1-第3章 最上級主(ベスト・コマンド)
そうそこにいたのは――――――、
翼の生えた銀色の長い髪を持つ人――――――――――
RPGに出てくるような、あの、妖精のような感じの―――――――――
ありえない。その一言に尽きる。
百聞は一見にしかずと先程理事長が言っていたが、こんなもの見せられるとはさらさら思っていなかったぞ。
あれが、異世界生物・・・・・・・・。
ま、まてよ。まだあれが人間じゃないと決まったわけじゃあない。マスクとか、衣装とか、または特殊メイクか。(←これはこんな田舎の高校のちっさな行事に使われるものじゃないと思うが。)頭のおかしくなった連中(先輩)が理事長に洗脳でもされてしまったのだろう。可愛そうに。
一年生の中にはとうとう奇声を上げ始める奴まで出始めたぞ。・・・・ああ、こうやって頭がおかしくなっていくのか。俺も・・・・嫌だなあ。俺は永久に普通の人でいたいよ。
『どうだ、これで信じる気になっただろう。はーっはははははは。』
今はお前の頭に疑問を持っているぞ。
『・・・・・なんだお前たち、そのやつれた目は。!ここまできてまあーだ信じられんのか。むうう。そうだな・・・・・』
すると、スピーカーからなにやら呪詛のような言葉が垂れている。・・・・理事長、あなたはそこまで・・・・。
「#$$%&~☆$#▼%○◆~¥@*・・・・・・・・・」
これは理事長じゃないぞ。先程の妖精っぽい人から発せられた音声だ。言葉じゃない。断じて、言葉なんかじゃない。
妖精は、急にパチンと指を鳴らすと、翼を動かした。体育館の中で風がおきる。
そして・・・・・・。
へ?
浮いた。
妖精が浮いた。
翼をはためかせ、2メートルくらい空中へ。ワイヤーを使っている様子は無い。
嘘・・・・だろ?
すると今度は浮きながらパチンと指を鳴らした。そしてその鳴らした指を俺たちのほうへ・・・・・。
パイプ椅子が、とてもファンタジックな花で埋め尽くされた椅子になった。
背中からものすごい勢いで冷や汗が出ている。
ありえない・・・・といいたいところだが、こんなものを見たら、否定の仕様が無い。一年生は全員唖然とした表情だ。そりゃそうだが。
『やっぱすごいなあ。自然と秩序を司る妖精、それが彼の名だ。よろしくしてやってくれよぅ?新入生。』
やはり妖精か。それにしても、こんなファンタジーなことが本当にこの世にあるとは。
グアアァァァァァァァァァァァ!!
後ろのドアから、この世のものとは思えない叫び声が聞こえてきた。全員、びっくりして振り返る。
振り返るとそこには、これまたこの世のものとは思えない姿をした生き物がいた。
人型の者、動物のような形をしたもの、言葉では表せない、異様な姿をしたもの。この世のものに似ているものもあったが、絶対にありえない部分があった。
『さあ、この世を守るため、主となって、こいつらと共に戦ってもらおう。』
こまんど?
『異世界生物の主のことを、コマンド、という総称で呼ぶ。そして、この学校には、異世界について書かれた書物が多い。それを使い、異世界生物を退治する主の会、「異世界生物統率主下会」略して、異世会だ。』
なんじゃそりゃ。聞いているこっちは、「会」だか「界」だかほとんど解らんぞ。
『主となったものは、その異世会に参加してもらう。世界の平和のため、おおいに頑張ると良い。』
なーんかスケールのでかい話で未だ半信半疑だが、主になっちまった奴は災難だな。高校生活捨てたようなものじゃないか。
『主の選ばれ方は簡単、異世界生物たちに、プラスの力の強い者を選んでもらう。プラスの力の強弱は、異世界生物じゃないと判らないからな。あるアクションをおこせば、なんとラッキー、お前は主となるのだ。』
別にラッキーでもなんでもない。
『一学年、二人の異世界生物が憑く。ほとんど一人に一人憑き、学年で二人の主が出来る。全校で、六人だな。』
ほう、異世界生物のことを「人」で数を数えるんだな。それにしても、憑くという字、これであっているのか?・・・・なんか怖いな、オイ。
・・・・・・? ちょっとまて、体育館の中にいる異世界生物は、全部で「四人」しかいないぞ?足りないじゃないか。
『さっそく、主決めを始めようと思うのだが・・・・・・・ちょっとな、新入生だけ特別なんだ。手数をかけるが、校庭へ出でほしい。』
そう言って、教師の誰かが校庭へつながる扉を勢いよく開けた。
そこからは一瞬だった。半数は混乱、半数は興味(または頭がおかしくなったか)で、流れるように、校庭へと走っていった。それもそうだ。急に世界を見る目が変わったんだ。ものすごい興味が湧き出てもおかしくは無い。
『ちょっとでかくて、体育館には入りきらなかったから、校庭でやってもらう。』
校庭へ出ると、入学式始まる前までは、快晴でお日様超ピカンピカンだったのに、急に曇ったのだろうか。なんか薄暗い。でも、向こうの方の空は、晴れているようなのだが・・・・
『降りてこい、飛竜、天馬!!』
すると急に空が明るくなったかと思うと、ドシャン!という音と共に、砂煙が起きた。目の中に砂が入り、よく見えなかったが、そのときは丁度砂煙が舞っていたので、どうせ見えなかっただろう。
しばらくして見えるようになり、先程の砂煙を起こした原因を探した。いや、探す必要は無かった。目の前に堂々としてこちらを見下ろしながら立っていたのだから。
鱗と羽のある恐竜もどきと、これまた羽の生えた銀色の馬がそこにいた。
銀色の馬は、毛並みは普通の馬とは比にならないくらい綺麗だったが、大きさもものすごくでかかった。
体は普通の馬の倍はあるだろうし、その両翼は片方だけで、その倍ある体の三倍はあった。人間が何人乗れるだろうか。羽を広げて端から端を測れば、校舎の半分はあるんじゃないだろうか。こっちがたぶん、天馬だろうな。
そしてもう一匹、飛竜と呼ばれた物体・・・・いやもう、生き物かどうかは見ただけではわからない。一応動いてはいるから生きているんだけれども、見上げても、頭がかすかに見えるくらいの大スケールすぎて、何が何だかわかったもんじゃない。
緑の鱗で、羽は空を覆い、羽は半透明だから日光が淡くなって地上に降りてきている。
「こんなのの主様かよ・・・・」
呟かずにはいられなかった。
『さあ、ガキ共から選んでもらおうか。異世界生物共。』
グォォォォ・・・と何か不機嫌そうなうめき声を上げていたが、二人とも辺りを見回してないかを探しているようだ。
『余談だが、新入生の異世界生物は去年の卒業生のお古だぞ。』
去年の卒業生?じゃあ・・・
「姉貴!?」
何でこんな大事なこといってくれなかったんだああぁぁぁぁ。
そんなこんなしていると、奴らがいっせいにある方向へ向いた。
俺のほうじゃない・・・よかった。
そして急に奴らはその方向へ走り出した。
文字どおり・・・・・走り出した。
あんな巨体が二人も走っているのだから、蟻んこのこちらにとっちゃあ、たまったもんじゃない。あーあーあーあー。吹っ飛んでくよ。蟻んこ共が。俺は丁度反対側だったからよかったが、あの漫画のように人が飛んでいく情景を見ていると・・・ぞっとする。幸いにも死んだ奴はいなさそうだから良かった。病院送りもいなさそうだし。新学期初日から保健室は満員だな。
奴らは無残にも散っていった奴はよそに、ぴたっ、っと立ち止まった。
好奇心に駆られる俺は、近くに行ってよく見てみたいがこの地面に散らばっている残骸を見るとちょっと引いてしまうがそれでも・・・・と、苦悩した結果、・・・・好奇心には勝てず、残骸の間を恐る恐る歩いて近づいた。
奴らの目線の先には、・・・美少女が一人いた。先程の奈津美さんは綺麗な美人さんだったが、こちらは可愛い美人さんだった。
整った顔立ちもそうだが、第一印象は、「猫っぽい」だった。なぜなら、寝癖だかくせっ毛だか判らないが、頭の上のほうの毛がピョンピョンと二つたっているので、(光っていないからワックスではないだろうし。というか、好き好んであんな髪型にはしないだろう。だから)ナチュナル猫耳ヘヤーというわけだ。こんな髪型の人いるんなだあ。
残念ながら大きく綺麗にすんでいる瞳は目の前の恐怖の物体によって、涙が浮かんでいた。
奴らはジトっと彼女を見つめていたが、しばらくして、淡い光を放ち始めたかと思うと、グニャっと、粘土のように崩れはじめた。
「!」
天馬はぐにゃぐにゃっと原型はもう既に無かった。かと思うと、円盤状になり、金色の模様(?)が浮き出してきた。持ち手(?)もあるところを見ると、これは・・・「盾」だろうか。先程の巨体がこんなに小さくなってしまうことにびっくりだ。
もう一方の飛竜は、長い二本の牙が解けて融合し、一本の銀色に光る刃になった。と思っていたら、あっというまに体が縮み、口から刃が出ているような形になった。いわゆる、「剣」というやつだろうか。だがこれは先程の少女の背丈の半分以上はある。
しかし彼女は迷った末にそれらを軽々と持ち上げた。あの華奢な体では到底無理に思えたが、意外だった。彼女自身も驚いている様子だ。
『ほう、他の学年は去年と同じ四人だったからつまらなかったのだが、こっちは面白いことになっているな。』
確かに、今のがアクションというものならば、一人に異世界生物二人が憑いたことになる。
『本当に珍しいのだが・・・そういっても三年ぶりか。異世界生物二人に好かれるプラスの力が強い奴のことを、最上級主といって、これは良いものでな、最上級主である一年間、まあ、主のそうなのだがそれ以上に異世界生物に襲われにくくなるし、私生活でも少し幸運になるんだぞ。喜べ。』
まあ、それは少し良いかもな。しかし・・・・・・。
『これから一年間、異世会での成果を期待しているぞ。えっと・・・如月杏奈一年生。』
可愛そうに・・・