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第九話

今話のみフェリシア・エライユ視点です。

明るい陽の光が暗い視界を照らす。


「リアー!」

「フェリシア!!」

「おーい」


幼い子供たちの声で、自分の名前が呼ばれている。目を開き、その声に答えたいと思う気持ちに、体は従ってくれないようだ。


「連れて来て良かったの?」

「うん、そうじゃないと離れ離れになっちゃうからね」

「起きないね」

「もうすぐ起きるよ、きっと」

「そうだね、もうすぐだよ、きっと」


ようやく気がついた。子供たちの中に、フィアがいる。そしてつまり、精霊たちの中に私がいる。


「何をしているのですか」

「ピシュル様!」

「あのね、リアがリアと離れ離れになっちゃいそうだったから連れて来たの」

「そうでしたか、良くなったら帰してあげるのですよ」

「「はーい!」」


どうやら、大精霊ピシュル様もおられるようだ。


しばらく周辺の気配を伺っていたが、他に誰かがいるような感じはしない。フィア以外に、話している精霊が誰なのかはよくわからない。


正確に、どれくらい時間が経ったのかもわからない。でも、自分の体を認識し、意識がはっきりした時には1時間以上経っていた気がする。



「…ん」

「リアぁ!!」

「フェリシアが起きたよー」


思っていたよりも体がある空間が明るくて、久しぶりに光を受けた瞳は反射的に閉じられた。何度か瞬きを繰り返し、目が慣れるのを待つ。


「おはよう、リア」

「ピシュル様にお知らせしないとー!」


視界がはっきりして体を起こしてみると、自分が置かれている状況を理解するのにまた時間がかかった。



「ここ、は…?」

「精霊界だよっ!」


フィアが元気よく答えた。

そこは、森の中に白亜の聖殿が建ち、一体化しているような空間だった。そこかしこに植物らしきものが生えている。


「精霊界、つまり私は死んでしまった?」

「ううん、魂は生きているし、体もなんとか生きてるよ」

「そう、良かった」


ほっと安心したのも束の間、フィアは表情を変えずに言った。


「でもね、もうすぐ死んじゃうの」

「…えっ」

「今のリアはね、魂と体が離れ離れになりかけているの。それでね、私が精霊界に連れてきて、なんとか繋ぎ止めている状況なんだ。だからね、このままリアが精霊界にいるままだと繋がりが切れて死んじゃうの」


フィアが告げる現状と未来は、あまりに残酷だった。


「じゃあ元の世界に戻ればいいってこと?」

「うん。でも今はまだ戻れないの。リアの体は深く傷ついているし、毒のせいでフィアがなんとかしてあげることもできないんだ。ごめんね」

「毒…?」


「リアの国で『禁忌の毒』って呼ばれている毒があったでしょう?」

「え、えぇ。確か精霊の加護を受けている者に特によく効く毒、だったかしら」

「そう。あれはね、人間の魂と体を遠く切り離してしまう毒なんだ」

「どうしてそんな危険な毒が…」


『禁忌の毒』は世界各国で猛毒として、製造、所持、使用が禁じられている。賊は、そんな代物を使ってステラを亡き者にしようとしていた輩だったということだ。


「それにね、あの毒は精霊の干渉を阻害する効果もあるの」

「…でも、フィアは?」

「フィアは守りと癒しの精霊だからね、他の精霊よりも効きにくいんだよ!」

「そう、ありがとう、フィア」


フィアはえっへんと胸を張って、キラキラと笑った。


「私はこれからどうすれば元の世界に戻れるの?」

「うぅんと、リアにできることはない、かな」

「…そう」



ステラを庇い刺された時、死の覚悟はできていた。

王太子妃となったステラが幸せそうに笑っている姿を見て、私も自分のことのように幸せだった。きっと、ステラは私の死を悲しんでくれるだろうけれど、その後にもう1度笑ってくれると信じているから、自分が死んでしまってもいいと思った。


でも、ジェフのせいで心変わりした。

私を抱き寄せて、何度も名前を呼んだジェフの焦った顔が、今でも脳裏に焼き付いて離れない。ジェフのことだから、私の側でずっと起きるのを待ち続けているのだろう。

そう考えると、自分の生を諦められなくなってしまった。


臣下として、ステラを守り死ぬことが名誉なことだと思っているわけではない。

ただ、ステラを大切な友人として慕う1人の人間として、庇ったことは後悔していないというだけだ。

でも、だからこそ、元の世界に戻って、ステラとジェフに、ノーランに笑いかけることだけが、本当の意味でステラを救うことになるのではないか。


だから私は、諦めたくない。諦められない。


生きたい!




「フェリシア、ピシュル様が呼んでる」

「えぇと、リトフ?」

「うん、久しぶり」


リトフに案内され、たどり着いたのは玉座の間のような空間だった。

前方の椅子に腰掛けている、長い銀髪の人物。すぐに誰なのか分かった。

ひざまづき、深々と頭を下げる。


「フェリシア・エライユ、こうして話すのは初めてですね」

「はい、恐悦至極に存じます」

「そのように堅苦しい言動は好みません。楽にしてください」

「仰せのままに」


私は立ち上がって淑女の礼をした。


大精霊ピシュル様。

ノーランに加護を与えている方で、精霊界の原点にして頂点に君臨する王的存在だ。

長い銀髪を肩に流し、凛と佇むお姿は、直視するのも烏滸がましいと思うほど。


「して、今回は災難でしたね。こちらとしても謝罪します」

「い、いえっ! ピシュル様にそのようなお言葉を頂戴することではございません」


私が精霊界に来たのは人間側の事情が発端であるし、フィアが手を出せないのも毒物のせいだ。こちらが感謝することはあれど、ピシュル様に謝罪して頂くことなどないはずだ。


「それがですね、謝罪しなければならない理由があるのです」


そう仰ったピシュル様は、長い長い精霊の歴史を語ってくださった。人間が誕生するよりもはるか昔、まだ精霊界しか存在しなかった時代の話を。



「…というわけです」

「そのような経緯があったとは存じ上げませんでした。私はただ、人間の軋轢が生んだ事件だとばかり思っておりました」


ピシュル様の話通りだとすると、かなり厄介なことになっている。調査をしているであろうノーランやジェフは手こずっているはずだ。


「ピシュル様、お願いがございます」


今、私が精霊界にいる意味を、ここで果たせる役割を、考え、実行することだけが、人間界にいるみんなを応援できる唯一の方法。

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