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第七話

ノーランとステラの結婚式から1週間と数日。

待ちに待った、この日。



「お初にお目にかかります、王太子殿下。ラトソル男爵家当主、参上いたしました」

「あぁ、王都までご苦労。そなたを呼んだのは他でもない、昨年男爵家の推薦で騎士団に入団したブラッドという人物について聞きたいことがあったからだ」


ノーランの言葉に男爵は、何なりとお聞きください、と言って微笑んだ。



結婚式の日、早馬を出して呼び出したラトソル男爵。国王陛下の命で出された呼び出しのため、領地から急いでやってきたそうだ。


ラトソル男爵領はクロサイトの中でも南の方に位置し、温暖な気候が好まれて観光業で栄えている。男爵本人は商人としての腕が立つ人物なので、領地経営も大きな問題なく行なっているそうだ。

ただ、資金繰りに関しては不審な点が見つかり、騎士団の調査を受けた。男爵が経営している商会からの利益に申告漏れがあったため、不足分に加えて賠償金も支払ったという。正直なところ、商人として特段珍しい話ではないので大きく騒ぎ立てるほどのことではなかったが。



「まず、ブラッドを推薦するに至った経緯を説明してもらおうか」


騎士を推薦するという行為がその貴族家の名誉にかけて行われる以上、不用意に信頼の置けない人物を選ぶはずはない。何かしら、彼を推薦した理由というものがあるはずだ。


「商人として各国を渡り歩いていた際に何度か護衛として雇ったことがありました。そして私が貴族となり、数年が経った頃、騎士に推薦してもらえないかと連絡があったのです。任務に責任を持って遂行する真面目な人物像を知っておりましたので、王城の騎士に推薦をした次第でございます」


「そうか。では、最後にブラッドと連絡を取ったのはいつだ?」

「2週間ほど前にございます。ブラッドとは1ヶ月に1度の頻度で定期的に連絡を取っていました。支障なく働いているかどうか確認するということで、推薦の際に取り決めたためです」


ここまでの男爵の説明に、怪しい点は見受けられない。騎士団が先行して行っていた調査の結果と齟齬もない。


「最後の質問だ。『精霊殺し』という名前に心当たりはあるか?」

「精霊殺し、ですか」

「あぁ、商人として各国を渡り歩いた経験のある男爵なら知っているのではないかと思ってな」


『精霊殺し』

それは、リアを刺した凶器に塗布されていた毒の別名。



つい昨日、結婚式の日から調べていた毒物の名前が判明した。

この国では『禁忌の毒』と呼ばれ、製造、所持、使用は当然禁止されている。過去に1度、当時の王弟殿下がこの毒を盛られて殺されたことがあり、それからこの国で大変恐れられている猛毒だ。


調査当初、そんな猛毒が使われているとは考えもしなかった騎士団の調査グループは、国内で入手できる毒を全て内密に調べ上げた。しかし、その中に一致する毒は見つからず、調査は難航。頭を抱えることとなった。

これ以上調べることはできないと思っていたところ、ノーランの提案と国王陛下の命で、厳重に保管されていた『禁忌の毒』のサンプルとの照合が行われた。その結果、同一のものだと判明したのだ。


確かに、ちょっとした毒くらいでは倒れないリアがここまでの状況に陥っていることから考えると『禁忌の毒』くらい使われていても全く不思議ではない。


そして、この『禁忌の毒』は南国ルピナスで『精霊殺し』と呼ばれている。クロサイト王国と同様に精霊が住む珍しい国であるルピナスでも、精霊の加護を受けるものたちの間で恐れられている。


『禁忌の毒』 『精霊殺し』

その名に相応しく、この毒は精霊の加護を受ける者に特に強い効果をもたらすものであるからだ。過去に毒殺された王弟殿下も、大精霊ピシュル様の加護を受けていたと聞く。



「いえ、存じ上げておりません」

「そうか、残念だな」

「その『精霊殺し』が王太子妃殺害未遂事件で使われた毒物なのですか?」

「いいや、まだ調査中で分かっていない。…これで質問は終わりだ。遠路はるばるご苦労であった。しばらく王城でゆっくりしていくと良い」

「とんでもございません。ありがたき幸せに存じます」


こうして、今回のキーパーソンであるラトソル男爵への質問は終わった。

男爵は恭しく礼をして、執務室を後にした。きっと今頃、ノーランの侍従によって専用の部屋へ案内されているのだろう。



少しして、ステラが執務室へと入ってきた。


「待たせたかしら」

「いや、ちょうど今終わったところだよ」


ノーランは、メイドが淹れなおした紅茶に口をつけ、ほうっと息をつく。


「ジェフも座って」

「あぁ、失礼する」


ノーランとステラの正面に相対する形で腰を下ろした。

ここからは、主人と臣下としてではなく、長年の友人たちとして。


「ステラ、リアの状態は?」

「良くも悪くも変わりない、かな。せめてフィアと連絡が取れれば良いんだけど…」

「それは仕方がないね」


フィアどころか、ピシュル様をはじめとするルリ、リトフとすら連絡が取れていない。


「それで、交渉はどうだった?」

「結論から言うと、あちらも内密に調査をしてくれるそうよ。これも全部リアのおかげね」


ステラが担当した交渉は上手くいったようだ。さすが元・知のアメトリン公爵令嬢である。


「そうか。ありがとう、ステラ」

「ううん、私なんて何も。これくらい、何の償いにもなってない」


ステラは、あの日から数日間、完全に塞ぎ込んでいた。成婚パレードをはじめとする公務は、王太子妃としてつつがなくこなしていたが、貼り付けられた笑顔が大層痛々しかった。

しかし、ここ数日はうってかわり、リアのために出来ることを全力で頑張ろうとしている。きっと、少しずつではあるが、事件解決の時が見えてきているからだ。


「リアが目を覚ましたら、1番最初に謝るの。その次には感謝を伝えるわ。だから早く、なるべく早く事件を解決する!」

「もちろんだよ」


僕たち3人は決意を新たにし、お互いに視線を交わした。



「さて、行こうか、ジェフ」

「あぁ」


ノーランと僕は執務室出て、男爵の部屋へと向かった。

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