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第十一話

ルピナスにおける精霊との関係性は、クロサイトとは大きく違う。


クロサイトで精霊の加護を受けているのは王家と公爵家の人間だけだ。逆に言うと、はるか昔、精霊の加護を受けた者が公爵位を賜ったということだ。


一方ルピナスでは、精霊の加護を受ける者は貴平問わず全員、教会で保護されている。そして精霊信仰に厚い国民性もあり、加護を受けた人間自体がまるで精霊かのように崇められているのだ。



「ご足労いただきありがとうございます。どうぞごゆっくりお過ごしください」


そんなルピナスの教会に足を運ぶと、こんなふうに出迎えられる。聖職者たちがずらっと並び、国賓以上の扱いだ。


今日は教会にいる、精霊の加護を受けている人間に会いに来た。フィアと連絡を取る足掛かりになるのではないだろうか、という期待を抱いて。

あの日、リアの笑顔を失った日から1度もルリたちと連絡が取れていない。生まれてこの方こんなことはなかったので、内心焦りを感じ始めている。焦っても仕方がないことは当然分かっているのだが、どうしてもリアの状況が気になってしまうのだ。


「『愛し子』様との面会をご希望とのことで承っておりますが」

「えぇ、その通りです。少々ご相談がありまして」

「そうでしたか。『愛し子』様方はこの中におられますので、どなたでもご自由にお声がけなさってください」


この教会を仕切っているらしい聖職者は深々と礼をして去って行った。


大きな扉をノックすると、中から女性の声で返答があった。名乗り、扉を開けると、そこには3名の愛し子がいた。2人はテーブルセットのソファに、もう1人は窓辺の椅子に。


「お初にお目にかかります。クロサイト王国から参りました、ジェフリー・アーヴァインと申します」

「ご丁寧にどうも。私はティルスと申します。貴族ではないので家名はありません」

「ティルス様ですね。本日はお時間をくださりありがとうございます」


白髪の女性ティルスは、どうぞおかけください、とソファを勧めてくれた。

ティルスの正面に腰を下ろすと、幼い少年と目が合う。ティルスに半分隠れるようにしてこちらを伺っている様子の彼と。


「こちらはルピア、あちらはクレイヴです」

幼い少年がルピア、窓辺の椅子で気だるそうに欠伸をしているのがクレイヴだそうだ。



ティルスは非常に聡明な女性であるとすぐに分かった。僕がここを訪ねた理由を浅く説明しただけで、すぐに精霊とコンタクトを取ってくれたほどに。


「…そう、そうなのね。…分かったわ、ありがとう」


ティルスが呼んだ精霊は、聖の精霊だった。フィアと同じ、守りと癒しに長けた精霊。

話を終えた彼女はすぐにこちらへ向き直って、話の内容を伝えてくれた。


「フィア様をはじめとする精霊様方が応答なさらないのは、エライユ様の側につきっきりだから、だそうです。詳しいことは知らないようで、これくらいしか聞き出せなかったのですが…」

「いえ、大変助かりました。連絡が取れない理由だけでも知ることができて良かったです」

「お役に立てたのなら幸いです」


ティルスの話ではっきりしたことが2つある。


1つ目は、リアが精霊たちの元にいることだ。

本来は即死でもおかしくない傷と毒を受けながらも、なんとか生を保っている状況から判断して、フィアたちがなんらかの形でリアを守ってくれていることは分かっていた。しかし、当然確証はなかったし、フィアたちがどこまで関わっているかは分かっていなかった。


2つ目は、リアの容態はいまだに危険であるということだ。

リアに加護を与えているフィアが側についていることにはなんの疑問もないが、ルリやリトフまでもがついている理由は1つしかない。フィアの力だけでリアを守ることができない状況にあるということ。本来なら、聖の精霊よりも守りと癒しに長けている精霊などピシュル様しかいない。そんなフィアが、ルリとリトフの力を借りなければならないほど、リアの容態は不安定で危険なのだ。



用件が済んだので、そろそろ王城へ戻ろうかと話の折り目を探っていた時、急にクレイヴが口を開いた。


「…それ」

「どうかしたの?」

「君のその胸ポケットに入っているもの、何?」


クレイヴは僕のジャケットを指差し、怪訝な顔をした。

大したものは入っていないが、と思いながらも、中身を全て机の上に出し、並べて見せた。


「これ、何?」

「あぁ、昨日破壊した姿見の破片です」

「は、破壊した?」


誤解を招きそうなので、ノーランとステラの存在を伏せつつ経緯を説明する。王城で器物損壊をしただなんて話、外部でそう易々とするものではないが。


「精霊の気配、いや」

「…大精霊」

「え、ルピア、今なんて…」

「これは大精霊の気配だよ、間違いない」


静かな部屋に、ルピアの声だけが通っていった。

大精霊の気配。確かにルピアはそう言った。一度自分の耳を疑ったが、何度反芻してもやはり、そう聞こえた。


「大精霊、つまりピシュル様の気配ということですか?」

「分からない。そうな気もするし、そうじゃない気もする」


彼の言葉は矛盾している。

大精霊と呼ばれる存在は、この世にたった1人しか存在しない。ノーランをはじめとするクロサイト王家に加護を与えているピシュル様だ。そもそも、元は精霊だったピシュル様が、クロサイト王家の始祖に加護を与え大精霊となったのだから、複数人存在するはずはないし、そんな話は聞いたことがない。

つまり、大精霊の気配でありながら、ピシュル様の気配ではないなんてことは起こり得ないのだ。


「僕は1度しかピシュル様にはお会いしたことがないから、詳しいことは分からない。言えることは、これは大精霊の気配だってこと」

「彼は、ルピアは少し特別な子なのです。愛し子の中でも特に精霊との繋がりが深くて、他人に加護を与えている精霊とも意思疎通ができるほどです。ですから、彼の言葉は信用に足ると、そう思います」


ティルスがそこまで言うのなら、こちらとしても信用するほかない。窓辺のクレイヴも意義なさそうであるし。


「分かりました。この件は持ち帰って調査し直してみます。またお力を借りる時が来るかもしれません」

「いつでもお待ちしております。他でもない、同じ愛し子同士ですから」


そう言って微笑んだティルスに礼を述べ、僕は王城へと戻った。有益な情報という土産を胸に。

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