第二十一話
「リーダー格の男には、強力な自白剤を使用して取り調べを行なっております。後々精神異常をきたしてしまう代物ですので、多用は避けたいところですが、本人の忠誠心ゆえか口を割らないので今後も厳しいかと」
「現在のところ、本拠地である建物内の捜索は7割程度終了致しました。本日中に捜査を終え、明日の会議には報告をあげることができると思います。現時点で押収したものの一覧はこちらです。現物は別室に保管してありますので、ご覧になりたい方はそちらで」
配布された書類に目を落としつつ、文官たちの話に耳を傾ける。
ここは、王宮の会議室。事件についての情報共有が行われている。ここで僕が得た情報を、帰ってノーランに伝達するのだ。
「建物内には、多くの偶像と宗教画が保管・展示されていました。特に、祈りの場として使われていたと思われる場所には、大きな像が置かれており、供物もされていました」
「その供物を調査した結果、おそらく人肉であると判明しました」
「人肉だと…!?」
「殺人にも手を染めていたということか!」
ステラを2度襲撃しているような集団なので、特段驚きはないが、聞いていて心地よい話ではないし、何者かが殺されたという事実に腹が立たないわけでもない。
「詳しい解析はこれからですが、おそらく被害者は幼い子供。それも、愛し子だったようです」
「…!?」
「つまり、教団は幼い愛し子をなんらかの目的のために殺害し、供物として利用していた」
「なんてことを…」
「そもそも、愛し子は生後すぐに教会で保護されるはずでは!?」
「教会が察知するよりも先に、教団が手にかけていたということになりますね。殺められたのがこの子だけとは考えにくいです。もっと他にも、犠牲になった子供がいるかもしれません」
聞けば聞くほど、残酷な話だ。
生まれて間もない幼子を、愛し子だという理由で殺害し、供物として偶像の前に置くなど、人間のすることではない。大人だったら良いという話では決してないが、僕自身の人間としての感情からして、幼子を手にかける方が許せない。
当然だが、殺人は世界各国どこの国でも禁じられているし、亡骸を埋葬しないことも罪に問われる。ある日突然、その人が生きられたはずの明日を奪う行為が許されるはずはない。また、亡くなった人の体を埋葬せず、宗教的な供物として利用するなどもってのほか。
精霊信仰に厚いとはいえ、信教の自由が認められているルピナスにおいて、どの宗教を信じて行動をするかは本人の自由だが、それは殺人を犯すことの免罪符にはならない。
もう少し、僕たちが早く本拠地に気がつくことができていたら。その子が愛し子として生まれなければ。たらればの例え話に価値などないことはよく分かっている。それでも、この世界の光を見ることすらなかったかもしれないその幼子のことを思うと、例え話もせずにはいられない。
クロサイトの地下牢に負けず劣らず、真っ暗な地下にある囚人牢。常人なら、数時間いただけで気が狂いそうだ。
「こんにちは、昨夜ぶりだな」
「……」
男は、すでに精神異常をきたしているのか、目は虚で口はパクパクと音を発さずに開閉するだけ。もう、知っていることは話しきった後だろう。
「聞きたいことがある。お前たちはどこから『精霊殺し』を入手していた?」
信精教団の本拠地の建物内には、調毒ができるような設備はおろか、材料となりそうなものすらなかった。つまり、外部で作られたものを持ち込んだか、我々が知らない方法で作っていたのか。
「ディレンス様の、多大なる祝福の産物…愛し子を、ディレンス様の元へと捧げるための、の…」
知らない名前が出てきた。ディレンス。男の口ぶりからして、教団が崇め奉っていた大精霊の名前か。
「もうひとつ、お前が教祖か?」
「教祖、教祖…そうだ、私こそ、偉大なる信精教団の教祖だぁぁぁ!!」
もはや男は完全に壊れてしまっているが、ここまでの情報が得られれば後は自力で調べることができる。何も、この男だけが教団の関係者ではないのだ。今この地下牢には、37名の身柄が確保されている。
「他の関係者からの証言も取れて、やはり大精霊の名前はディレンスであると判明した。容姿については確認ができなかったが、あの紋様を見せるとひざまづいて頭を下げたくらいだからよほど信仰心が強いみたいだ」
「そうか。やはりあの姿見も教団のものだったね」
「それに、賊が口にしていた『教祖』がリーダー格の男であることも分かった。おそらく、教祖が信者たちに『精霊殺し』を与えて、ステラを襲撃させたというのが、今回の真実かな」
今回の件に関しては、本拠地を抑え、教祖の身柄を確保したのでこれ以上我々にできることは多くない。大精霊ディレンスが実在するのか、本当にその者が『精霊殺し』を作り、与えていたのか、調査したいことはまだまだあるのだが、ディレンスと相対する機会がないため、手を出すことができない。
「完全に全てが明らかになる前に、僕たちはクロサイトに帰ることになるか」
「そうだな。予定ではあと1週間、思っているよりもずっと、時間は足りないかもしれない」
ノーランをはじめとするステラや僕が抱えている案件は、何もこの信精教団関連だけではない。今後のクロサイトールピナス間の友好関係をより強固なものとするために、同盟の締結や関係性の構築に勤しんでいる。一連の事件に関する案件をある程度片付けたとしても、僕たちが滞在中に行わなければならない仕事の量が大きく減るとは言い切れない。
「帰国したら、1日でいいから休みが欲しいところだ」
普段は仕事熱心で、休みたいと言うことなんてほとんどないノーランがこう言うほどに、僕たちの負担は大きいのだ。




