受付嬢
「お帰りなさいませ~帳さん」
ほわぁっとした笑顔で出迎えてくれる唯利さん。この笑顔が見れる間は俺はシーカーを絶対に辞めない…そんな自信がある。
「唯利さん、そのちょっと相談したくて…」
今日起こった事、これからの事に対する相談だ。ネームドモンスターなんて俺が敵う相手でもない。だが、苦労して見つけた情報を無償で提供するのも気が引ける。
「分かりました。じゃあ今日は…私の家でカウンセリングしましょうっ!」
えっ!?唯利さんの家で!?良いのかよ?俺男だぞ!?
「え、お、俺男ですよ!?」
「はい、知ってますよ?何か問題でも…?」
呆気からんと言い放つ。純粋なのか、小悪魔なのか。どちらにしても可愛い!!その事実は色あせない!
「わ、分かりました。唯利さんの家でお願いします」
「じゃあ十八時にあの公園で!」
今は十七時か…。一時間もんもんと過ごすのかぁ…。デュフフ…。
。
「エルドラド…検索結果無しか。やっぱ未確認のネームドか?」
そあの石碑も調べたら内容が違っていた。確実に俺の称号と関係があるだろう。
「鍵か…もしかして、自分で作れって事じゃないよな」
黄金ダンジョンのボスからドロップするレアアイテム。黄金のガマ油、黄金の鉱石、黄金の枝…。
確かに、これで鍵が作れそうな感じはする。勿論俺に鍵を作るノウハウなんて全くない。
困ったなぁ…隠しフロアがもしかしたら見つけれるかも知れないのに…。
「お待たせしました帳さん」
なんて考えていると唯利さんが来た。うおぉ!!唯利さんの私服、なんて美しいんだ!
ワンピース姿の唯利さんはギルドの制服の時に比べ一段と柔らかい印象だ。
「食事まだですよね?良かったら私が作りますね」
唯利さんの手料理!?これは夢か?今日だけやたら幸せな気がする。あの称号のおかげか?確か運に補正がかかるってあった気がする。ステータスは変わってなかったけど。
「ありがとうございます!それで、相談なんですけど…ちょっと人に聞かれたく無くて」
人に聞かれると先を越される可能性がある。出来れば唯利さんだけに話しておきたい。
「分かりました、急ぎましょうか」
。
「ここが唯利さんの…」
なんかすっげぇ豪邸に来たんだが…。え?やっぱお嬢様なの?
「さ、どうぞ!」
どうぞって…メイドや執事が何コイツみたいな目で見てくるんですけど…。
「お、お邪魔しま~す」
「私の部屋まで案内しますね」
ギロリ…。メイド達から熱い視線を受ける。
ひっぃ!俺のSAN値が削れていく。
「中どうぞ」
「は、はい…」
ここが唯利さんの部屋かぁ…なんか俺の部屋に比べて可愛いなぁ。
ぬいぐるみや小学生が好みそうな小物入れなど、俺の部屋と全く違う事が新鮮だった。
「それで、相談と言うのは?」
「あ、黄金ダンジョンについてです」
「最近は黄金ダンジョンにお熱ですよねぇ」
ご、ごめんなさい…。受付嬢はシーカーの功績によって受付嬢としての評価が下される。
そんな専属のシーカーが初心者御用達のダンジョンに潜ってれば少し思う所もあるだろう。
「その...もしかしたら隠しフロアの手掛かりが分かったかも知れません」
「えぇっ!?あのダンジョンのですか!?」
唯利さんが驚く。やっぱそうだよね。あれだけ人気のダンジョンに隠しフロアがあるってなったら瞬く間に拡散されることとなるだろう。
「はい…詳細はですね…」
それから今日起こった出来事について話した。
石碑の事、称号の事、ネームドモンスターらしき名前の事…。
「エルドラド…聞いたことありません…その称号についてもです」
唯利さんが知らないとなると…本当に初めての可能性があるな…。
「どう思いますか?やっぱ俺じゃあ厳しいですよね…」
自分の実力はまさにシーカーの最底辺。そんな俺が隠しフロアなんて自殺行為そのものだ。
「……私は帳さんがしたい様にすれば良いと思います。サポートは惜しみません」
意外だ。唯利さんなら俺のことを心配して止めるように促すと思ったんだが…。
「私、帳さんと会った時思ったんです。この人は特別かも知れないって」
えっ!?俺の事を…なんかむず痒いな…。
「それに、隠しフロアを見つけるのが趣味なんて人、いませんよ!」
それはそうかも知れない。一人で探そうとなると途方もない時間が掛かる。隠しフロアなんて攻略中に見つけれればラッキーぐらいの感覚の人が多い。
「帳さん、今の装備じゃ厳しいかもしれないので…私の家にあるのなら好きに持って行って下さい!」
「良いんですか!?でも…唯利さんに迷惑を掛ける訳には…」
「何言ってるんですか!私たちは一心同体。専属の受付嬢ですから!サポートは惜しみません!!!」
あぁ…俺の専属受付嬢が唯利さんで良かった…。
「それじゃあ武器だけお借りします…本当に唯利さんが受付嬢で良かった」
「私も鼻が高いです!何か困った事があればいつでも頼って下さいね」
うぅ…眩しい。俺にはあまりに不相応な人だ…。
。
。
。
唯利さんの屋敷からプラチナソードを借り、戻って来た。
取り敢えず…準備だ。唯利さんに迷惑を掛ける訳にはいかない。絶対に生きて攻略して見せる!
「取り敢えず…ガン爺に鍵作ってもらうか」
ガン爺は俺が良くしてもらってる鍛冶師のおっさんだ。鍛冶一筋でよくお嫁さんに怒られているのが偶に傷だけど。
。
「ガン爺!居るかー!!」
しーん…。ありゃ…今日は都合が悪かったか。
「あれ…帳兄ぃどうしたの?」
「あ、雫ちゃん、ガン爺いる?」
雫ちゃんはガン爺の娘さん。ガン爺とは似ても似つかない超絶美少女だ。
「パパなら工房にいるよ!帳兄ぃあそぼ!」
無邪気な笑顔が眩しい。いやぁ、ガン爺と知り合えて良かったなぁ。こんな美少女に兄扱いされるなんて。
「今日はちょっと予定がね…また今度いっぱい遊ぼうね」
「つまんなーい!でも帳兄ぃいつも遊んでくれるから好き!」
ムフフ…。愛い奴め。頭をぐしゃぐしゃしてやろうか!
「じゃあね帳兄ぃ!」
そう言って家に戻ってしまった。
因みに家の横に工房があるので、特に不便は無い。
「ガン爺!ちょっと頼み事聞いてくれ!!」
工房に入りながら言う。工房内は異常な熱気が籠っており、肌を焦がす勢いだった。多分ついさっきまで鍛冶してたんだろう。
「お?坊主じゃねぇか!なんだお前、この前ブロンズソード打ち直してやっただろ?」
「今日は武器じゃねぇよ!鍵を作って欲しいんだ!」
「鍵だぁ?なんでまた?」
「理由はまあ、今度話すよ。とりあえず鍵を作って欲しい!材料はこいつ等で!」
取り敢えず黄金ダンジョンのレアドロップを渡す。ガマの油が使うのかどうかは分からないが…ガマの油は複数個持っているため問題ない。
「おぉん…なかなか珍しい材料じゃねぇか?この枝なんてレア度8だぞ?」
え!?黄金の枝はレア度8なんかよ!?
レア度はアイテムや素材に付くレア度の事で最大10まで確認されている。そのレア度が高いほど優秀だったり、素材として重要だったりすることが多い。
「てかガン爺鑑定のレベルいくつだよ?」
俺の鑑定じゃレア度は表示されない。ってなると結構高レベルの鑑定なんじゃ無いだろうか。
「んなこたぁどうでも良い。レア度8なんて滅多に見る機会がねぇ…本当に良いのか?」
「あ、ああ頼む!鍵の形状はなんだって良い」
石碑には特に記載されていなかった。多分鍵であれば何でもいいんじゃないだろうか?
「分かった。2時間くらい待ってな!直ぐに用意してやる」
「え?そんな直ぐ出来んの?」
早くない?もっと二週間くらい要求されると思っていた。
「雫と遊んでやってくれ。お前に懐いているからな」
まぁ、良いけど。
。
「帳兄ぃ、お馬さん!!」
「ひひーん!!」
雫ちゃんの前で馬の姿勢になる。大体雫ちゃんは俺の背中に乗るのが好きみたいで、こうやってお馬さんごっこを毎回させられる。
成人男性が情けないっていうのはかんべんな?俺だってしたくてしてるわけじゃ無いから!
「私のお馬さんは最強!ママに向かってとつげきぃ!」
それは無理だ!!ガン爺の奥さんは美人だけどおっかないで有名な人だ。そんな人に突撃なんて命が幾つあっても足りない!!
「帳君…ごめんなさいね?雫ったら帳君ばっかと遊んで」
「大丈夫です。あられさん」
あられさんが申しわけ無さそうな顔で言う。いやぁ美人母娘だなぁ。
「帳兄ぃ!とつげき!」
髪の毛をげしげし引っ張れられる。地味に痛い…。
「こぉら!雫!帳君が困ってるでしょ」
「うぅ...まおうが現れた!」
なんてことを!あられさんはどう見たって女神でしょ!?
「だぁれが魔王ですって!?」
「うぎゃぁ!帳兄ぃ!!」
「帳君の後ろに隠れたって無駄よ?私は世界を統べる悪逆の王なのだから」
不気味な笑みを浮かべながら雫ちゃんに迫る。
その迫力は結構なもので、後ろに闇のオーラを纏っていると錯覚させるほどであった。
「何してんだお前ら…おい坊主、鍵出来たぞ」
もうそんなに時間が経ったのか。
「助かったよガン爺!」
「料金はそうだな…雫とこれからも遊んでやってくれ」
ガン爺の良い所はここだよな。ま、もっと金が稼げたらちゃんと払おう…。それがこの人たちに対する恩返しだ。
「本当にありがとうね帳君。この頑固親父ったら、雫をほっぽりだしていつも仕事仕事」
あられさんが愚痴り始める。不味い!この流れは!
「お、おい!坊主!早く行くんだ!お前まで巻き込まれることは無い!!」
雫さんの愚痴は数時間にわたって続く。何度か経験してるが、結構辛い。
「あ、ありがとうガン爺!!!また来るぜ!!雫ちゃんもまたね!」
「帳兄ぃ!!ばいばーい!!」
そんなこんなで鍵の製作は呆気なく終わったのだった。
ネームドとか称号とかスキルとか妄想するの楽しすぎて永遠にアイデアが浮かんでくるぜ