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第四話

式が終わると、ダンスホールで大規模なパーティーが開かれる。国外の王族や国内の貴族を集め、王太子夫妻を祝うのだ。


「王太子殿下、王太子妃殿下、本日は誠におめでとうございます。無事にこの日が迎えられましたことを、大変嬉しく思っております」

「…ふっ、はは!」

「や、やめてよリア。おもしろ、いや、堅苦しいのは無しにしましょう」


堪えきれず笑い出したノーランと、なんとか繕ったつもりのステラ。1番気に食わないのは、隣で口元を緩めながらも真剣な態度を崩さないジェフだ。


「もう、3人とも怒るわよ」


ひとしきり笑って、いつも通りの私たちが戻ってきた。円卓につき、ほっと一息つく。


「とっても素敵だったわ!」

「リアにそう言ってもらえて嬉しい。私たちのためにたくさん手伝ってくれて本当にありがとう」


美しき新婦は、新郎を見上げて笑った。彼らは本当に幸せそうで、見ているこちらまでもが幸せな気持ちになってくる。


「何度も練習したかいがあったな」

「あぁ、おかげで手順通りにミスなく終われたよ」


エスコートをするノーランは、ジェフと一緒に練習を重ねていたのだ。国内の貴族だけではなく、国外の王族も集まる場で、次期国王が醜態を晒すわけにはいかないから。



「フィアたちも祝いに来てくれていたわね」

「うん、僕たちからも見えたよ」


今日参列していた人たちの中で、実際に精霊の祝福を目にしたことがある人はほんのひと握りだろう。また、精霊の姿を目視できる人も限られている。そのため、先ほどの光景を目にして、精霊の祝福だと理解した人はそう多くないはずだ。


「リトフなんて、もう5年以上姿を見せていなかったのに」

「まぁ、彼は特に気まぐれだからね」

「ピシュルたちが説得して連れて来てくれたんじゃないかな」

「確かにそうかも知れないわ」


ステラは笑って、来てくれてありがとう、と呟いた。



「明日はお昼から成婚パレードで、その後はゆっくりできるのね」

「全てが終わったら、僕たちだけじゃなくてジェフとリアにも休んでもらわないと」


ここ半年以上、完全な1日休みをとっていなかったので、できれば何もせずにゆっくり過ごしたい。2人の手伝いができて嬉しいということと、休みが欲しいということは別で考えてほしいところだ。


ジェフもうんうんと同意したので、ノーランとステラは笑って保証するよ、と言ってくれた。

そんな穏やかな時間が流れていた時、楽団が演奏を始めた。


「さぁ、ダンスの時間だよ」

「行きましょうか」


ノーランとステラは互いに手を取り合ってホールの中心へと繰り出して行った。今回のパーティーの主役である2人が定位置についたら、音楽は大きくなる。


2人は微笑みながらステップを始め、まさに絵画のような美しい光景を目にすることとなる。


「綺麗…」

「本当にお似合いだわ」


そんな声が周囲から聞こえてくる。王太子妃となったステラは元々礼儀作法や教養が完璧だと言われていたが、花嫁修行の一環として学び直しをしていたので、こうして認められて嬉しいはずだ。


「ねぇ、ジェフ」

「うん?」

「2人の幸せそうな顔が見られて、頑張ったかいがあったわね」

「あぁ、本当に」


2人の友人として、臣下として、共に頑張ってきてよかったと、心の底からそう思う。


1曲目が終わり、会場は割れんばかりの拍手に包まれた。単に2人のダンスが素晴らしかったのではない。王太子夫妻の輝かしい未来への祝福と期待のこもった拍手である。

2曲目からは、他の参加者たちもダンスの輪に加わる。2〜5曲目の間に一度はパートナーと共に踊るのがマナーだ。


「フェリシア嬢、この私にファーストダンスを共にする名誉を頂けませんか」

「ふふっ、もちろんですわ」


恭しく差し出されたジェフの手を取り、フロアの中央まで進む。途中、ノーランとステラと目が合った。にこりと微笑まれたので、先ほどのダンス良かったわよ、と微笑み返しておいた。


もちろん、ジェフと踊るのは初めてではない。むしろ、共に踊ったことがある殿方の中ではジェフが1番回数が多い。


「失敗だけはできないわね…」

「フェリシア嬢が失敗している姿など、お見かけしたことがございませんが」

「もう、ジェフったら」


ノーランとステラの友人として、恥ずかしい振る舞いは出来ないことに変わりはないが、ジェフのおかげで少しばかり肩の力は抜けたような気がする。


音楽とジェフのリードに身を任せ、王太子夫妻を彩る花々の一部のように舞う。何の引っかかりもない、非常に心地よい時間が流れていく。


「…リア?」

「幸せだなぁと思って」

「うん、そうだね」


ノーランとステラが微笑んでこちらを見ている。

もう、どこからどう見ても素敵な夫婦。誰もが憧れる王太子夫妻。そんな2人が幸せそうで、私も幸せだ。


曲が終わり、礼をして輪から外れた。マナーとして1曲は踊ったし、まだまだパーティーは長く続くから。


「何か飲み物を取ってくるよ」

「ありがとう。ノーランたちの近くにいるわね」


ジェフと別れてホール前方へと歩き出した。


「リア、お疲れ様」

「ありがとう。久しぶりに踊って少し疲れたわ」


ここ1年、ほとんど社交界に出ていなかったので、注目を浴びて気疲れした。


「やっぱりリアとジェフのダンスは綺麗よね」

「そう?ステラたちの方が洗練されていると思うけれど…」

「うーん、何と言うかね、お互いの信頼が見えるのかなぁ」


ステラの言葉にノーランが確かに、と同意した時、視界の端がバチッと光った。警告の赤だ。

私はドレスを翻して振り返り、周囲を警戒した。何かが迫っている、そうフィアが言っているのだ。


「どうかした?」

「うん、少し下がってて」


そう言った瞬間、きらりと光る鈍銀色を捉えた。


「ステラ!!」

「えっ?」


叫んだのが先か、足を動かしたのが先か。

凶器とステラの間に、体を滑り込ませた。

じわりと腹部が熱くなり、自力で体を支えることができなくなる。


「リア!!」


ステラの叫ぶ声が聞こえて、ついに膝をついた。

代わりに支えてくれたのはジェフだった。


「リア!」

「ステラは…?」

「大丈夫。それよりもリアが!」

「ふふっ、そんなに焦った顔、初めて見たわ」

「そんなこと言っている場合じゃな…い、リア!リア!?フェリシア!!」


意識の底へ、導かれるがままに落ちていった。

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