1-第5章 異世会
そしてそれから三日が経ちまして・・・・
「雄一君!一緒に資料室行こうよ。」
意外にも同じクラスだった最上級主こと如月杏奈は、こうしていつもフレンドリーに俺を呼んでいた。美人に声をかけられているので嫌な気はしないが、こうもよく話しかけられると・・・・
「・・・・・・・・。・・・・・・・・。」
・・・・・・・周りの目が恐い。
美人の力は強い。最近感じたことだ。ラッキーなことに「また、隣になったわね。」と笑顔で話しかけてくれた奈津美さんがお察しのとおり席隣になったわけなのだが、これまた逆にアンラッキーだったらしく、一年生で一、二を争う美人さんが俺の周り、しかもかなり近寄りやすい位置にいるため、どういうわけか先輩にまでも目をつけられている。・・・これが最高下級人の力なのか。幸運なのか不運なのか判らないな、オイ。
「むぅ!なにしてるの、早く行かないと皆待ってるよ!」
でた、「本人は無自覚なのになぜかネコかぶっているように思える口癖」!!・・・・本当に無自覚らしい。こいつは不思議だ。髪型も含めて。
なぜこいつが無自覚なのか、ってことを俺が知っているのかというと・・・まあ、これから会う人物が関係しているのだが――――――――――
「やっほー!今日も一通り授業終わったねー!ここへくるとなんか落ち着くよ。」
そう言って勢いよく入っていた。この前のように誰もいないわけではなく、各学年から集まってきている、主、下級人がいた。それこそ極少数だが。
「ふふ、今日も元気ね、あんちゃん。一年間顔を合わせる機会が無くて寂しかったけれど、こうやって今度は毎日顔を合わせられるから、どうってことないわ。」
大人のオーラをまとった長いウェーブの髪がよく似合うこの女の人は、二年生の九重円香さん。杏奈と円香さんは、中学が一緒だったらしく、もとから仲が良い。杏奈に関しては、円香さんには敬語は省いてしまっているようだ。
「まどちゃんはやっぱりすごいね。だって主だし、綺麗だし、頭いいし、。」
「・・・・あんちゃんにそれを言われると嫌味にしかきこえないんだけど。」
「ふぇ?」
円香さんはげんなりとした表情をしていた。・・・本人はまったぁーく理解していないようだが、確かに杏奈にそれを言われれば、嫌味だろう。円香さんちゃんと分かっていてくれているが、ちょっと気をつけるべきだと思う。確かに円香さんも普通に見れば綺麗な人だが、失礼だが杏奈ほどとは言えない。それにこいつは最上級主だ。最後のはどうか知らないが、あまり良いとはいえない。・・・・・まあ、それが杏奈らしいといってしまったらおしまいだが。
「いや、そんなこと言っちゃもったいないぜ、円香。お前も十分・・・・・」
そういって、ちょっと顔を赤らめているのが、同じく二年生の少しナルシストのくせに気が小さいという矛盾した性格の持ち主、東条秀哉先輩である。(女性の先輩にはさんをつけているのは、俺の呼びやすいと言うだけだからとくに気にしなくていい。)
「円香、そういえば今週の土日、暇だって言ってたよな。丁度映画のチケット二枚持っているけど、一緒に行か―――――――――」
「悪いけど、もしあなたが二枚チケットを持っているなら、盗ってあんちゃんと見に行くわ。」
「何でお前はいっつもその後輩といたいんだよ・・・・チクショウ!」
秀哉先輩が涙目で円香さんを見ていたため、「どうしてそんなに私と行きたいか分からないけど、行ってあげるから、そんな目で見ないで。」と、ため息をつきながらも承諾した。・・・まあ、分からないのは円香さん一人だが。
「まどちゃん、大人っぽいけど、こういうところ、鈍感だよね。」
「ああ。」
お察しのとおり、秀哉先輩は円香さんに、ホノ字、である。気付いていないのは、当の本人、円香さんのみであるが。
ちなみに、二学年の戦闘系(一学年なら飛竜である)の、雷光牛の主が円香さん、下級人が、秀哉先輩である。大型の角の生えた、乱暴極まりない牛さんだとか。(志音より:ミノタウロスは頭が獣で体が人間という説が大きいですが、ここでは省略。漢字も、ウィキを基に、志音作成。)
異世界生物と主の間には、武器化というスキル?のようなものがあり、主が異世界生物を武器として手に取り、敵と戦うという仕組みである。主が命じればいつでもそいつらは武器となり、主の右手となる。杏奈のときに異世界生物がみせたアクションも、この武器化だ。そして・・・・いつでも円香さんの隣には、ものすごく大きいハンマーがおいてある。・・・ちょっと恐い。
「ねぇねぇ、まどちゃん。」
「なにかしら。」
「今日もこれだけ?」
「いつものことじゃない。」
「そうだけど・・・・」
そう、この異世会に出席しなければいけないのは総勢十人。・・・・・なのに今、4人しかいない。後の六人がどうしているのかというと、前の異世界生物との戦闘で病院に行っているのが四人。後二人は全員変わったもの揃いで、好き勝手やっているっぽいから、異世会にも出ていないという話を聞いた。もちろん、この二人から。
ちなみに、病院行きの奴らは無論、主決会に出席していないのだが、そいつの写真で代用したらしい。驚いたのは、写真からでもプラスの力、マイナスの力の容量が分かるってことだ。
「しょうが無い、今日も揃わないけど、今日も異世会始めよー!!うなー!!」
最後の「うなー」の意味は分からないが、やるっきゃないよな。うん。俺もどっちかというとサボりたいんだが、杏奈に声をかけられてしまうとどうしても付いていってしまう。まあ、ここの雰囲気はいいし、初対面でもたった三日間でここまで仲良くしてもらっているのだから、迷惑はかけられない。そう思うと、やっぱりサボれないのだ。
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異世会の仕事はおもに四つ。
一つ目は、これは先日理事長が言っていたとおり、異世界生物の侵略の食い止め。理事長曰く、異世界生物が一般世界を攻めてきているのは、裏で動いているものによって呼ばれた者と、頭の悪い奴がこの世界を異世界と混合させようと考えている奴らしい。そんなことをすればどっちの世界も無くなるのだが、そんなことは異世界の学校では習わないとか。・・・・理事長が何でそのことを知っているのかは不思議だが。
二つ目は、D.ポストの管理である。D.ポストとは、異世会に寄せられる、オカルト現象がどこで起きた!などの異世界生物に関係ありそうなことがかかれた用紙を集める箱である。ここへ寄せられた用紙を基に、その場所へ出向き、調査をする。まあ、普段の生活の中で一番の主な活動だな。まず、一つ目の戦闘なんて考えられん。
三つ目は、異世会記録日記の記入。その名のとおり、普段の活動をまとめた日記である。皆めんどくさがるので、ジャンケンで公平に決めたところ、俺が書くことになってしまった。・・・・最高下級人の本領発揮だな。多少でも楽しく書こうと思い、私情を交えつつ書いている。・・・いつまでもつかな。
四つ目は、資料室の資料を読み、異世界生物についての研究である。昔の先輩方の残していってくれた資料や、理事長が独自に集めた資料がどっさりある中で、どうすれば相性の良い戦い方が出来るのか、もっと効率よく異世界生物を動かせないかなどを調べるらしい。それ以前に理事長に聞けば早いのでは?と思う奴がいるかもしれないが、よく考えてみろ、あの理事長が親切に教えてくれると思うか?聞きにいっても、「めんどくさいし資料があるんだからお前たちで調べればいいだろう。」と言って帰される。あの人は本気で異世界生物の侵略を止めたいと思っているのだろうか・・・・・・。
この研究は結構な価値があり、武器化というものも、ここの資料から発見されたものだ。・・・とはいったものの、頼りない資料も多い。なんせ、こんなことを調べている学者や研究家なんてこの世に存在していないからな。理事長が独断で調べたものや、生徒のものだし、生徒のものなんかかなりあやふやなものが多く、何を書いてあるかもさっぱり・・というものもある。そしてなぜか、理事長の書いたものは信憑性がある。・・・・・本当になぜだろうか。
今日の仕事は二つ目のD.ポストの管理。この三日間、一つも用紙が入っていなかったところをみると、今日も無さそうだと思ったのだが・・・・
「あるねぇ♪」
そういって、テンションが結構上がっている杏奈はそれを取り出してこちらに見せた。
「入ってるよ、用紙。」
なんてことだ。本格的に活動をしなくちゃならないなんて。
「読むよ?いい?・・・・・・えーっと・・・二年生の人から。」
「あんちゃん、別にいちいち学年まで言わなくてもいいわ。簡潔に内容だけ言って頂戴。」
「へぅ?そう?じゃあ・・・」
そういって用紙の内容を読み始める。
「いつもお疲れ様です。新学期始まって早々悪いのですが、学校の校舎の屋上に、なんか変な石柱が何本か刺さっていました。これってアレの仕業ではないでしょうか?生徒の悪戯も考えられますが、それにしても石柱がとても重いのです。調べてみてください。よろしくお願いします・・・・だって。」
部屋の空気が変わった。
「確かにそうね。怪しいわ。この字を見るとどうやら男の子のようだから、それが持ち上げられないのなら・・・・・。」
「いや、もしかしたらものすごく非力な奴かもよ?」
そんな二何二人組みに向かって俺は淡々と告げる。
「現場へ行けば一番早いですよ。」
全員賛成だった。ああ・・・やる気が無いのになぜか意見を出してしまう・・・
「わぁお・・・・・」
杏奈はそういった後、口だけあけて目の前の情景を見ている。
本当に驚いた。用紙に書いていった「何本か」のレベルじゃないだろ、これ。
「すごいわね・・・・」
校舎の屋上がどんな感じになっていたかというと・・・・・
五十本ほどの石柱が床、壁、フェンスに突き刺さっていた。
「こりゃすげーな。」
秀哉先輩も驚きの表情を隠せない。
もはやこれは人間業ではないだろう。まあ、石柱と言っても、肘から手も先より少し長いくらいで小さいものだが、それでもこれを五十本も運ぶとなるとまず無理としか考えられない。やっぱり、
「異世界生物ね・・・」
「でも、こんなことをする奴なんて、俺の資料を見た限りではいなかったんですけど。」
「俺もなかったなあ。」
「私も無いよ。」
ふむ、ミステリーだ。まだ俺にとっては異世界生物の存在がミステリーだが。
とりあえず、屋上をくまなく見てみることにした。まあ、どこをどう見ても、石柱、石柱、石柱だから、石柱以外に何も変わったところは無い。
一つ手にとって見てみると、重く、断面は円状なのだが、ぼこぼこしていた。・・・・この形、なんか見たことがある気がするが・・・・思い出せない。
「何も手がかりは無いわね・・・・」
円香さんが難しい顔をしている。
「こりゃあ、張るしかないな。」
秀哉先輩が言った。
「張る?」
「ああ。異次元生物のもっとも活発になる時間帯は覚えているよな?」
「午後四時ですよね?」
「そうだ。その時間帯にここで待ち伏せってことだ。」
うわあ、戦闘になりそうな雰囲気満々じゃないか・・・・
「あまりリスクは負いたくないけど、しょうがないわね。」
「じゃあ、私たちだけでいいよ、まどちゃん。」
「え?」
わっ!馬鹿!何を言いやがる。
「だって、まどちゃんが怪我したら嫌だし・・・・」
「あんちゃん・・・・」
はいそこ、百合モードに入らないでください。
「・・・・分かったわ。あんちゃんが言うならそうする。」
「おい!まだ入学して三日だぞ!危険じゃねーのか?」
「だってこの子達、初代と同じ組み合わせだから大丈夫だと思うけど。」
「それもそうだけどよ・・・・」
初代?何の話だろうか。
「それに、お手並み拝見ってことで。」
「うん、まどちゃん、私頑張る。」
「ええ。」
えーっと・・・・俺も・・・だよな?
「当たり前じゃない。まどちゃんと東条先輩が期待してくれてるんだから、やるんだよ!」
「お前のそのテンションはいつもどこから沸いてくるんだ。」
「ん?何か言った?」
「なんでも・・・・ない。」
はあ、こうして俺たち二人は、待ち伏せを実行することになった。・・・・・絶対、四人のほうが安全なのに、何を考えているんだ、こいつ。