1-第4章 最高下級人(ベスト・アンダー)
主という馬鹿げた役職(?)の犠牲者となった一年生は一人で済み、他は無事だった。
といっても、犠牲者となってしまったあの少女は可愛そうに。お悔やみ申し上げる。・・・・・・・・・死んじゃいないか。
そして、その少女の名前は如月杏奈というらしい。今は人だかりが集まってきてしまってかなり困惑した表情をしていた。その左手には白銀の盾、右手には彼女の背丈の半分以上もある大剣が握られている。彼女の身長がたぶん、160くらいに見えるから剣が1mとちょっとというところだろうか。
ぱっと見るとそんな大層な格好をしているもんだから、どこかのRPG主人公のような感じがする。
さて、とりあえず主決会は終わった(?)ようだ。体育館のほうからは、退場しているような足音が聞こえてくる。それにつられて一年生も水場へ向かう。上履きのまま外へ出ているからな。
『オイまてこらガキ共。』
理事長が何か言っている気がするが俺の中にあるレーダーが無視しろといっているので無視する。
『よしじゃあお前ら全員教材費三倍な。』
なに、それは困る。倍ならまだしも、三倍とは。高校生のお財布事情を知っているか?・・・これは死ぬぞ。
だが、これから何があるというんだ。
『二、三年は知ってるはずだと思うんだが、・・・・そんなに嫌か。』
体育館から「やだー!」とか、「しぬー!」とか、嫌そうな声が聞こえてくる。・・・何をするんだ。
『そんなに言うならしょうがない。免除・・・・・はやっぱりしてやらん。』
どSめ。
『新入生は知らないと思うから説明をしてやろう。これから下級人を決める。』
あんだー、とは?
『まさかお前たち、主を決めて異世界生物と仲良くなって、悪者倒して一件落着。ハイ、終わりとでも思っているのか?』
はーい、思ってましたー。
『人生そんなに甘くない。』
甘くあってほしかった。
『プラスの反対、マイナスの力が異世界生物が一般世界にいるときに起こる。マイナスの力とは、プラスの力の影響、幸運とは違い、対となる不運を周りに起こす力だ。お前た(・・・)ち(・)人間には、少しずつ、マイナスの力をもらっておける容量があるのだが、その容量がひときわ大きい人間を下級人と呼ぶ。つまり、可愛そうな事に、とことんどん底まで不幸になれる人のことだ。』
うわあ、嫌な役職。
『そいつを決めて、マイナスの力を押し付けないと、異世界生物は一般世界で生きていけない。まあ、下級人がマイナスの力を請け負ってやっていても、異世界生物はマイナスの力が嫌いなわけだから、下級人は恩を仇でいつも返されるわけなのだが。』
なんと報われない。・・・・まあ、どうせ俺には関係ないだろうから気にしない。それよりも先程の理事長の話の中にちょっと気になった部分があったんだが、・・・・・何処だったかな。
『下級人は、オカルト現象に遭いやすくなる。主は、この下級人の性質を利用して異世界生物を退治するんだ。そうじゃないと、主単体では逆に役に立たんからな。』
それもそうだな。・・・というか、もともと主が狙われればいいと思うのだが、これが本当の「人生そんなに甘くない」だな。
『ついでにこれも各学年二人だ。ちゃっちゃと決めて帰るぞー。』
よーし、これから理事長のいじめが始まるぞー。
『さ、お前たちの嫌いな奴を教えてくれー』
理事長がそういうと、先程の奴らが、キュィィィン、と、また派手な効果音を出しながらあの巨体へ戻った。・・・・少女の周りの人だかりがどんな状況であるかは言わずともわかると思う。
ドスンッドスンッ!と、校庭をゆっくり歩きながら、こっちへ向かってくる。近くにいた奴はたってもいられないようだ。
・・・・・。・・・・・・。は?ちょっとまて。
こっちに向かってくる?
ちょ、まてまてまてまて、ストーップ!!!!ええ、こっちをみて何の迷いも無く歩いてきているようですが、まさか・・・・いや、まだ決まったわけじゃない。・・・いまバチッ!と、目があってしまったが、俺じゃない。俺じゃないぞ。
「わー、来ちゃったわねー。下級人かあ。おもしろそうだけど、私じゃなさそうね。」
隣から声が聞こえる。隣を見るといつの間にいたのだろうか、奈津美さんがいた。
「ご愁傷様、雄一君。」
「そんな二ノ宮君のようにいわれても、って、そんな、決定事項ですか!!?」
「だって、もうそこにいるわよ。」
・・・・恐る恐る前を向くと、果たして銀色の羽の生えた馬と、ものすごくでかい恐竜がいた。
「私はここにいると危なそうだから、またあとで、じゃ!」
そう言って走り去ってしまう。でもやっぱり、・・・美人だから許してしまう。
「そ、そんなあ。」
視線を感じる。その正体は言わずとも、奴らである。
「グ、グルァァァァァァー!!」
「ひぃ!」
びびる、これはびびるぞ!
『ほう、これはまた珍しい。』
何が珍しいだぁぁぁぁぁぁぁぁ!
「ぐふっ!!」
なにか強い衝撃が腹を伝った。・・・視界が一瞬ぼやける。・・・少しずつピントの合ってきた目で見ると、目の前には天馬がいた。どうやら蹴られたらしい。・・・・・って、こんなに落ち着いて自分の身に起きている状況を判断できているのだから、もう認めてしまっているのだろうな。
よろよろと無様に立ち上がると、飛竜からの追撃が待っていた。
「グルルルルゥゥゥゥ・・・・・」
もう逃げられるような気力は無い。腹は痛くて動けないし、なにより俺が「アレ」になってしまったのなら、きっとどこにいてもこいつらは俺を攻撃してくるだろう。
轟!という音と共に、熱く赤い炎が頭を掠める。ちりちりと、髪の毛がかすかに焦げる嫌な音がした。だが、この境遇で、髪の毛だけで済んだのは幸いだろう。
『はははっ!愉快愉快!』
・・・何処の殿様だ。
『だがほんとに珍しい。こっちは十年ぶりだぞ。最高下級人なんて。』
最高下級人?・・・ああ、最上級主と似たようなものか。・・・・なんか矛盾した名前だな。
『最高下級人は、オカルト現象だけじゃなく、私生活でも不幸になる。そして、絶対条件 で異世会出席だ。』
嫌・・・だな。オイ・・・・
『いや・・や、本当に今年の・・生はめず・・・いな。期待・・・いるぞ。』
もう途切れ途切れにしか声が聞こえない。
『ま・・・・るんだな。・・・の・・・に・・・・・・・・・・』
バタッ。
俺は痛みとショックでこの時気絶してしまったらしい。
★☆★☆★☆★☆★
翌日。
俺は教師によって家に運ばれたらしい。そのときの記憶は一切無い。気がつくと家にいたという感じだ。
姉は、「へえ、最高下級人ねえ。・・・ウケルwwwww(爆)」だと。・・・このやろ、むかつく。お前がちゃんとこのことを言っておいてくれれば、校庭のど真ん中でぶっ倒れるという無様な姿を晒さんでも良かったかもしれないのに。
寝ているベットの横の机には、手紙が3つ置いてあった。一つ目はあの奈津美さんからだ。黒とピンクの大人っぽい便箋で「大丈夫?まあ、災難ね。早く良くなると良いわね。」と簡潔に書かれていた。まあ、一日(いや半日?)一緒にいただけの相手だ。これだけのことをしてくれるだけでありがたい。良い人だなあ。
二つ目はあの忌々しい理事長からだった。いや、理事長は別に悪くは無いと思うのだが、なんかしゃくだ。内容は、異世会の行う場所とその詳細だったし。
最後は、誰がくれたのか不明だった。名前は書いてなかったが、文章で女の人、としか判らなかった。内容は、「私たち目立っちゃったねえ。ま、これから色々一緒にやることになってくると思うんだけど、仲良くしようね。それじゃ!」と書いてあった。奈津美さんではないだろうし、姉はこんないたずらはしないし・・・・ふうむ、謎だ。
学校へ行くと知らぬ間に人気者になっていた。廊下ですれ違うたびに、ひそひそと何か囁かれているし、新聞部によって作られた新聞には、昨日の最上級主となった少女、如月杏奈と、俺のことが大々的に取り上げられていた。・・・・・居心地が悪い。俺の安らかな高校ライフを返してくれ。
もらった手紙を見ながら異世会を行う場所、資料室という場所へ向かった。
中へ入るとそこは一見、図書室だった。見渡す限り、本、本、本。しかも、普通の教室の1.5倍くらいしかないから、狭く感じる。だが、そのぶん天井は高い。(無駄だと思うが。)
奥へ入っていくと、窓で照らされた机がおいてあった。少し大きめの机に椅子が並べてある。その一番先に、ある人物が座っていた。
如月杏奈。
あの珍しい、ナチュラルネコ耳ヘヤーの子だ。
最初、俺の存在に気付いていなかったようだが、しばらくして俺が近づいてみると、足音に気付いてこっちを見る。
「あ、君は・・・えっと、阿坂雄一君。」
昨日はよく見えなかったが、改めてみると、やっぱりめちゃめちゃ美人だった。
「どうして名前を?」
「ふぇ?・・あ、新聞に書いてあったから。」
ああ、あんなに大々的に取り上げられていたもんな。
「目立っちゃったね・・・」
「そうだな。」
あれ?この人も美人なのに、敬語を使わないことに違和感を感じない。
「手紙、読んだ?」
「え?手紙?」
・・・・ああ!アレはこの人からだったのか。
「ああ、読んだが名前が書いてなかったから誰からかわからなかったが。」
「へ!?うそ!・・・あ、書くの忘れてた。」
そんな大事なものを。テストのときに名前を書かないことと同じだぞ。
「むぅ、ごめんなさい・・・」
ああ!そんな顔でこっちを見るんじゃない。・・・萌える。
「何でこんなところで本なんか読んでいるんだ?」
「今日一年生は自由にしてていいんだけど、教室にいても、どこにいてもみんな見てるから居心地悪くって。それに基本的にここ、異世会に関係ある人しか入っちゃ駄目だから、逃げ込んで、資料を読んでるの。」
ああ、それは良くわかる。しかしえらいなあ。一人で資料を読んでいるなんて。
「あ、自己紹介がまだだったね。私――――――」
「如月杏奈、だろ?」
彼女はびっくりした顔をしている。
「へぅ?何で知ってるの??」
「お前と同じ理由。」
「ああ、なるほど。」
・・・先程から、「ふぇ?」とか、「むぅ」とかおもしろい言葉を使うなあ。わざとなのだろうか。聞いている限りそんなことはなさそうだが。
「よろしく。如月。」
「杏奈でいいよ。こちらこそよろしく、阿坂君。」
「俺のほうも雄一でいいよ。」
「じゃ、雄一君。」
そう言って握手をする。・・・と、
『ピーンポーンパーンポーン♪
理事長からの臨時連絡だ。昨日最上級主と最高下級人になった一年生は至急理事長室へ来るように。以上。』
・・・・なんてやろうだ。また俺たちをあの異様な雰囲気の廊下を歩いて行けというのか。
「・・・行くしかないよね。」
どうやら杏奈も同じ考えだったらしい。
「・・・・しゃーないな。」
早歩きで理事長室へ向かった。
★☆★☆★☆★☆★
「よく来た、ガキ共。」
・・・・なんだこれ。
「いやいや、今年の一年生は本当に珍しい。」
・・・・理事長、おかしくないか?・・・杏奈も俺と同じような反応をしている。
「まあ、おおいに頑張ってくれたまえ。」
なんで・・・・
ツインテールの小学生くらいの女の子がいるんだ?
「何を驚いた顔をしている。」
「いやだって理事長、理事長ですよね?」
「私は私だ。何をおかしなことを言っている。」
「だって、どう見たって小学生・・・・」
「理事長の外見がロリィでは駄目という法律は日本には無かったはずだが?」
「まあ、そうですけれども・・・・」
いくらなんだって、ロリすぎだろ。
奈津美さんの言っていた「可愛い」とは、こういうことだったんだな・・・・
「今回呼び出したのはこんな無駄話をするためではない。」
いや、無駄じゃないぞ。理事長の生態を知るための大事な話だ。
(「理事長さんって、何歳なのかな?」)
(「そこはトップシークレットなんだろ。」)
こんな姿を見たら逆に知りたくない。
「お前たちに見てもらいたいものがあるんだ。だから呼び出した。ちょっと校門まで来てくれ。」
校門に着いた。
「そろそろくると思ったんだが・・・・・あ、来た来た。」
校門の横にある道路からはなんと、黒光りするリムジンがやってきた。
「ちょっと乗ってくれ。」
理事長、いくら稼いでいるんだ。まさかその外見であんなことやこんなことをしているんじゃないだろうな。
「何を考えている、阿坂雄一一年生。」
「なんでもありまひぇん!」
・・・・やばい、噛んでしまった。理事長が痛い目でこっちを見る。そ、そんな目で見るな!
「如月杏奈一年生はもう乗っているぞ。はやくのれ。」
運転席にはグラサンをかけた怪しい人がいる。助手席にも。
「これに乗れってか・・・・」
まあ、グラサンが恐くてちゃんと乗ったが。
ついた所は・・・
「裏山・・・・?」
そう、裏山。
「昨日はなしただろう。ここには時空のひびがある。それを見せに来たんだ。」
といわれても、ぱっとしないが。
「ついてこい。」
いちいち命令口調だなあ。
そうして三十分ほど登った。最初のうち俺と杏奈はここに何があるのか推理していたが、少し経ってくると、やっぱり会ったばかりだからすぐに話題が尽きてしまい、黙って登っていた。
「さあ、ついたぞ。」
ついた?別に何も無いじゃないか。
「よく見ないとわからないぞ。」
そういわれて俺はジトッっとあたりを良く見渡してみる。すると・・・
「なんだ・・・・これ。」
最初わからなかったのは、俺たちの目が見慣れないものだったからだと思う。そこには、
「無」が広がっていた。
無、といわれてもぱっとしないだろうが、本当に無なのだ。何も無いわけでもなく、真っ黒というわけでも無い。何も言いようが無いから、無、だ。
「なんでこんなことに・・・」
これは杏奈の言葉だ。
「十年前はこんなに大きくなかった。石ころくらいの大きさだった。急に大きくなったんだ。これが人知れず広がると、この世界は・・・・壊れる。」
確かに、これはいくら広がっても誰もわからないだろう。気にして見なければ、いつもの風景とそう変わらないからな。
「このままでは本当に危ない。今年のお前たちの組み合わせは珍しいんだ。お前たちの代で決着をつけてもらいたい。」
「決着って、なにに・・・・・・」
「裏でこの世界を占領しているやつに・・・・・」
大スケールだ。どんなに期待されているんだ、俺たち。
「そんな・・・・・」
杏奈はあたまの容量オーバーしていた。
理事長室へ戻ると、資料室の使い方を理事長から教わった。なんか小学生に教わるのはちょっと納得いかないが、仕方が無い。
一通り教わると、「ありがとう」とお礼を言って、杏奈だけ(・・)帰らせた。
「阿坂雄一一年生。帰らなくていいのか?」
「いや、気になったことがあってな。」
先程の説明の中で、理事長に対する俺の敬語は取れていた。
「最上級主が有力なのは分かる。なんせ同時に二人の異世界生物を使えるのだからな。」
理事長が不満げな顔をしている。今の「使える」という表現が気に入らなかったようだ。だが、気にしないで続ける。
「だが、俺の最高下級人はどう有力なんだ?逆に足手まといなだけだろう。」
俺の言葉に理事長はほっと息をつく。
「お前が頭のいい奴でよかった。このまま帰っていたら私は見放していただろうな。」
なんか意味深だ。というか誰でも気付くだろう。
「やはり陽菜の弟だけはある。」
「っ!なんで姉貴を・・・・」
「本人から聞け。私は今そんなことを話してはいない。」
「・・・・」
「これから最高下級人の話をしよう。よく聞け。」
俺は最高下級人の説明を聞いた。が、その内容はまた別のときに話そう。
やっと本題に入ったって感じです。
この調子だと終わりまで一体何話になるのやら・・・・
末永くお付き合い願います。