進化の果てに...
「おいおい、逃げてばっかでもうここまで来ちまったよ」
もうフロアボスの近くまで来た。あのカマキリ共…戦う意思が全く感じられなかった。
なんだよ全く…。まあ、ボスで憂さ晴らしでもするか。
「あ?なんか声が聞こえるな」
本の少しだが、声がする。自分が歩く音より小さいその声は確かに助けを求めているように聞こえた。
「だ、誰か!?助けてっ!!!」
ボスフロアの方から複数人が流れてくる。一体何かあったのだろうか?
「どうしました?」
取り敢えず近づいて声を掛けてみる。
「あっ…あの!!私たちのチームがっ!?」
「落ち着いて。ゆっくりでいいから落ち着いて」
焦りか、何を伝えようとしているのか全く分からない。だが、多分中で何かあったのだけは解る。
「し、知らないモンスターがボスフロアに現れて…それで」
なるほどね。それで仲間が中にまだ居るって事だろう。
「案内してくれ」
。
「なるほどね…」
目の前に広がる惨劇。一人は壁に叩きつけられたのか、鎧が砕け動かない。もう一人は…体が真っ二つだ。
「あ、アルマ…っ」
女の子の一人が言う。あの二つになってしまった子がアルマって言うんだろう。
だが…微かにだが。呼吸はしている様だ。だが、時間の問題だろう。出血がひどい。内臓も曝け出している。
「で、その原因があそこに居るカマキリって事か」
《焔斬蟷螂》よりも一回り以上大きい個体。いや、もう別種だろうか。その禍々しさは言い表せないものであった。
ー----------------------------------
《灼斬鎌蟷王》グラディアス=インフェリオ lv 359・・・あらゆるモンスターを狩り、進化し続けている《焔斬蟷螂の王》。その鎌は進化により段々と切れ味が増していく、正に死神の鎌である。
ー----------------------------------
おいおい…ネームドモンスターじゃねぇか…。
しかもこのレベル…一体何があったんだよ。
多分…”火山”の名を冠するグランドトータスよりレベルが高いんじゃないだろうか。
そりゃ…いきなりこのレベルのモンスターと戦わされるとは思わないよな。さっきまでの女王なんて眼じゃない。
しかも進化するって…こいつをこのまま放置したらヤバそうなことは解る。
「ここでの事は他言しないでくれますか?」
「う、うんっ!約束する!だから助けてあげて…っ!」
仲間を見捨てることはしない。良いチームじゃないか。憧れるな…。
【光輝の欠片】を取り出す。今は出し惜しむ場合じゃない。あの二人の命がかかっているんだ。
「頼むぜエルドラドっ!!!」
【光輝の欠片】を自身と同調させる。
刹那…眩い黄金の魔力が周囲に迸った。その発生源は俺は。
「す、すごい…」
【光輝共鳴状態】制限時間は非常に短い。それに使用後は一時的に意識を失った。賭けに出るには少々代償が重い。だが、このチームを助けたいと思ってしまった。
──視界再展開:4.8秒先
──対象:少女 アルマ
──状況:心肺活動停止まで 2.1秒
──可能選択肢表示:
┗干渉:成功率 2%
──最適行動ルート:存在せず
《推奨行動:干渉》
「2%だ?十分すぎるな!!」
──エルドラドの瞳・直結起動
──干渉式展開中
▸ 対象因果軸書き換え中……成功率:2% → 5% → 2%
▸ 死:73%進行
▸ 死の拒絶:失敗
「……なら、“拒絶”するまでだろ」
帳の手が、アルマの胸に触れる。
その瞬間、彼の背後で《黄金龍王》の影が一瞬だけ重なる。だが、それも帳の中にすぐ消えた。
「エルドラド……力、借りるぜ」
【光輝】の魔力がアルマに流れ込む。否、干渉している事象にチャージされていく。
「うぉおおおおおおおおお!!!!!!全部持っていきやがれ!!」
ありったけを流す。出し惜しみなんて無い。全力の全力。
──因果逆定義【強制書換】
▸ 再構築進捗:……2%→61% → 74% → 93% → 100%
【光輝】の魔力がアルマに纏わりつく。まるで天から降り注ぐ神の恩寵のごとくその光景に誰もが声を出せないでいる。
【光輝】の魔力が収束する。誰もが息を呑んで見守っている。果たしてその死の因果は干渉出来たのか、俺にだって分からない。可能性は2%だった。俺の魔力もこれ以上使ってしまったらあのボスに全員が殺されるだろう。だからこれが最後。アルマと呼ばれる少女がどうなるか、だれも分からない。
「お、俺が倒れない内にあのカマキリを…」
限界も近い。魔力残量も極僅か…。だが、まだ【光輝共鳴】は続いている。
コイツを倒せば後は任せればいい…。心配しなくてもこのチームならば生還出来る筈だ。
「待たせたな…感じるぜ、お前怯えてんだろ?」
何故このカマキリが仕掛けてこなかったのか…。それは未知の力に対する恐怖。
「……なんだよ、来ないのか?」
帳が、かすれた声で笑った。
「ここまで、必死に進化してきたんだろ?食って、裂いて、血反吐吐いて、強くなったんだろ?」
瞳が、地の底を射抜くように鋭くなる。
「──じゃあ、見せてみろよ。お前の“底力”ってやつをさ」
一瞬。ほんの一瞬。
グラディアス=インフェリオの六脚が、ぴくりと震えた。
その時だった。
進化個体が吠えた。
咆哮でも、鳴き声でもない。ただただ、恐怖に対する“怒声”だった。
そして────動いた。
「消えた…?」
さっきまで居たカマキリが突如として姿を消す。
帳は周囲に視線を巡らす。
岩壁の間、薄い赤の粒子が舞うだけ。
だが、それが“異常”だ。
──本来あるはずの、空気の流れがない。
──魔力の流れが、一点を避けるように撥ね返っている。
「……見えてないだけ、か」
直感が告げていた。
“そいつ”はそこにいる。
「どんなからくりだ」
──視界再展開:4.8秒先
──選択肢:
・干渉成功率 31%
目を閉じる。
肉眼には映らない。聴覚も無意味。熱源も消されている。だが…
「未来には“残ってる”」
──視界再展開:3.2秒先──
右肩すれすれを、見えざる“鎌”が掠める。
空間が裂け、背後の岩盤が斜めに断たれる。
「──視えた」
未来視は“結果”を示す。
その未来を見て、反射ではなく、確信で動く。
──視界再展開:2.1秒先
──選択肢:
・カウンター成功率 70%
・干渉成功率 4%
「……それで十分だ」
息を吸い、拳を握りしめる。
「視えたなら、叩き込むだけだ!!」
一歩跳躍
──視界再展開:0.9秒先
──カウンター成功率──100%
掌が、宙にある“なにか”を掴んだ。
「そこだッ!!」
【光輝】の魔力を纏った拳が”なにか”を殴り飛ばす。
空気が割れ、グラディアス=インフェリオのステルスが破られる。
カマキリの幻影が砕け、鋭利な双鎌が跳ね上がり、肩をかすめて飛ぶ。
だが──拳はその顔面を完全に捉えていた。
「──視えてんだよ、全部……っ!」
右ストレートの衝撃で、カマキリ野郎が吹き飛ぶ。ボスフロアの壁にカマキリ型の穴が出来る程の衝撃であった。
しかし…
「キシ…キシャ」
これだけじゃ無理か...。制限時間ももう間もなく…詰んだか?
このままじゃ俺の命だけじゃない…助けた命すら無駄になってしまう。
それに…俺を倒した後、このカマキリはもっと化け物なるだろう。なんなら【光輝】を吸収して灼炎鳥のように手に負えない強さになる可能性だってある。
なら…ここで諦める訳にはいかねぇよな。僅かな可能性…だが、前々から思っていた事。
【光輝の欠片】でこんだけ強化されるんだ。【光輝なる果実】を使ったらどうなる?
前食べた時は特に何も起こらなかった。だが…あれから色々と変化している。エルドラドから貰った称号。それに【光輝共鳴】の獲得。ただの憶測ではない。確かに何か起こると言う予感はある。
「なら…賭けるしかないよな!」
【光輝なる果実】を取り出す。前と違い、取り出した瞬間から俺の中に流れる【光輝】の魔力と共鳴し始める。
覚悟を決めろ。自分に何が起きるかは分からない。だが、大丈夫だ。俺はあのエルドラドの民だ。心配するな。
【光輝なる果実】を齧る。
進化していくモンスターかっこいいデスよね。ドロップアイテムどうしようかな