1-第6章 あいつじゃない誰か
3時58分。
異世界生物が出始めるまで後2分。
あたりには緊張感が走る。
杏奈もやはり、顔には緊張の影が――――――――――。
♪~~~♪~♪~~~♪~~~~~
「ふふふ~~ん♪ふんふ~~~~ん♪」
浮かんじゃいなかった・・・・。
「おい・・・後2分だぞ?」
「ふぇ?あ、本当だ。ふーん・・・。ふふ~んふ~~ん♪」
・・・・・・聞いちゃいねぇ。
ここまで緊張感を覚えない人間は初めてだ。怪我をするかもしれないって言うのに・・・天然なのだか、マイペースなのだか。
杏奈の両耳にはイヤホンがついていて、その先にはあの超人気の某音楽プレイヤーがあった。・・・・・校則では禁止されていたと思うのだが。
「へ?いいのいいの、まどちゃんも持ってきてたし。」
円香さんいい大人になってるのに、ほら、ちっちゃい子が真似するじゃありませんの。というか、校則自体もあってないような物だしな。
今の杏奈の鼻歌を聴いていて思ったことがひとつ。
「今の曲、『ARICE』のFinally じゃないか?」
「あ、よく解ったね。そうだよ。ていうか、この音楽プレイヤー『ARICE』の曲しか入ってないよ。」
解るも何も・・・・
「そのグループのボーカル、家の姉貴。」
「へぇ~、そうなんだ~・・・・・って、え?」
今、超人気を集めているバンドグループ、『ARICE』。テレビに出ても、全員ルックスがいいし、トークも面白いと言うことで、どこの番組にも引っ張りだこ。と言うグループである。
「お姉さん、あのボーカルの陽菜さん?!」
苗字だけは変えて、直本陽菜。それが姉の芸名だ。なぜ苗字だけかは知らん。
「そうだ。」
「え?え?!うそ!!こんな近くに雛さんがいたなんて。私凄くファンなの!こんどさあ、よければサインもらって来てくれないかな?」
「・・・別にいいけど。」
書くのは俺じゃないんだからな。
「わ~~♪うれしいなぁ~♪陽菜さんのサインだ~~うなぁ~~~♪」
にっこりしてやがる。ああ、こんな話題持ち出すんじゃなかったなあ。これからが大変だっていうのに。
シュゥッッ
「あれ?」
「どうした?」
「イヤホンが・・・・」
垂れていたイヤホンがどこかに引っ掛けて強くひっぱてしまったのか、途中できれていた。
「おいおい、もっと気をつけろ・・・」
「え、でも、私何もしてないよ?・・・どうしてだろ。」
まあ、先程見たときにはこんなに切れてしまうほど変な体制ではなかったのだが。
「おい、落ちてるぞ。」
そう言って俺はしゃがんで音楽プレイヤーを拾う。
シュゥッッ・・・・・・・ズシャアアアァァァン!!!
轟音が鳴り響く。
ああ、今のは俺でもわかった。何背俺の頭すれすれを通っていったからな。
石柱が。
「雄一君!!」
杏奈が叫んだのが聞こえた。さきほどの轟音は、石柱が壁に当たって壁の崩れた音だった。
何処だ。・・・・何処から飛んできた。
シュゥッ・・・・・・・・どしゃああぁあぁぁぁん。
また近くで物の壊れる音がする。
今度はわかった。俺たちの正面から飛んできている。
先程は隠れていたのだろう。この石柱を飛ばしてきた奴は・・・・・
「「二宮金次郎!?!?」」
ハモった。
想定外の奴だった。だってこいつ、異世界生物じゃないだろ!?
「こんなの、聞いたこと無いよ・・・・」
杏奈も相当驚いているようだ。
そんな驚いている間にも、二宮金次郎はぎこちなく後ろに手を伸ばして薪を取る。いや、石像だから薪は石柱になるのか。
そんなゆっくりな動きに反して石柱はものすごい速さで飛んでくる。
「おっとっ!」
ぎりぎり見えて反応できるくらいだ。破壊力は抜群。当たったらとりあえず病院か霊柩車だろうな。
「なんで?どうしよう・・・・これじゃどう攻撃していいのかわからないよ・・・」
異世界生物には、絶対にどこか弱点がある。そこをつけばプラスの力を失って動けなくなるんだとか。例えば、飛竜なら牙を折ってしまえばいいし、天馬に関しては、背中に乗ってしまうだけでいい。
だがこいつは、思いっきりこの世界の産物だ。なのにどうして石像が動いているんだ?
「アハハハッ☆行け行け殺っちまえ!!僕の友達、二宮く~ん☆」
奇妙な声が当たり一帯に響く。甲高くて、耳がキーンとした。
ひょこ、っと金次郎の近くに白い物体が現れた。白い?・・・まあ白いけど、衣装がド派手だな。
「もしかして、道化?」
赤いお鼻ととんがった帽子と靴。何処からどう見たってあのサーカスにいるピエロだった。だが、あのピエロとは違う、正真正銘異世界生物の道化だ。だって、普通のピエロは宙にワイヤー無しで浮かないし。
「じゃあ、二宮金次郎を動かしているのは、操り人形?」
杏奈が相手の招待を暴く。すると空に耳障りな笑い声が響き渡った。
「ビンゴ~☆よく分かったね、お嬢ちゃん☆ ゴホウビニ、ニクカイニシテアゲル☆」
シュドオォォォン!!
杏奈一直線に石柱が飛ぶ!!壁が破壊され、辺りにコンクリートの煙がまう。
「杏奈!!」
俺は口の中に入ったコンクリートの破片をペッと吐き出し、杏奈のもとへ駆け寄った。
「大丈夫か!おい!!」
杏奈はむくっとゆっくりであったが起き上がった。ぎりぎりで避けれたようだが、衝撃で体が吹っ飛ばされていた。
「うう・・・・」
「無理して動かないほうがいいぞ!座ってろ!」
きひひ・・・・とあいつが笑う。
「あっれぇ?もう駄目なの?アハアハッ☆ ニンゲンはモロイナァ☆」
キリッ
今の言葉に怒ったのだろうか?杏奈の目つきが変わり、立ち上がった。
「おい!だから座ってろって・・・・」
「うるさい、こっちは舐められてんだぞ?このままでいいわけがねぇ。」
・・・・・杏奈?
「おっ!立った立った☆」
「・・・・・ずいぶん舐めてくれるじゃねえか。道化の分際で、あたしにでけぇ口叩いてんじゃねぇ!」
・・・・・・・・あんな?
雰囲気が、変わった。
「ソッチダッテ、タカガニンゲンジャナイカ☆」
すると杏奈(?)が人間とは思えないような跳躍力で飛ぶ。そして、ピエロの真横に音も無く着地した。
「来い!飛竜!天馬!」
眩い光が杏奈を急に取り囲んだかと思ったら、いつの間にか両手にはものすごくでかい大剣と、白い盾が握られていた。
そんな重そうなものを持っているにもかかわらず、杏奈の動きは早い。
「お前の弱点はここか?!頭か!それとも足なのかああ?!!」
大剣をはじめて振ったとは思えない動きで上手に攻撃していた。
「アハアハっ☆ 当たらない、アタラナイヨオォォォォオオオオ!?!?」
・・・・・俺は唖然として、その光景を見ているだけだった。どうみても、人間業とは思えない異様な光景の数々。それでも片方は人間ではないのだが、杏奈もどこかおかしい。・・・・いつもとは、雰囲気が違いすぎる。話し方も全然!
「・・・ちっ、しゃべり方のわりにゃあ、すばしっこい奴だぜ!」
攻防は続く。だが4時が終わるまで後3分!!
「あららぁ、も~こんな時間だぁ☆僕はお家へ帰らなきゃ☆」
最後の杏奈の大振を避け、道化は身を翻して杏奈の大剣の届かないところへ浮いた。
「マタネ☆ 脆弱なニンゲンサンタチ☆」
そう言って、裏山のほうへ飛んでいった。
「ちっ!逃がしたか。」
杏奈はバック転をして、俺のいる場所へ戻ってくる。
杏奈の顔は見えない。・・・・いや、こいつは本当に杏奈なのだろうか?
「杏・・・・奈?」
くるりとこちらをそいつは向きなおす。
「ん?なぁに?・・・ふふっ、逃げられちゃったね。」
「あ・・・・ああ、残念だ。」
「むぅ、雄一君はなにもしてないよ。」
「ああ、そうだったな。」
「むぅ。」
そこにいたのは、いつもの杏奈だった。
「さあて、明日はこの残念な結果の報告だね・・・・。帰ろっか。」
杏奈は手招きをしている。
いつのも杏奈だ。じゃあ、さっきのおかしな雰囲気のあいつは?
・・・・・・道化よりも不思議なことが起きた。誰なんだ、あいつ。
杏奈、お前は誰なんだ?
4月を師走にしてはいかが?と思うほど忙しい月です。
おかげでこんなに更新が遅くなってしまいました;;すみません;;
わたしも晴れて受験生。
少し更新がローペースになってしまうと思います^^;
そのぶん、頑張って、お話考えます!!