し惜しみは無しだ!最初から全力で行かせて貰うぜヴァルディス!
「”””侵入者ニ鉄槌ヲ【王剣】起動”””」
動いたか。ヴァルディスの持つ剣が異様な輝きを放ち始める。
そして…
──その声と共に、空気が凍りついた。
まるで世界そのものが【王剣】の発動を前に沈黙を強いられたかのように、あらゆる音が、動きが止まる。
「【月輝盾花】最大出力、護りきれ!!」
光が凝縮され、刀身が咆哮する。白銀の回路が【王剣】を奔り、白銀の刀身が青白く輝く。
ズン──ッ!!
次の瞬間、地面すら歪める衝撃とともに、ヴァルディスが地を砕きながら踏み込み、瞬間加速。
その白銀の刃が世界に閃く。
世界を白銀に染めながら、銀月の花弁を貫通する一閃が帳を襲った。
『帳っ!?』
銀月の花弁が再生する暇もなくその剣閃は俺の身体を捉えた。
「ぐ、ぁ──っ!!」
圧倒的な質量。【王剣】が纏う魔力が俺の展開した【月輝盾花】の纏う魔力より圧倒的な質量を誇っていた。
銀月の花弁がひとひら、またひとひらと散っていく。
体内で骨が軋む音。砕けた骨が肉に、内臓に突き刺さる感覚。そして、俺の身体から止め処なく血が溢れる。
視界が揺れ、膝が地に沈みそうになる。この攻撃は防御不可の致命的攻撃。その剣閃は俺の身体を穿ち切った。
だが、その瞬間──
”……まだだよ” ──誰かの声。俺の知らない声だが、どこか信頼できるそんな声だった。
そしてその声が聞こえた瞬間──
”灼銀”の魔力が、疼くように体を走った。
【赫龍の心臓】…致命攻撃を受けた時に体力が1残る”セラ”の持つスキル。
赫龍の魔力…”灼銀”が俺の中に流れ込んでくる。
斬られた部位が瞬時に”灼かれ”傷が塞がっていく。砕けた骨も、その骨が刺さった内臓も、全てが”灼かれ”ていく。
ルインドキングブレードではありません!




