【赫輝】灼炎鳥Ⅰ
「新しいモンスターだな」
次に現れたのは鳥だった。只の鳥では無く、燃え盛る鳥…まるで不死鳥のような見た目だった。
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灼炎鳥 lv91 灼炎を纏いし鳥型モンスター。その灼炎は周囲の景色を歪ませるほど。
ドロップアイテム候補・灼炎の羽、鳳爪晶
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まあ弱点を教えてくれなかったが…多分俺が知る必要ないと思ったからだろう。どう見たって水の魔力に弱そうだし。
「グゥゥゥゥ……キィ!!!」
空中でホバリングしている灼炎鳥が低く唸る。俺の存在に気付き、警告か、それとも殺意を訴えているのだろうか。
俺の耳に届いた唸り声は今まで聞いたモンスターの鳴き声に比べもっともモンスターらしい声だった。
「クルル…クァ!!」
翼を広げたその瞬間、炎の波動が一気に俺の身体を襲う。
「ッ――!!!」
即座に【身体強化Lv5】を起動し、跳躍。
だが、それを見越したかのように灼炎鳥が一声、グゥゥゥ……ギィイイアアアアアァァ!!!
周囲に熱風が炸裂し、羽根がばら撒かれる。
「避けろって方が無理だな……!」
咄嗟に地面へ滑り込み、岩の陰に隠れながら剣をかざす。
――だが羽根は地面に突き刺さった直後、爆発を起こした。
「おいおい…嘘だろ?このレベル帯でこの強さかよ!?」
余りにもさっきのジュエルリザードと強さの桁が違うだろ!?
駄目だ…このままでは防戦一方。波撃で遠距離攻撃したいが、その隙すらも与えてくれない。
どうする…っ!?
「アイテムを使うか…?」
岩陰に隠れながら考える。光輝の欠片…ただ光り輝く宝石。鍛冶の素材としてこれ以上ないが…目くらましに使えないだろうか?
取り敢えず試してみるか…。
アイツが纏う炎、その揺らぎが見えた時がチャンスだ。
チャンスまであいつの攻撃を気合で避け続ける。
「ギィアアアアアアアアアア!!!」
羽の雨が降ってくる。あの羽一つ一つが爆発を起こす凶悪な技だ。
爆発によって周囲の岩などが爆散し始める。
爆発している内は相手の視界も制限される筈だ!この隙に相手の裏を突こう。
岩が爆散したことにより砂煙が周囲を満たす。それだけでこのモンスターの凶悪性が分かると言うモノ。熱波と爆炎が乱れ飛び、灼炎鳥は周囲を炎の迷宮へと変えていた。
だが今はお前も視界が見えねぇだろ!光輝の欠片を取り出す。その光は砂埃を感じさせない程の輝きを帯びていた。
「墜ちやがれ、このクソ鳥――!」
俺はそれを思い切り前方へと投擲した。
――シュルルルッ……
空中で欠片が砕け、爆発的な白光が戦場を照らす。
光は直撃せずとも、鳥の眼には致命的な閃光となるはずだった。
しかし――
「……クル、ク……ァアア……?」
灼炎鳥が、奇妙に声を震わせた。
その瞳が、閃光に焼かれるどころか、逆に光を吸い込んでいく。
「……何だ?」
次の瞬間、灼炎鳥の身体が蒼白に染まり始めた。
「おいおいおいおい!!!どういう事だ!?」
灼炎鳥の全身から吹き出す業火が、逆に静かな青白い炎へと転じていく。
そして、その胸部で――光輝の欠片が共鳴し、内側から脈動する。
ドクン…ドクン。誰の心音か、俺か?それとも目の前のこの鳥か?
ただ、今分かることは想定外の事が起きているという事。
「クァアアアアアァァァアアアアアア!!!!!」
灼炎鳥が悲鳴のような咆哮を上げた瞬間――
その羽根が砕け、再構築されていく。今度は、炎と光を併せ持つ神聖な姿へと。
――そして光り輝く蒼炎の灼炎鳥へと変貌を遂げた。
「おいおい……マジかよ……」
ただでさえ強かった灼炎鳥が今目の前で変異…進化?なんて言えば良いのか分らんが…取り敢えず滅茶苦茶強そうになってしまった。
取り敢えず鑑定か。まだレベルで勝っているならば大丈夫だ。
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【赫輝】灼炎鳥 lv620 光り輝く蒼炎と成りし灼炎の支配者。かつて”火種”を求めた神々はこの【赫輝】灼炎鳥へと至らせるために神の禁術を用いたとされる。
弱点であった水の魔力を克服し、水の魔力からも炎の魔力を生成できる逆相共鳴を獲得した。
光り輝く羽は神炎を纏い、周囲のあらゆるものを浄化する。
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「は?は?」
余りにもふざけている。レベル620?それに弱点無し?どうすれば良いってんだ?
光輝モンスターはその単純な行動パターンからレベルさえ上がれば難しい相手では無かった。
でも今回は違う。行動パターンは凶悪、なのに光輝モンスターより高レベル。それに遠距離だ。
「おいおい…どうやって勝てば良いんだよ!?」
それに【赫輝】ってなんだよ?こいつに光輝の欠片を投げつけた瞬間こうなった。
そもそも光輝の欠片にそんな効果があるのか?モンスターに対して初めて使った為、確証は得られないが、もし全てのモンスターがこうなるのだったらとんでもないアイテムって事になる。
「──キ、ィィィ……アァァァアアアァッ!!」
灼炎鳥が鳴く。ただそれだけだった。
しかし…周囲はその異様な熱により蜃気楼がかかり始める。
「……やばいな、これ」
その姿の異様さに、俺は反射的に地を蹴った。
その瞬間、【赫輝】灼炎鳥の一閃が炸裂。
光り輝く蒼炎の翼が振り下ろされ、地面が斜めに切り裂かれる。岩盤が真空のように吸い込まれ、切断面が溶け落ちる。
「っ、速すぎる……!」
視界を絞って飛翔する影を捉える。
魔力を出来る限り体に纏わせる。多分これまでの戦いでレベルが上がったのだろう。身体強化が強化されている。
「クゥアァ……ヒィ……クルゥゥ……」
周囲に無数の蒼炎が展開され、自身を囲むように空間を包囲する。
直後、蒼炎が光速の軌道で飛翔。回避に専念するが、髪をかすめた破片が地面に触れると、岩が蒸発する。
「おいおいっ!!!なんだよそれ!?」
蒸発って!?当たったら即死クラスだろ!?
それに蜃気楼のせいでまるで瞬間移動しているかのように早く見える。視界状況が悪いのもあって非常に不利な戦いと言わざるを得ない。
一方的な攻撃。こちらがどうすることも出来ないその力にただ避ける事しか出来ない。
赫輝灼炎鳥が鳴く――。
「──キ、ィィィ……アァァァアアアァッ!!」
空間が軋む。蒼炎が空間そのものを歪めていく。
「チッ……っぶねぇっ!!」
視界を遮る蜃気楼の中を飛び回り、全身で空間の歪みを読む。
敏捷と運、そして鍛えた戦場勘を総動員して、蒼炎の奔流を避け続けた。
だが…。
「──なに……っ!?」
空を裂いて【赫輝】灼炎鳥が急降下する。
翼をたたみ、光弾のように突っ込んでくる。
視えたその瞬間には、もう遅い。
「が……ッ!」
ドォンッ!!!!
灼熱の衝撃が腹に直撃。
空中で吹き飛び、岩壁に叩きつけられる。
皮膚が焼け、装備の一部が剥がれ落ちる。
「ッ……はぁ、はぁ……くそ……」
痛みで視界が滲む。だが、まだ倒れない。
自身の中に一つの確信があった。光輝の欠片だ。これをもしかしたら自身に使う事が出来るかもしれない。
だが、それは同時に自分で無くなると言う可能性も秘めている。灼炎鳥みたいな化け物にだってなる可能性がある。
「こんな化け物放置するのは…ちげぇよな」
自身が産み出してしまった責任は取らなければいけない。
「……やってみる価値はある」
ためらわず、掌に突き立てるように魔力を込めて――
光輝の欠片を自身に同化させた。
――瞬間。
視界が白に染まり、全神経が金と蒼に焼かれる。
「──ッッッ!!?」
熱くないのに熱い。
痛みではないのに全身が裂ける感覚。
まるで、内側から何かが“目覚める”。
(なにが……起きてる……!?)
骨が軋み、皮膚が発光し、魔力の流れが根底から“再構成”されていく。
その時、脳裏に響いたのは懐かしい声だった。
『我が民よ……お前の内に眠る“遺骸”が、今……目覚める』
──黄金龍王エルドラドの声だった。
「……そうか。これは……“光輝の民”の……!」
帳の中に、眠っていた何か。
黄金郷を踏破した時に与えられた《称号》――“黄金龍王エルドラドの民”。
その真の意味。