そして【光輝】へと
──ドクン……ドクン……ドクン……
それは“何か”が目覚める音。
ずっと静かに眠っていた何かが、俺の奥底で呻き始めている。
【光輝共鳴】時に感じる高揚感。あるいは無敵感。
黄金の光が帳の周囲に揺蕩う。
世界の色が薄れ、音が遠ざかり、ただ一つの存在が帳の心理に降りてくる。
──龍王、エルドラド。
姿はない。けれどその“意志”は、確かに彼の心臓に、魂に、触れていた。
──お前は、もう引き返せない
声は哀しみを孕んでいた。
子を叱る親のような音の響き。だが、その声に、怒りも憐れみもなかった。
帳の胸に刺さる。
“もう引き返せない”──それが何を意味するのか、帳は本能で理解していた。
人間をやめる…それは人にとって一つの死刑宣告。人として一つの枠組みから外れてしまう。その意味を。
「あぁ…構わないさ。俺一人が人じゃ無くたって誰も困らない」
家族も居ない。友人も居ない。施設で育った俺には何もない。だからこそ覚悟を決めることが出来る。
「唯利さん、ガン爺、雫ちゃん…」
今まで世話になった人たちの顔が浮かび上がる。心配してくれているだろう。唯利さんも雫ちゃんも。いや、それは俺の勝手な思い込みか。
後悔をする予定はない。
だから、今はお前に任せた…エルドラド。
──安心しろ。我は見届けよう
ふっ…。心強いじゃねぇの。
光が収束し始める。その輝きはこのフロア全体を覆う程の輝きを放っていた。
誰もが見惚れるその中心に、一人の男が立っていた。
髪は金色に光り輝き、体に浮かぶ金色の紋様。今までと違う事は俺の背後にある【光輪】だろうか。それは正に神の降臨とでも言うべきか。いや、自分で神って言いたい訳では無いんだが…。なんとなくな。
「この力…お前のモノだったのか。エルドラド」
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小鳥遊帳 【光輝なる民(人族)】 lv 379
体力:24400
魔力:33600
筋力:10200
敏捷:11600
知力:3500
運 :3500
スキル一覧
古代語 LvMAX、剣術 Lv10、身体強化 【煌】、エルドラドの瞳【封】、【光輝共鳴】、【光輝変換】
称号一覧
【光輝なる民】、黄金郷の踏破者、記憶を紡ぎシ者【封】、【赫輝】屠りし者、因果から外れし者
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。
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一体なにが起こっているの…。
目覚めた時、何故か金色に光る男?てか人?が居た。勿論あの悪夢…カマキリ型モンスターも居る。
「あ、アルマはっ!?」
そうだ。一番大事な事はアルマの安否。
「え...?」
私が気絶する前は確かに胴体部分が分かれていた筈だ。だが…
「あ、アルマっ!」
私の呼びかけに反応があった。ぴくっと少し動いたのだ。生きている!アルマは生きているんだ!
だが...何故?何故アルマの体が繋がっているんだろう?そんな行為の回復魔法もポーションも聞いたことが無い。
もしかして…あの光輝いている人が…?
って…あの人どっかで見たような…。
「あ、ソロのお兄さん…」
そうだ。あの採掘場で出会ったお兄さんだ。何故ここに…。
それにあの姿は一体…。
だが、アルマは生きている。それだけで私は十分だ…。
。
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ステータスが倍になった。それは光輝なる民になったからか、あるいは【光輝変換】のおかげか。いずれにしても…強くなったことに変わりはない。
「第二ラウンドといこうぜ、カマキリ野郎」
進化した個体…グラディアス=インフェリオ。多分だが、今までフロアボスを倒して、捕食し、進化したのだろう。その強さは尊敬するに値する。弱者のジャイアントキリング…お前はそれは幾度と成し遂げたんだろ?だが、今回は相手が悪かったぜ。
なんてったって、あの”黄金龍王エルドラド”の最初の臣下だぜ?
「キシッ…キシャァ!」
再び姿が消える。凄いな…際限なしにステルス状態になれるのか。進化で得た能力か…それとも元々あったスキルでここまで進化出来たのか。
「だが…相手が悪かったな」
俺の能力の一つ…未来視。それは姿を消してもお前がどこに現れ、どこを攻撃してくるのか筒抜けって事だ。
俺の後ろに突如出来た【光輪】。これの能力も試しておきたい。共鳴時にある程度情報が流れてきたが、実際に使ってみないと分からないからな。それに全ての能力を知った訳でもない。
試すには丁度良い相手だな。強敵、それにステルス持ちだ。
「先ずは一つ目だ」
【光輪】が有する能力、その一つ。
「展開しろ【光輝盾鱗】」
グラディアスの鎌が迫る。
だが、それを待ち構えていたのは、空中に浮かぶ数多の光鱗。
カァンッ!!!
甲高い音と共に、グラディアス=インフェリオの鎌が弾かれ、鎌の軌道を逸らす。
「増す増す相性が悪くなっちまった見てぇだな」
もうグラディアス=インフェリオの攻撃が通る事は無いだろう。この【光輝盾鱗】は俺の魔力に比例して強度が増す。共鳴状態の俺は魔力が倍。グラディアス=インフェリオからすれば相性最悪の相手だろう。
「自慢の鎌が通らなかったぜ。どうする?お前の攻撃はもう俺には届かねぇ」
グラディアス=インフェリオに初めて困惑と言った動きが見える。その狩の本能から俺とは相対するべきではないと感じ取ったみたいだな。
「キシャ」
再び姿が消える。自慢の鎌が弾かれた事なんか気にしていないとでも言うように。
アイツはここまで格下ながらジャイアントキリングを為してきた奴だ。油断なんかしていられない。
少し礼を欠いた。敬意をもって相対するに相応しい。
「行くぜグラディアス=インフェリオ。お前の全力と俺の全力、どっちが最後に立ってるか」
【光輪】の能力。その二。
【光輪】が歯車のようにガコン…と音を立てて回転する。
「円環に帰せ【光輝終輪】(オウリス・フィオール)」
ガコンッ…。【光輪】から迸り魔力が形を成していく。
その【光輝】の魔力が俺を中心に円環状に広がっていく。黄金の紋様が俺の体に浮かび上がってくる。
俺の内側に流れる魔力が徐々に、徐々に【光輪】へと流れる。
「キシッ!キシ…キシャ!!!」
困惑、あるいは動揺。この円環状に入れば不味い…それを本能で理解しているため、動けない。
ならばこっちから行くまで。
「展開」
金色の円環がさらに広がる。
そして…
「キシャァァッ!!!!」
本能から天井に向かい跳躍。だが…逃げ場は無いぜ。
金色の円環はグラディアス=インフェリオを追尾し、天井に向かい進路を変える。
ステルスも意味が無い。俺には未来が視えてる。
そしてついにグラディアス=インフェリオに到達。
到達した瞬間にその金色の円環が弾ける。全てを切り刻まんとするように。
「ギシャッ!?ジジ」
墜落。翅はズタボロに裂け、体の至る所から緑色の血液が流れる。満身創痍。そう呼ぶに相応しい。
「グラディアス=インフェリオ、お前はここに居るべきじゃ無かった」
進化した事による逸脱。その強さはこのダンジョンの主である”火山”グランドトータスをも凌ぐだろう。そんな化け物が20階層に繋がるボスフロアに出現するのは
”絶望”と呼ぶに相応しい。
「終わりだ…【光輝終輪】(オウリス・フィオール)」
グラディアス=インフェリオに再び金色の円環が迫る。
そして…
「ギャシッ…!?キシ…」
グラディアス=インフェリオを無に帰さんと弾けた。
終わったな…。お前は凄い。ここまで進化したこと、誇れ。
「ふぅ…」
安堵、あるいは達成感。初めて人を助けたことによる自己満とでも言うべきか。
俺の安堵と同時に【光輪】が消える。魔力の消費が激しい為、出現させるだけでも結構しんどい。
グラディアス=インフェリオのドロップアイテムでも確認するか。
周囲を見渡す。
「無い…どこだ?」
だが…どこにも奴のドロップアイテムが見つから無かった。
「アイテムドロップしないタイプのモンスター?どういうことだ」
あの時確実に仕留めた筈だ。慢心もしていなければ手加減もしていない。本気で殺しに行った攻撃だった。
「まさか…まだ死んでいない?」
もし、もしあの時命中する段階であいつが進化していたとしたら?俺と戦ったことで進化した可能性は?ならば…あの攻撃をいなす事も出来たかも知れない。
それに…ステルスの進化。奴のステルスが進化していたら俺が勘違いしたのも辻褄が合う。
「……嘘だろ」
俺の仮説を後押しするように、フロアの中央に奴が現れる。
更に禍々しい姿となって…。
蟲型ってロマンの塊。ここから少し長い闘いが始まります