第五十四話
(更新の日にちが随分と空いてしまい申し訳ございません! 必ず完結はさせますので、今後ともよろしくお願い致します。)
「リア、今から少し時間いいかな?」
「…? えぇ」
陛下との話し合いを終えてステラの執務室に戻ろうとした時、背後からジェフが声をかけてきた。
この後は急ぎの仕事も特にないので、少しくらいジェフと話をしていてもステラに迷惑はかからないだろう。
私たちは王城の中庭に出て、ベンチに座った。私たちが仕事の合間によく休憩をする場所でもある。冬に向けて少しずつ涼しくなってきているが、昼間はまだ日が出ていて暖かい。
「まずは、陛下に仕事の継続を認めてもらえたことを祝わないとね。おめでとう!」
「ありがとう、ジェフ。これも全部、お義父様たちやジェフが賛成して応援してくれたおかげだわ」
結婚後に夫人が外で職を持つなど、他の貴族たちからなんと言われるか分かったものではない。アーヴァイン家のことを悪く言う人間も少なからず出てくることだろう。にも関わらず、私が相談をした時から共に悩んでくれたジェフと、快く許してくださったお義父様とお義母様には頭が上がらない。
「それは違うよ、リア。陛下も、ノーランたちも、いくら親しい相手だとしても仕事の出来ない人間を近くに置くほど甘い人たちじゃない。みんなこの国の今と未来を担っている責任ある立場だからね。それでもリアを引き続き補佐役と認めるのは、リアの今までの努力と実力を認めているからでしょう。だからもっと、自分の功績だって誇ってもいいんだよ」
涼しい風が頬を撫でる中庭で、ジェフの手はとても温かく感じられた。ジェフが真っ直ぐに私を認めてくれるから、私ももう少し自分を認めても良いのかもしれないと思うことができる。
「えぇ、私を褒めてくれるジェフを信じることにするわ」
「それと、陛下から長期休暇の許可をいただいた以上、早めに結婚式の日程を決めてしまわないといけない。リアはいつ頃がいいか考えてた?」
私たち2人は、ノーランとステラの補佐役という国にとっても重要な立ち位置にいる。そんな仕事を長期間休むのだから、関係各所への調整が必要となることは目に見えている。早く決めるに越したことはないだろう。
「そうね… 明確にいつ、とまでは考えていなかったのだけれど、なんとなく暖かい時期がいいなと思ってはいるわ。各領におられる方々をお呼びするにしても、条件が良い方が良いでしょう?」
「確かにそうだね。春… はもうさすがに間に合わないから、急いで準備をして次の夏かな」
結婚式というものは、本来準備に時間がかかるものである。ありとあらゆる準備を行うのに、1年ほどかかることも珍しくない。実際に、ノーランとステラの結婚式もそれぐらいかかった。
しかし、次の夏ということは今から数えて約半年。まだ何も準備がされていない状況から始めるにはあまりに時間が足りない。
「かなり厳しいスケジュールね。間に合うかしら」
「確かに余裕はないけれど、ノーランたちの時とは違って国外から人を大勢呼ぶわけでもないからなんとか間に合うと思うよ。もちろん補佐役の仕事をしながらになるから大変なことは間違いないけど」
良いのか悪いのか、ステラの補佐役として無茶はさせられ慣れている。今は特段忙しいわけではないので、結婚式の準備が加わっても問題なく処理できるはずだ。
「分かったわ。一緒に頑張りましょう!」
私の決意に頷いたジェフは徐に立ち上がり、跪いて私を見上げた。
「改めて、フェリシア・エライユ嬢、僕と結婚していただけませんか?」
予想外の展開に頭の処理が追いつかなくなる。もう婚約をしている以上、こんなふうに再度求婚の言葉を贈ってもらえるなどと思っていなかったから。
それでも、答えないまま待たせるわけにもいかないし、私の心はとうの昔に決まっているので、すぐに差し出された手を取って答えた。
「はい、どうぞよろしくお願いいたします」
それからの私たちは、それぞれの両親に報告をした。日程等は好きに決めなさいと私たちに一任されていたので、あくまで報告である。
そして、次に行うのは詳しい日程の決定だ。また、会場の決定、衣装と招待状の準備等々、こなさないといけないことはあげるとキリがない。この国では女性が準備を担当することがほとんどだが、等しく仕事をしているのだから、とジェフも手伝ってくれているのでかなり負担は小さいと言えるだろう。
「結婚の時期も、新婚旅行のことも、また何も聞かされていなかったのですけれど、リア?」
「あら、陛下と家族の次に伝えたのはステラよ。急に決まったことだから許してちょうだい」
「…それなら仕方がないわね。結婚式まで補佐役の仕事をセーブすることもできるけれど、どうする?」
「今のままで大丈夫よ。ジェフも分担してくれているし、1度ステラたちの準備に携わった経験のおかげでスムーズに進められているの」
ステラは配慮を申し出てくれたけれど、周囲の助けを受けて準備を進めているので問題ない。今までと同じように補佐役としての仕事をこなせるはずだ。
「そうだ、リアに聞かないといけないことがあるのよ」
「…?」
心当たりは何も無いが、なぜだかステラの瞳はキラキラと輝いている。
「ジェフが改めて求婚したらしいじゃない!」
「ど、うしてそれを…」
あの時、中庭にはほとんど人がいなかったはずだ。例え誰かが見ていたとしても、それがステラの所まで上がってくる可能性は無に近い。
「ノーランがジェフに事情聴取したそうなの。嬉々として教えてくれたわ」
「ノーラン…」
ジェフから直接ノーランが聞いたのなら、ステラが知っていても仕方がない。別に聞かれて困ることでもないので、隠す必要はないのだが。ただ、少し気恥しいだけだ。
「1度婚約をしてしまえば改めて求婚することなんてほとんどないのに、ジェフったらやるわね! リアを任せても良いわ」
「急に跪きだしたから驚いたわ。もう1度あの時の気持ちを味わうことが出来るだなんて思ってもみなかったから嬉しかったけどね」
今回求婚の言葉を改めて貰い承諾したことで、ジェフの隣に並び立ち、支える覚悟が固まったようにも思える。
ステラの補佐役としても、ジェフの妻としても、自分が求められる役割をこなしていくことが、今の私に出来ること。




